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ファイル14 考える人がやってきた

前回の続きです。

おそらくこれまでで一番難しいテーマです。


ちょっと難解な内容ですが…

できるだけシンプルに書いてみましたので

何度か読み返していただければ幸いです。


『あの…来てしまいました。。』

「…武山さん。…その純白のドレスは??」

『はい。今日が最期になるかもしれませんから…』



 この人。武山雄大さん。

 一見すると女性だけど実は23歳の男性だ。


 ここは県庁の自殺課。私は所長の叩一人たたきかずと

 …詳しくは第一話を読んでください。

 武山さんについては…第十三話を読んでください。



 ここに来る人の多く目的は…成就すること。


 我々の仕事は彼等を送り出すこと。

 この武山さんもその一人なんだけど…

 昨日は保留にして帰ってもらっていたんだ。


 そして今日はこんな真っ白な格好で。

 その目的は…明らかだ。。

 


「その服装は…装束ですか??

 ならば覚悟は決まってるってわけですね。。」

『はい。。もうとっくに…』


「…ならば少し話をしませんか??」

『いいですよ。急ぐ理由もありませんから…』


「…ウチの職員とも話してもらえますか??」

『…止めるつもりでしたらお断りしますよ。。』


「…そうではありませんが後学のために…」

『まぁ…いいですけど、、』



 自殺課にはたまに…こういう人が来る。。


 日常的に自殺者を見送っている我々でさえ

 そのように思える人が…


 死ぬべきでないと思える人が。。



 だから今回は…総力戦だ。


 まずはウチのメンバーの永井主任。

 ただこの人は通常業務をこなしてもらわねば…

 次にスタッフの伊野さん。

 だけど今日は引き籠り課に勤務する日。



 …というわけで…

 説得の主力はボランティアの大沼さん。

 そして小池恵さんも来てくれた。(^o^)



 こうして集まったところで、

 一通り武山さんに話をしてもらったんだ。


 生きにくい現実…

 なのに自分の生き方を世間には押し付けられない。


 世間を謀っている背徳感…

 なのに世間に恩返しできるほど何もできない。

 結婚も子供もない。跡取りにもなれない。


 だから…生きていることに疲れたと。。

 


 傍で話を聞いていた永井主任は昨日の私と同じ。

 あまりピンときてないみたいだ。


 だが…それこそが普通の反応。。


 なぜそこまで世間を気にするのか…

 なぜ自分の生きたいように生きないのか…


 そんな風に世間に理解されていないことが

 更に武山さんを生きにくくしている。。



『でも…なぜそうなると思う??』

『小池さんでしたね。答えがあるんですか??』


『答えとまではいかないけど…

 世間に理解してもらえない理由の一つはね。。』



 なぜそうなるのか…

 小池さん…昨晩の話を纏めてくれていた。。


 …世間を見る方向は二種類あるって話を。。



 一つは自分から近い方を大事にする人。


 家族・恋人>仲間>組織>社会・国>世界…

 って感じの価値観。。



 つまりこういう人は…家族や仲間のためには

 社会のルールや公の常識はどうでもいい。

 同じ考えの者の意見だけを正しいと思いこむ。


 さらにもっと狭小になると…

 自分と恋人・血縁しか見えなくなる。

 周囲の人や社会、職場の都合なんか考えない。

 だから平気で愚かなことを言っちゃう。


 『どっちの味方なの??』とか…

 『仕事と私とどっちが大事??』とか…



 そしてもう一つは…その真逆。


 常識・道徳>社会・国>組織>仲間>家族・恋人…

 って感じの価値観。。



 こういう人は…倫理や常識が最優先。

 解決できない不都合があればまず自分が泣く。

 それでもだめなら家族や仲間に泣いてもらう。

 世間に迷惑をかけるのは…最後の最後だ。


 例えば仕事と家族の都合が重なれば…


 …まずは自分が身体を壊しても両立を目指す。

 …それでもダメなら家族や仲間に我慢させる。

 だから平気で言っちゃうんだろうな…

 

 「…我慢してくれ」って。。


 だって家族にもかけたくない迷惑なんて

 世間には絶対にかけられないから。。



 そしてこの論理を理解できていないと…

 互いが互いを我儘と見てしまうことになる。。



 家族や仲間に「我慢しろ」なんていう人は

 狭小な人には我儘に見えるらしい。。


 だって狭小な人とっては他人はどうでもいいから。。

 つまり家族や仲間に我慢を強いる理由は…


 自分自身のため以外にはないという考えだから。。


 

 だけど真逆な人から見れば…

 家族や仲間しか見ていない人が我が儘なんだ。


 だってそれは…我等われらままそのものだから。



『…そうですね。よくわかります。。』

「わかり…ますか??」


『…だってそれが私たちの世代の風潮ですから。。

 ずっと自分が大事って教わったせいで、

 前者の考え方の人が増えたって思うんです。。』


「なるほど。だから武山さんのように

 自分よりも他者を優先する人は生きにくい。

 理解もされないってことですね。。」

『きっと…そうなんでしょう。

 今の世界は私がいるべき場所ではないのかも。。』



 たしかにそう考えると…

 その生きにくさがよくわかる。。



 おそらく人間は…特に日本人はそうやって

 世のため人のためって生きてきたはず。

 それで献身や思いやり、絆が発展してきた。


 でも近年…それが逆転しつつある。。


 自分だけが大切。仲間のためだけに生きる。

 だから見栄や虚栄が発展して…


 つまり本来、自分が生きやすい世界とは

 みんなが生きやすい世界ではない。


 今は自分だけが生きやすく、

 世間に生きにくさを押し付けるのが常。


 だからその心苦しさに耐えられなくなった人は…


 ≪いるべきでない≫という結論に至るんだ。

 


 そこまで分かってしまった人に説得は難しい。。

 私は小池さんと顔を見合わせるしかない。


 でもさすがは年の功だ。

 大沼さんだけは…解決法を知っているらしい。。



「なるほど。キミの考え方はよくわかったよ。

 私らの世代はまだその風潮は残っていたから。」

『…分かっていただけましたか。』


「ただな。キミはまだ一つ欠落しとると思うんだ。」

『欠落って…何が??』



「…キミの寄るべき価値基準とは何かね??

 その価値観は…キミ自身が決めているのだろう??」

『…あっ…』


「キミ自身の価値基準が考え方の頂上にある以上は、

 それもまた自分勝手ではないのかね??」

『……(´゜д゜`)』



 …なるほど。そういう考え方もあるか。。


 たしかに価値基準は人それぞれだ。

 いくら己を捨てて大きな視点でモノを見たとしても…


 絶対に正しい価値基準というものはない。。


 でもその基準を考え方の基軸に置いている以上…

 勝手で我儘な輩と根本的には同じなのかもしれない。。



 …随分と難しい話になってきた。。(・_・;)


 私はちょっとチンプンカンプンになりつつあるけど…

 さすがは武山さん。ちゃんとついてきている。。



『じゃあ私も…勝手気ままな人間の一人だと??』

「そうは言わんよ。けどな…

 自分勝手でない価値基準は簡単ではないと思うんだ。

 もしかしたら…人間には悟れないのかもな。。」


『…なぜ…そんな風に言えるんです??』

「だって私はとても答えに辿り着けそうにないからな。

 70になるこの歳まで考え続けているのに…」


『そのお歳まで…ずっと??』

「ああ。私もずっとそう考えていたんだよ。

 自分の見える範囲よりも一回り広い世界のためにって

 考えて生きてきたんだ。」


『…そうしたら??』

「いつしか社会全体を見てるような気になっていた。。

 けどその実は…妻と会社を失うだけで空っぽだったんだ。

 自分の価値基準に…自身が入ってなかったんだよ。」



 そう…だったのか。。


 大沼さんが自殺課に訪れた理由は…

 根本的には武山さんと同じだったんだ。。



 勝手を嫌い…良識を持ち…視野を広げた結果…

 全体が見えるようになった代わりに…


 中心にいる自分自身をボヤかしてしまったんだ。。


 だけどどこまで鳥瞰しても中心は自分自身。

 自分が見えなければ全て見失しなってしまう。。



「だから…ゆっくり考えなさい。。

 見つめて…世間を知り…修正を繰り返しなさい。

 そうすれば少しずつ成長できるはずだ。」

『…どうすればいいんですか??』



「まず第一義は…

 他人に自分の価値観を押し付けないこと。。」

『それは…わかってます。。』


「あと行き詰っても安易な道に逃げないことだ。

 …これは人生をかけた修行だからな。

 他人の意見は受け入れても流されてはいけない。

 宗教に逃げるなんて厳禁だからね。。」


『…信仰はいけないんですか??』

「信じるのはいい。だが頼ってはいけない。。

 一つの考えに嵌り正しいと信じ込んでしまえば…

 そこで思考が止まってしまうんだ。。」


『…そうですね。。

 ましてその考えを他人に押し付けるなんて…』

「ああ。それもまた我等が儘だからな。」



『なるほど。つまり私が生きにくいのは…

 自分の基準でしかものを見てなかったから。。

 修行が足りなかったから…』

「…そうかもな。。

 でも見方を変えればたとえ生きにくくても…

 きっと生きる意義は見いだせるはずさ。。」


『私に…そんなことができますか??』

「ああ。その若さで今の考えに至れてるんだ。。

 私にはもう大した時間は残されていないだろうが…

 キミには…あと半世紀はありそうだから。。」


『半世紀かぁ…長いな。。(´・v・`)』



 こうして武山さんは…踏みとどまってくれた。

 人生の意味が分かるまでは生き続けると…



 日常的な女装はしない。仕事も公表する。

 そうすれば自分が嘲笑されることはあっても…

 誰かに違和感を与えることは避けられる。

 迷惑は最小限に抑えられると…


 跡取り息子であることも受け入れる。

 自分は子供を設けられないけど…

 家を守る方法は考え続ける。。


 もう…誰も謀らない。。

 誰の期待も裏切らない。。


 自分に負い目さえなければ…

 世間に正直であれば…


 不利益はあっても生きにくくはないと。。



 だから…私も考えさせられた。

 考え続ける限りは人生に意義は見いだせる。


 自分の価値観を世間に押し付けるのではなく…

 世間にあるべき価値観を自分で磨き続ける。



 私もこういう生き方ができれば…


 そう考える私もまた…修行中なのかもしれない。



最後は結論がぼやけてしまったかもしれません。

私のような未熟者には纏められないテーマだったのかも。。


だから足りない分は皆さま自身で考えて頂ければ幸いです。。

おそらく…答えはありませんから。。

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