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ファイル15 人権派がやってきた

今回の相談者は自殺志願者ではありません。

自殺課にとってはその…厄介な存在です。

「…うう。死なせてください。。」


『何があったんですか??』

「…あいつらバカにしやがって…

 俺のこと何もわかっていないくせに…」


『…はい。じゃぁ逝ってください。』

「えっっ??何があったか聞いてくれるんじゃ…」


『…もういいですよ…

 どうせくだらない理由でしょ。はい次の人ぉ。。』

「ちょっと…これで俺の人生おしまい??

 …そんな殺生なぁぁ!!」



 ここは県庁の自殺課。私は所長の叩一人たたきかずと

 …詳しくは第一話を読んでください。



 さて先日の武山さんの一件以来だけど、

 わが自殺課は以前よりその…仕事が早くなった。


 その理由は、相談者を判断する基準ができたこと。


 これまでは誰にでも同じ対応だったのに対し…

 最近は人となりを見ることが増えたからだ。



 その基準というのを簡単に言うと、、


 人生の意味を考え直せそうな人には複数人で対応する。

 視野の広さゆえに生きにくい人には丁寧に。


 逆に自省できなさそうならば事務的に送り出す。

 視野の狭い人には簡素に…

 

 所長の私が指示したわけではないんだけど、

 永井主任以下、メンバー全員がそういう対応になった。



 あと…そうしないといけない理由もあるんだ。


 以前にも書いたど、ウチの相談件数は増える一方なのに、

 常勤職員は相変わらず私と永井主任の二人だけ。


 効率よく対処しないと捌けないんだ。。



 とはいえ今は四月…


 特に自殺課ができてからというモノ例年は

 比較的ヒマな月だったはずなんだ。。


 …というのも三月頃に自殺を考える人が多いから。


 受験の失敗とか人事異動への不安とか…

 環境が変わることで相談が増える時期だったけど…


 四月には一段落がついていた。。


 というのも三月頃に自殺を考える人が多いから。

 受験の失敗とか…人事異動への不安とか…

 環境が変わることで相談が増えるだけだから。


 そこで一段落がついていたんだ。。


 そこで自殺を踏みとどまった人も新しくなって

 しまえば大抵はそこに馴染んでしまう。


 仮にそれができなくても、

 自殺課に再来するのは五月病になってから。


 なのに最近…その傾向が変わりつつある。

 その理由と言うのが…



「おい叩!!ウチの相談者が来てないか!?」

「…またお前か、左。…毎年この時期に迷惑な…」


「お前…迷惑とは何だ!! 

 人の生き死にがかかった一大事だぞ!!」

「あのな…ウチはそれが仕事なんだよ。。

 いちいち大袈裟に騒いでられるかってんだ。。」



 こいつ…左正義ひだりまさよし

 私と同期の元県庁職員で、現在は市議会議員。。


 優秀な男で同期の出世頭だったのに、

 いつの頃からか人権思想にはまってしまい

 役所を辞めて政治家に転身した男。。


 そして数年前、議員活動の傍ら

 NPOの自殺防止センターの所長になった。


 で…彼らが三月の自殺防止強化月間で対処した連中が

 四月になるとウチに流れてくるってワケ。。


 まぁ流れてくるだけならいいんだけど。。


 人権派というのはいちいち仕事を

 複雑にするから困る。。(`・ω・´)



「それで…鈴木さんという人なのだが…」

「…来てたよ。ついさっき家族に引き取ってもらった。。」


「なっ!?またお前はウチの相談者を殺したのか!??」

「左お前なぁ…人聞きの悪い言い方をするなよ。。

 それに鈴木さんは成就してない。。

 あんな意志薄弱では生き死にの判断はできないって…」


「よかった…本当に良かった…

 これで俺のしてきたこともムダにならなかった。。」

「あのな…まだ何も解決してないと思うぞ。。

 お前も少しは自分のしたことも後先を考えろよな。」



 …そう。これこそが自殺課の悩み種。


 元々、自殺防止センターが自殺課を疎んじるのは知っている。

 だって彼らには自殺課が人殺しに見えるらしいから。


 けど我々にも、自殺防止センターはイヤな存在なんだ。

 彼らが自殺者を減らしてくれること自体はいいのだけど…


 その多くは、こじらせるか勘違いをするから。。



 …さっきの鈴木さんも拗らせた一人だ。


 先日、心を病んで自殺防止センターを訪れたところ

 <死んだらダメ>の一点張りの対応をうけてしまい…


 強度の精神薄弱状態になったらしい。。


 けど、そうなってからウチに来られても対応できない。

 意思表示ができなければ役所は処理できないから。


 なのに自殺防止センターから来る人の多くが重篤状態。。


 一人当たりの対応に時間と労力がかかりすぎる。

 しかも…



『…叩所長。また代理人が来ちゃいました。

 本人は意志薄弱だけど弁護士が書類を書いちゃって…』

「もう…そのまま処理してよ永井主任。。」


「なんだと叩!!本人の意思は確認したのか!?

 自分の意思でないのなら、それは自殺課の管轄外だぞ!!」

「…後見人は法的な意思表示になるよ。

 まぁ心情的には俺も左に賛成だけどな。。」


「じゃぁなぜ…お前はあの人を殺したんだ!?」

「…殺すなんて言い方するなよ。。

 それが俺の仕事。公僕が法に則らなくてどうする??」


「…ちっ…酷い仕事だな。。」

「…ああ。…因果な仕事だよ。。」



 だが…お察しの通りだ。

 水と油のはずの自殺課と人権派ながら…


 我々二人の関係は悪くはない。( ^ω^ )

 なぜなら…


 左が真っ当な人権派だから。。


 一部の人の利益のために屁理屈を並べるエセ弁護士や、

 弱者を装って公金にタカるプロ市民は相手にしない。


 本気で人を護ろうとする真摯な人権派だから。


 …だけど人権派の看板を掲げる以上、

 こうしたエセやプロの人権派とも関わらざるを得ない。


 我こそ正義と思い上がるエセ人権派を

 味方として扱わないといけないんだ。。


 そして強化月間ともなれば…

 彼らの手を借りざるを得ない。


 だって自殺防止センターはボランティア。

 相談者になりたい者を断ることはほとんどない。


 つまりプロやエセや思い上がりは…防げない。



 …今日は幸い客も少ない。。

 だから俺は通常業務を他のメンバーに任せて…


 左を応接室に招いて議論することにした。

 そして大体いつもと同じような会話になる。。



「叩…お前はいつまでこんな仕事を続けるつもりだ??」

「…こんな仕事ってなんだよ??

 俺らがどれだけ税金の無駄を減らしてるか知らんのか??」


「…金だけの問題じゃないだろう。

 人の命は地球より重いって知ってるのか??」

「…そんな戯言を本気で言ってるのか??

 たかが人間がそんな特別な存在であるわけがない。」


「…でも俺は議員でもあるから。。

 困っている人は救う。もちろん人命は最優先だ。。」

「…それなら俺は公僕だ。公のために働く。

 弱い人間だけを救って普通の人間を困らせるな。」


「…議員だって公僕さ。だが…政治は弱者のためこそだ。

 仮に強者に不利益を課してでも弱者の権利は守るべきだ。

 目の前の者の命すら救えずに何が公僕だ??」

「…権利ばかり主張しすぎだ。。

 弱者の権利のために一般人にシワ寄せして何が公僕だ??

 強者は努力して成功したからこそ強者なんだぞ。」



「…だが自殺課はやりすぎだ!!

 何をおいても命と人権を守るのが第一義だろう!!」

「それはわかる。…だが勘違いはさせるなよ。。

 キミは悪くないとかたった一人の特別な存在だとか…

 愚者や怠け者をそのまま認めてどうする??」


「…それは一理あるとは思う。。

 でもそれで人命が救われるのなら仕方ないだろう…」

「…命と人権は大切だ!!

 だが第一義と決めつけていては話にならないぞ。

 ウチの客の多くにはそれ以上に大切なモノがある。。」


「…命より大切なモノなんてあるか!!

 一時の辛さに耐えかねて生き急いでいるだけだ!!」

「だからこそ自殺課にも基準ができつつある!!

 生きて世の役に立てそうな人は救おうとしているよ。。

 だが自省もできない役立たずや怠け者や…

 お前らが拗らせた連中はどうしようもないんだ!!」



 …さっきも書いたけど、だいたいこんな感じ。

 いつも同じ繰り返しだけど幸いなことは…


 左が他人ひとの話を聞ける男だと言うことだ。。


 コイツが管轄の自殺防止センターにいるのは幸いだと思う。

 だって左翼や人権派には人の話を聞かず、

 自分が正しくて相手は間違っていると信じて疑わない

 話にならない輩が極めて多いから。。


 もしそんな偏屈者が自殺防止センターの代表なら…

 自殺課との意見交換は絶対に不可能。。


 実際に自殺課の所長クラスでさえ、

 人権派と話した機会がない者は少なくない。。

 

 これは…とても勿体のないことだと思う。。


 意見が異なるからこそ学べる膨大な思考に

 触れる機会さえないんだから。



 そんな話し合いの続く業務終了間近の時間…

 またあの怠け者が来てしまった。

 


「やぁ。また来ましたよ。」

『来たか。。貧田ぁ。。』



 やってきたのは…あの貧田さん。


 自殺課や世間一般には害虫のような男だけど、

 人権派にとっては大好物な存在。


 我々がもっとも扱い難いタイプの男だ。



 ちなみに貧田さんを一言で言えば…


 借金を返さずに自殺による免責を謀り、

 その罪で刑務所を常宿にしているロクデナシ。


 そして…永井主任の天敵。。(ファイル12参照)


 …だから今回は準備をしてたんだ。。


 貧田さんがどこで借金したかを調査して、

 次ここに来たら屈強な借金取りを呼ぶ手配を。


 どんな手を使っても取り立てさせるため…



 こうして貧田さんは哀れにも、、

 借金取りに拉致同然に連れ去られてしまった。


 けど人権だとか弁護士を呼べとか泣き叫んでるのに…

 人権派にとっては許し難い状況のはずなのに…

 私でさえやりすぎではと思ったのに…



「左お前…なぜ黙認してくれたんだ??」

「…なんのことだ??俺は何も見ちゃいないぞ。。」


「お前なぁ…あの男がどうなるかは想像がつくだろう??

 人権派として何とも思わないのか??」

「俺は人権派だが…公僕でもあるんだからな。

 公共の利益に反する者にまで権利権利とは言わないよ。。」


「だが…公僕は法に則るべきだと言っただろう??」

「はは。。それを言うなら叩だって法に則る公僕だろう??

 …借金取りが金を回収するのは当然。

 …自殺課を門前払いされたあの人に詐欺は適用されない。

 この場では誰も道を外してないんだから。。」



 そうか…そういうことだよな。。


 自分の掲げた看板に沿うことだけが意思ではない。

 法律違反はダメだけど、無視して抗うは一興。


 左にはそれができる器量がある。。


 こういうのがきっと話のできる人。

 意思を持った思想家と言えるんだろう。



 ならば俺もあらためて考えなきゃならない。

 左の主張する命の価値、、


 そんな命をどう活かすのか…

 またどう逝かせるのか…


 たとえ不幸と不遇しかない境遇でも

 世間的にはマイナスにしかならない存在でも…


 生き続ける権利があるのは確かだからな。



 俺たちはまだ議論を続けるべきなんだ。。


 そんな話相手がいる幸せ…

 少々面倒でもちゃんと受け止めるべきだな。。




自分と異なる考えの人と話し合うこと。

認め合うことは大切です。


でもそれには譲り合うことが肝要。

自分の主張しかしない人との議論は不可能。


右翼も左翼もマスコミに出てる人の多くは

まるで滅茶苦茶でお話にもならないけど、

右翼にも左翼にも優秀な思想家は少なくない。


真摯に考えてる人ってのは本当に柔軟で、

話し合える人がたくさんいるのもまた事実なんです。。


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