ファイル12 借金取りから逃げてきた
今回は借金絡みです。
ただ自殺課のある社会では…
借金のある人は死ねないらしいんです。
「あの…死なせてください!!」
『ではこの書類に必要事項をお願いします。』
「そんな悠長なことを言わないで!!…早く!!」
『そう言われましても…』
「ごらぁ!!!逃げ回りやがって…金返せぇ!!」
「わぁ来たぁ!!…ちょっと…助けて…」
『そう言われましても…』
「このバカ女!!人でなしぃ!!」
『…(´゜д゜`)』
ここは県庁の自殺課。私は所長の叩一人。
【詳細は第一話参照】
接客してたのがウチの紅一点、永井主任。
それだけ理解いただければ今回は大丈夫です。
まぁ基本的に一話完結なんだけど。。
ただ前回も触れたけど…
最近の借金取りというのは時節柄を心得ないらしい。
正月もとっくに明けたというのに、
まだ取り立てには精が出るみたいなんだ。。
とはいえそんな借金取りも土地柄は心得ているみたい。
なにせウチは関西でもガラの悪い地域だから、
年がら年中こういう…
ヤクザ紛いの借金取りがウロウロしてるというわけ。。
「はぁ…また借金絡みですか永井主任??」
『ハァじゃないですよ、叩所長!!
なんで私が人でなしなんて言われるんですか!??』
「…仕方ないだろう。ウチはそういう仕事なんだから。」
『でも酷すぎます!!危険手当もでないのに…』
「まぁそう言いなさんな。。
この程度は民間では通常業務の範囲内でしょ。」
『けど…私は公務員です!!
民間なら通常業務でも公務員なら危険業務の…』
「…あのね。。
そんなこと言ってるとまた叩かれるよ。。」
…ったく。さすがに問題発言だ。。(^^;)
とはいえそうも言ってられないんだよな。。
なにせ借金で自殺課にくる人は増える一方だから。
…少し前までは…
過払い請求やらなんやらで借金は大幅に棒引きされ、
金貸しという職業自体が世間から悪者のように扱われ、
金融業界は大打撃を受けたんだ。。
けど…本当に得をしたのは弁護士だけ。
肝心の債務者はさほど助かってはいない。
だから本当に困った人は弁護士にはしごを外され…
自殺課のない社会ならその…
死んでチャラにしようってわけなんだけど。。
『…でも借金取りも困ってるでしょうけど…
債務者も難しくなりましたよね。。
これまでのように勝手に自殺できなくなりましたから。』
「まぁ自殺はウチでするのが今の法律だ。
でも自殺課は借金の放棄まで認めてはいない。
負債のある人は、返すまで死ねないルールだからな。。」
『…だからって勝手に死んだら遺族は賠償請求されるし、
債務放棄も認められないよう法改正されるし、
勝手に自殺しても生命保険さえ支払われないし。。』
「でも自殺課で死んでも保険の支払はかなり減額されるぞ。
そりゃ…保険会社からすれば当然だけどな。。」
…ま、そういうわけだ。。
普通の人情話ならば借金取りは悪役。
<覚えてろぉ>って帰って行って、
債務者が助かって めでたしめでたし だけど…
この小説はあくまでも公務員目線のお話。
法と契約を遵守するのが大原則。。
借りたモノを返すなんてのは当たり前。
死んだらチャラなんて、
そういう甘いお話ではないんだ。。
けど現実にはそんな人は後を絶たない。。
返せなければ死ねば済むとまで思っている人が…
『…貧田さんでしたっけ??
先ほど言いました通りウチはそういう部署では…』
「でも借金を返せなくて…もう死ぬしか方法は…」
『だからムリなんです!!返せないならなぜ借りたの!?』
「いや…その時は何とかなるかなぁって。。(^^)」
『な…なんでそんな無計画なんですか!??』
「いやぁ…私が計画性のある人間に見えます??(*^^*)」
『見た目はどうでもいい!!なんでって聞いてるの!!』
「というかさ…計画性のある債権者なんていると思う??
ちょっと考えればわかるでしょ…あんたバカ??(*^▽^*)」
『てめぇ貧田!!…絞め殺したろか!!?』
「…いいですよ。そのために来たんだもんね。(^ε^;)」
『キィ!!!てめぇ●#%▼&★にしてやる!!』
「ちょっと…痛いのは勘弁して…(^ω^;)」
『貴様ぁ!!贅沢言うな!!』
「やめてぇ!!不祥事だ。公務員法違反だぁ!!」
…あらら。永井主任キレちゃった。。。
まぁでも…ムリもないよな。。
だってウチ以外の自殺課職員も何人も倒れちゃってて、
県庁のメンタルヘルスも大忙しなんだから。。
しかも以前から似たような問題が出ていたらしいから、
何とかしようという動きはあったらしい、
それで新しい法律が施行されることになった。
それはいいんだけど…
この法案に人権派が絡んでいたらしいんだ。。
つまりあくまで弱者のためだけで…
社会全体にとっては害悪でしかないわけで。。
『で…これってどういう法律なんですか??』
「まぁ一言でいえば詐欺罪が適用されるんだな。」
『…詐欺罪??」
「つまり負債を持ったまま死のうとしたってことは、
金融屋を騙した罪ってことになったんだ。」
『はぁ??じゃぁ自殺課に来た人は犯罪者になるの??』
「そういうこと。それで借金取りのいない別荘暮らし。」
『それって…メチャクチャじゃないですか??
返すまで死んじゃダメっていうのは分かりますけど…
犯罪者にすることで赦しちゃうんですか??』
「さてね…死ぬよりはマシってことじゃない??」
『…い…意味が解りませんよ!!
犯罪者に落ちて生き恥晒して刑務所にまで行って…
そこまでして生きていたいモノなんですか??』
「だがそれが人権派の考え方だよ。。
形式上の人権さえあれば他はどうでもいいでないの??」
『やっぱり…私には理解できません。。。』
まぁ…文字にすれば酷い話だけど、
実はそういう考えの人は少なくないらしい。
金がなければ借りればいい。
そして返せなければ…盗む。恐喝する。ひったくる…
けどそんな経緯はぜーんぶ無視されて…
貧困が理由ってことで情状酌量される世の中だ。
…ならばそういう人は…
はじめから刑務所に入れた方が世のためとされたんだ。
たしかに犠牲者もでない。治安だって守られる。。
…でも…それでいいのか??
少なくとも私はそんな生き恥は晒したくない。
世間に顔向けできなくなるなら潔く世を去るだろう。
ずっと死に向き合っている自殺課職員の多くはそう考える。
ただ…そういう考えは現代では少数派。
無節操でも…生きていれば他はどうでもいいが多数派。
…だからこの法律が…
…良い影響などもたらすはずはない。。(´・ω・`)
「やぁ。また来ましたよ。」
『たしかあんた…いつぞやの貧田さん!?
っていうか前より血色もいいし健康そうですね。。』
「ええ。詐欺罪でしばらく刑務所にいましたから。」
『で…今回は何をしに??』
「何って?また詐欺をしに来たんですよ。
だってこの程度の罪じゃ、
すぐに刑務所を追い出されちゃいまして。。」
『ってアンタ…また刑務所に行くつもり!?
それで出所したらまたここに来るつもり??』
「はい。あそこはすんごく居心地がいいんです。(^^♪
軽作業さえしてれば他は何の心配もいらないんだから。」
『な…アンタには誇りっモンがないの!?』
「ありませんよ。楽して生きたいだけですよぉん♪」
『だからって…この税金泥棒が!!』
「はは…それを公務員に言われちゃおしまいだ。」
『キィ!!!やっぱり●#%▼&★にする!!』
「…やめて。。不祥事だ。公務員法違反だぁ!!(^ω^;)」
…あらら。またですか??
今回はなんとか私と伊野さんが取り押さえたけど…
この貧田さん。また懲役一年の実刑を受けたらしく、
刑期を終えたらまたウチにくるらしいんだ。。
そしてこの出鱈目な法律が変わらない限り…
人権派がろくでなしを守り続ける限り…
おそらく彼は何度でもウチに来るんだろう。。
でもこれでは永井主任が…自殺課職員が危ない。。
日々頑張ってるマジメな公務員が…
こんなどうしようもない怠け者の税金泥棒のせいで…
一緒に刑務所に行っちゃうかもしれない。(´・ω・`)
人権は大切だけど誇りも大切。
倫理と社会規範はもっと大切。
それさえ守れない怠け者や、虚栄心の強い我儘な
一人の権利のために社会が不利益を被る。
無関係な人間に負担を強い、血税を注ぎ込む。
その方がよほど…人権侵害では??




