ファイル02 受験生たちがやってきた。
やっと二回目です。
今回からいろんな自殺志願者たちがやってきます。
「うう…ボクの人生はオシマイです。。」
「人生に絶望しました。。」
「…あのね…18歳で人生を語らないでくれる??(-ω-)」
「…もう…将来は真っ暗です。。」
「きっとこの先いいことなんか…」
「…あのね…未来ある若者が何言ってるの??(-ω-)」
まったく若い身空で。(-_-;)
毎年この時期になるとこのテの若者がやってくる。
ちなみに彼らは…受験生です。。
大学に落っこちてここに来たってわけです。。
随分と軽い動機だと思われるでしょうが…
若者がここを訪れる理由なんて大体こんなモンです。
今の不幸が人生全体においてどの程度かなんて、
判るだけの知識も人生経験もないのだから。。(・_・;)
ここは県庁の自殺課。私は所長の叩一人。
…詳しくは第一話を読んでください。
ちなみにお気づきかもしれないが今は三月。
どれだけ暖かろうが桜がどうなっていようが…三月です。
しかもうちの管轄には大学が多いんです。
だから今は書き入れ時というか…繁忙期なんです。
まったくこんな部署でさえ年度末は多忙だとは…
公務員も因果な職業だと自分でも思うよ。
『どうしますか?叩所長。
私はこんな大人数を捌いたことありません。』
「…そうだな永井主任。ならばとりあえず…
ここは全員帰ってもらうことにしよう。」
『はぁ??全員ですかぁ??』
「だってコイツら苛立ってるから。
一部だけ受け付けたりしたら何を言われるか…」
しかし当然…誰も言うことを聞かない。
「ええ!どういうことですか!?」
「死なせてくれるんじゃないんですか!??」
「責任者を出せ!!所長はどこだ!??」
…ああ、面倒くさい。。(*_*)
この仕事で一番厄介なのが子供なんだ。
大したことのない動機で死にたがるのもそうだけど…
とにかく言うことを聞かない。。
というか大人が覚悟の上で来ているのに対して…
子供は我儘勝手に来る者が多すぎ!!
「うるさい!ガタガタ騒ぐな!!
どうせ死ぬなら…しばらく死ぬ気で生きてみろ!!」
「そんな…意味がわかりません。。」
「とにかく少しだけ待て!!
来週の金曜日、13時に集合しろ!いいな!!」
「…そしたら…成就させてくれるんですか??」
「ああその代り…絶対に無断で死ぬなよ。。
それだけは約束しろ、いいな!!」
「…はい。。」
ちょっとだけ脅して帰ってもらって、
ようやく一段落ついたけど…
あれをまたやらねばならないんだな。。
毎年恒例の…あれを。。(-ω-;)
しかし…マヌケな話だよな。。
死にたいヤツに死ぬ気で生きろとか。
死ににくるヤツに他所では絶対死ぬなとか。。
だがとにかくも翌週の金曜日13時。
20名ほどの大学受験失敗者が集まってきた。。
思ったよりは素直なようだな。(^。^)
誰一人として他所では死ななかったんだから。。
「ではこれからは匿名で呼ぶぞ。
なにせ本名を出すと何かと都合が悪いからな。。」
「はぁ…そんなモノなんですか??」
「キミはA君、キミはB君……キミはT君でいいな。」
「…いいですけど…」
「では仮名と年齢と…
落ちた大学名を名札に書きなさい。。」
これが…意外なほどにバラバラなんだ。
国立の有名校から私立の三流大まであるんだから。
『あの叩所長…こんなの聞いてどうするんですか??』
「永井主任は初めてだった??実はこれが役に立つんだ。
このバラバラという部分が特にな。。」
というと私は…おもむろにA君に聞いた。
「なあA君。B君はあの有名国立大を受けたそうだぞ。
だったらキミの受験した●●大学なんて…
私立の二流大学など楽勝だろうな。。」
「な…何が言いたいんですか??」
「なのにB君は死にたいそうだ。どう思う??
●●大学に合格すれば幸せだと思えるA君としては…」
「な…俺をバカにしてるんですか!??」
A君は当然のように反論するが、
私は無視してさらに続ける。。
「ではA君はC君についてはどう思う??
彼の第一志望は▲▲大だって。キミなら楽勝じゃない??」
「当然です!!どこまでバカにするんですか!?」
「ならばなぜ▲▲大学を受けなかった??
合格してたら幸せだったんじゃないのかな??」
「そ…そんなはずないでしょ!▲▲大で満足できるわけ…」
「てめぇ…バカにしてるのか!?」
「なんだと!!だってバカじゃねぇかよ!?」
さすがにC君が怒った。
A君と取っ組み合いになりそうだけど放っておこう。。
どうせ死ぬつもりなんだ。
多少のケガなんてどうってことないって。。
「なぁB君。あんなA君をどう思う??
●●大も▲▲大も楽勝のキミとしては??」
「…A君にC君をバカにする資格はないかと…」
「ではなぜキミは●●大を受けなかったんだ??
二年も浪人して有名国立大にこだわるのはなぜだ??」
「……」
「ではあらためてA君に聞こう。
キミはB君やC君の合格ラインをどう思う??
高すぎるとか低すぎるとか思わないか??」
「…そう思います。」
「だがキミの合格ラインも客観的には同じ。
キミは他人の価値観と同時に自分の価値観も
否定したんだよ。理解できたかい?」
「…それは…わかりますけど。。」
そして私は全員の前でこう言った。
「なぁみんな。隣の人を見てみなよ。
みんな勝手に自分の合格ラインを決めてるだけだろう。
超えたか超えないかなんて小さな問題。。
そんなか細い線を勝手に引いているだけさ。。」
自殺志願者たちは周りと顔を見合わせた。
あまり納得していないようだが…
ここはあえて続ける。。
だってこれが自殺課のマニュアルだから。。
「あとな…受験なんて所詮は試験なんだ。
試験は自分の実力を試す場でしかない。
試した結果、自分の力は思うほどではなかった。
ならばとるべき手段は二つしかあるまい。」
「二つ…ですか??」
「そう、自分の実力として結果を受け入れるか…
自分の努力不足を受け入れるかのいずれかだ。
前者なら素直に合格ラインを下げるか目標を変えろ!!
後者なら…来年こそ本気で努力しろ!!」
…自分でもいいことを言ったと思う。。
ようやく少しずつ納得するものが出てきた。。
もっともこのセリフを言うのは五年連続なんだ。。
そりゃ上手く言って当然だな。。<(`^´)>
今年も…自殺志願者をかなり減らせたようだな。。
でもおかしいのでは??
たしかこの部署の目的は自殺志願者を送り出すこと。
自殺者を減らすことではないはず、、
そんな時、一人の若い男が飛び込んできた。。
「俺を死なせてください。叩さん!!」
「ええとキミは確か…山田くん。。」
「そうです。四年前に受験に失敗した山田です!!」
「それがなぜ今頃になって再び??」
「実は…就職が決まらなかったんです。。
あの時、叩さんのアドバイスことを聞いて、
目標を下げて三流大学に行ったのですが…
その大学からではまともな就職先はなくて…」
「しかし…(-_-;)」
「結局…うまくいかないんですよ!!
妥協したツケはどこかで回ってくるんですよ!!」
「(学生)ええっ??そうなんですか!??」
「そうだぞみんな!!ここで妥協して生き延びても…
その先はきっと辛いだけの人生だぞ!!」
「…(´゜д゜`)」
あらら…こりゃぶち壊しだ。
何てことしてくれるんだよ山田くん!!(>_<)
親の顔が見たいよ。。
だってせっかく説得した若い自殺志願者たちは、
改めてその多くが死を決意したんだから。(´・ω・`)
結局…その日のうちに山田君くんと、
二浪のBくんの二名が逝ってしまった。
まったく若い身空で…
仕事とはいえ辛い役回りだよ。。(;_;
でも…本当の問題は実はここから。
本当は私が何を嫌がっていたかというと…
未成年者の自殺には保護者の承諾が必要っこと。
保護者相談に立ち会わないといけないってことだ。
これがまたいつも修羅場で…
めんどくさいったらありゃしない。。
『なんザマスか!?あーたウチの子を殺すザマスか!?』
「…いや。お子さんが勝手に来たのでして…(-_-;)」
『…連れて帰るザマス!!連れて帰るザマス!!』
「…はぁい。。好きにして下さぁい。。(-ω-)/」
『ざます!!ざます!!ざます!!!』
「……(;´Д`)」
・・・・・・・・
「ああ…今年はうまくいくと思ったのにな。
またしばらく残業。よろしく頼むよ永井主任。」
『…別にいいですよ。
どこの部署もこの時期はそうなんですから。。』
「…でもまったく妙なもんだ。。
役所特有の年度末のバタバタが嫌でこの部署に
やってきたってのもあるのに…」
『どこだって年度末は同じですって。役所も…民間も…』
…まぁ…そうだけどな。。
3月に入ったこの時期に暇な部署なんてどこにもない。。
受験に成功しようが失敗しようが…
就職に成功しようが失敗しようが…
勝ち組になろうが負け組になろうが…
日本人として仕事をする以上は、
ここにいちいち文句なんて言ってはいられない。
それが働いて一人前に生きるということだから。
…とはいえ早く片付けないと。(-_-;)
なにしろ再来週には…
公立高校の合格発表が予定されてるんだから。。
年度末で仕事が多忙な時期に原案を書きました。
てなわけでこんな内容に仕上がりました。
感想お待ちしています。
あと200コンというコンテストに短編を出してます。
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