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ファイル13 我儘になれない人がやってきた

差別がらみの問題です。

この動機で死を選ぶ人は少なくないそうですが…


やっぱりこの自殺課というのは、

普通の人情話とは少々毛色が違います。

『あのぉ…死なせてほしいんです。』


「はぁ…でも動機は何ですか??」

『実はその…それは…』


「ではとりあえず書類に記入を。。」

『…正直に書かないといけませんか??』


「そりゃぁ公的な文書ですから。。」

『……わかりました。。』



 ここは県庁の自殺課。私は所長の叩一人たたきかずと

 …詳しくは第一話を読んでください。


 あと以前にもこの作品を読んで下さった方。

 …毎回スイマセンね。

 このくだりは読み飛ばしてくださいね。。



 まぁそれはさておき。。


 自殺課を訪れたこの若くて大柄な女性…

 なんとなく違和感があるんだ。。


 というか書類は正直に書かなくちゃ。

 意図的にウソなんか書かないでね。

 某新聞社じゃあるまいし…って思ったら…

 


「ええっと。23歳。飲食店勤務の…

 武山…雄大ゆうだいさん???」

『…えっと…たけひろです。』


「どっちにしても…男性ですよね???

 性別欄が未記入でしたけど…」

『…はい。スイマセン…』


「これ…正直に書いといていいですか??」

『…はい。。公的な文書ですから。。』



 武山雄大さん。23歳。。


 その年齢に見合わない厚い化粧…

 背をかがめて猫背にさえ見える前傾姿勢…

 喉仏を隠すかのようなチョーカー…

 頬骨と首の太さを隠すかのような髪型…

 不自然なまでに分厚いパンスト…

 足のサイズを誤魔化すかのような座り方…

 奇妙なまでに小さな声…


 これらが重なって…

 そりゃ違和感があって当然か。。



 …だって見た目は女性だから。

 いや、男に見せないよう努めてるから。


 でもそれこそが違和感の理由。。



『…驚きました??』

「まぁこういう知り合いはいませんから…

 あと飲食店勤務ってやっぱり…」

『…はい。水商売です。』


「それで…こちらにきた理由は??」

『何というわけでなく…生きにくいんです。。』


「…もう少し具体的になりませんか??」

『世間を欺いていることに…耐えられなくて。。』



 武山さんは長々と話してくれたんだけど…


 私は正直なところあまり理解ができなかった。

 彼…いや彼女の考え方が…


 動機が不明確なまま逝かることはできない。。

 なんとか聞き出そうとしたんだけど… 


 わかりにくい。…というか腑に落ちないんだ。。



 結局、そのまま終業時間を超えたから

 明日また仕切り直すことになった。


 これは誰かに相談したいんだけど…

 こういうのを理解できそうな人となると…


 …やはり同業者だよな。。(*^^*)

 

 

「そういうことだけど…大沼さんは分かる??」

『…大沼ってやめてよね…

 これまで通り<小池>でいいからさ。。』


「…でも小池は偽名だろう??

 偽名で呼ぶってのもおかしいからなぁ。。」

『…たしかに本名は大沼だけど、

 もう20年も小池で通してきたんだからさ。。

 …いまさら本名で呼ばれてもね。。』



「じゃぁ小池さん。。…さっきの件は分かる??」

『まぁ私もこういう商売だから。

 ちょっとその子の気持ちはわかるけどさ…』


「…どういうことか…

 わかりやすく説明してもらえるかな??」

『そうね…きっと…

 自分を押し付けるのがイヤなんだと思う。。』


「…押し付ける??」

『いわゆる社会の通念から外れたというか…

 特異な生き方を理解できない人達に、

 我慢を強いるのが耐えられないのだと思う。。』



 …纏めるとこういうことらしい。。


 武山さんは家族や周囲に認めてもらえていない。

 跡取り息子ということもあって…

 彼の生き方は家族に容認されないらしい。


 けどマスコミなどの最近の風潮は…


 常識を押し付ける無理解な周囲が悪者。。

 思うままに生きさせてあげるのが正しいこと。。

 だからあなたは悪くない…


 誰もが生きたいように生きればすべての人が幸せ。

 そうすれば誰も我慢する必要がないって

 当然のように言われてるけど。。



『でもよく考えたら…

 その理屈には穴があると思わない??』


「…たしかに変だよな。だってそれでは…」

『そう。我慢する人が変わっただけ。

 反対する人に我慢を強いるだけなんだよね。。』


「でもそれって自分一人の問題ではないだろう??

 同じ立場の人とか…仲間とか後に続く人とか…」

『…それこそが何よりの我儘だよ。

 自分の見える範囲しか見てないってことだから。』


「…なるほど…

 つまりその我儘に悪影響を受けるのは仲間ではない。

 視野の外にいる他人だから見えてないんだ。」

『きっとその武山さん…視野が広いんでしょうね。。

 …だから他人や世間が見えちゃうんだよ。。

 きっと…迷惑をかけられない性質なんでしょうね。。』



 なんとなくわかってきた。。

 つまりこれは…


 我儘わがままならぬ…我等われらままだ。。


 自分と仲間の思う儘にしようとする

 我儘以上に傲慢な大問題行為。。


 そしてこの我等が儘を嫌うマジメで優しい人は、

 自殺課に訪れやすくなるらしいんだ。。


 

 さらにこの【我等が儘】の性質の悪いところは…


 我儘ならば多くの者が持つ後ろめたさがないところ。。


 仲間のため・家族のため・大事な誰かのため…

 酷い場合は正義にさえなりうる。。


 純粋な仲間意識から暴走する危険思想だ。

 


『だからきっと武山さんの仲間が、

 彼女の家族か誰かに主張したんだと思う。。

 【誤った意識を変えろ】なんて傲慢なことを…』

「…たしかにそういう人はいるよな。。」


『しかも自分の主張を認めてくれない人を

 分からず屋とか時代遅れとか口汚く罵って…』

「でも自分のためにそんなことされたら…

 視野の広い優しい人は耐えられないだろうな。」



『…しかも我等が儘って…

 時には事実さえ捻じ曲げかねないから。。』

「…そう??例えば??」


『例えば以前…元女性が≪子供の実父として公に認めろ≫

 なんて滅茶苦茶な主張をしたでしょ。』

「…あったな。たしかにそれは事実の捻じ曲げだ。。」

 

『だけど家族の…仲間のためって思ってるから、

 ウソをつく後ろめたさがどこかで消えたんだと思う。。』

「ああ。我儘だって認識がないんだろうな。。

 だから公文書にウソを書く重大性さえ見失うのか…」


『でも武山さんの立場にもなってみてよ。。

 自分のために誰かが暴走してしまったとしたら…

 事実さえも捻じ曲げようとしたら…』

「俺だったら…やはり耐えられないだろうな。。」



 …そういうこと…か。。(´・ω・`)


 だって【自分達だけのため】という認識がないから…

 家族のため…仲間のため…自分一人のためでなければ…


 我儘の自覚さえない人は多いのだろう。。


 きっとそれ以外の世界が見えないほどに視野が狭いから…

 …どこまでも我等が儘になれるのだろうな。


 仮にそれが見える範囲だけの狭小であっても…



 だけど世の中には見える人もいるんだ。。

 …例えば武山さん。

 たしか書類にウソを書くことを嫌がったよな。。


 つまりいくら心ではそう思っていても…

 さすがに公文書偽造なんてできなかったんだ。


 まして親兄弟に我儘を押し付けて

 世間を欺くなんて…


 どうあってもできない人なんだろうな。。



「なるほど。そういうことか。。

 でもちょっとわかりにくい心情だよな。。」

『そう。…私は少しわかるかも…』


「…なんで小池さんが??」

『…そりゃ私も水商売だからね。。

 それで結婚を反対されたこともあったし…』


「つまりそれって…」

『そう。…差別なんだよ。。

 私だって世間では蔑まれる立場だからね…

 その気持ち…わかるような気がする。。』


「でも…それだけじゃないよな。。」

『そうなの…このケースはちょっと例外よね…』



 たしかに…広い意味では差別だ。


 自殺の書類の動機欄に書くとすれば、

 それで充分に通るだろう。。 



 …けどこのケースは違う。

 だって差別を受けて自殺しに来る人の多くは…


 他人のせいにしているから。

 世間が悪いと思っているから。


 差別されたから死んで抗議するとか…

 自分の意見が受け入れられなかったからとか…


 そんな後ろ向きの理由がほとんどだから。。



 だけど…そうでない人もいるんだな。。


 世間に迷惑をかけないために…

 違和を感じる周囲に我慢をさせないために…


 つまり世間に我慢を押し付けて生きるより…

 自分が我慢して…消え去る道を選んだんだ。


 それは…ようやく理解できた。。



「…でも…どうすればいいと思う??」

『それを私に聞くの!?

 叩さんって自殺課の所長さんでしょ??』


「…それはそうだけど…

 …今回はちょっと考えることが多くって。。」

『たしかにね、、

 自殺って究極の我儘だって言われるけど

 この人はそうじゃなさそうだしね…」



 …結局…結論は出なかった。。

 そろそろ終電だし明日も早いんだけど…


 今夜中には結論を出さないといけないんだ。。


 こんな視野の広い心優しい人を

 生かすも逝かすも自分次第だとすれば…

 


 私は…どう対応するべきなのだろうか??


結論は次回に持ち越します。


ただ「言ったモノの勝ち」のような現在の風潮では…

他者を慮る人はこうなりがちなんだそうです。

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