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ファイル10 親不孝者がやってきた

普段の自殺課とは

ちょっと毛色の変わったお話です。


 ここは県庁の自殺課。私は所長の叩一人(たたきかずと)【詳細は第一話参照】


 …やっぱり今回も書きます。

 だって毎月23日掲載の細々とした月一連載だから。


 ちなみに最近、アクセス解析なるものを知った。

 見ると月末頃まではともかく…


 月が替わると滅多にアクセスがないってことも知った。。

 下手したら一日のアクセス数がゼロって日も…

 つまりほとんどの読者が初めてかお忘れってことで…



 そんなわけで本題です。。

 私こと叩所長が心を痛める若者の自殺です。


 特に駆け落ちとか心中とかが私のもっとも好まないタイプ。



 なぜなら…自殺の動機が自分自身にある場合はまだいい。


 無計画な人生を過ごして成長の機会を失してきた者…

 自分を甘やかして遊びや薬に溺れた者…

 彼らが淘汰されるは仕方ないと思うし同情もしない。。


 今は助かってもいずれまたダメになるだろうから。

 死に至らずとも大して意味のない人生になるだろうから。。



 だが、自分以外に原因のある自殺は堪らない。

 ここさえ乗り切れば幸せになれる可能性が高いんだから。


 だけどこういう若者に限って将来を見ていない。

 今の悩みが人生の全てだと狭小になりがちだ。


 …そして私が駆け落ちとか心中を好まないのには…

 もう一つ理由がある。



「最近…恋人同士の心中が続いているようだね。。」

『そうなんですよ。叩所長。。

 私ももう何人も見送りましたけど…まだ慣れません。』


「俺も同じだよ、永井主任。

 しかも動機を見ると何とも解せないんだよな。」

『この…親に認められなかったってところですよね。』


「…そうなんだよな。。

 こないだ心中した男は≪彼女を親から守るため≫って…

 なぜそこまで親と敵対する必要があるんだ??」

『そうですよね。親は親で子供を守ろうとしてるのに…』


「子供を守るのは親の仕事なのにな。

 その親から恋人を守るために二人で死ぬって…

 虐待されたわけでもあるまいし…」

『お互い目的は同じなんだから話し合えばいいのに…』


「まぁ所詮は人生経験の少なさゆえの狭小だけどな。

 …恋は盲目ともいうし…

 若いうちは今がすべてだと思いがちだから。。」

『あとで振り返れば大抵は小さな問題なんですけどね…』



 …そうなんだよな。


 若者の悩みなんて…大抵は小さな問題。

 大人の視線で見れば取るに足らないことが多いんだ。

 だって実社会で戦い、誰の庇護も受けず家族を守る大人は、

 常に子供の悩み以上の問題に直面しているから。


 だから大人…特に親は若者の悩みに取り合わない。

 大人から見れば悩みのうちにも入らない小さな迷い。

 そんな些末なことにかまってはいられないから。


 だけど若者には…そんな大人が不誠実に見えるらしい。


 なぜなら今の悩み以上の問題を知らないから。

 そんな大問題を軽く扱う人のことが許せなくなって…

 そして余計に狭小になって…自分だけになって…

 特に恋愛中は二人だけの世界しか見えなくなって…


 最悪の結果になるってわけだ。


 まったく…

 10年も経てば笑い話にしかならない些末なことで

 死を選ぶ若者の如何に多いことか。。


 そんなある日…またそのテの若者がやってきた。



「あの…俺達を成就させてください。」

『お願いします。…二人で逝かせてください…』


「あのねぇ。お二人ともお若いのに後悔しませんか??」

「はい…二人で決めたことですから。」



 …またお約束のパターンだ。。


 親から結婚を反対されて逃げてきたカップル。

 我々の年代からみれば何とでもなる小問題だけど

 未熟な二人にはそうではない。。


 …<お前を敵から守ってやる!!>って…

 …どう考えても親は子の味方のはずなのに。。



「あのね…親の意見は有難く聞くべきだろう??

 冷静に考えれば敵なんていないはずだよ。」

「…おっしゃることは分かりますけど…」

『今の私たちにはこうするしか…』


「けどなんというか大人から見ればその…

 軽々しいと思うんだけど…」

「若いからって軽く見ないでください!!」

『そうです!!だから大人って…大人って…』


「あのね…キミたちも大人だよね??」

「そうです!!二十歳を過ぎた成人です!!」

『その成人が真剣に悩んで決めたことなんです!!

 所長さんも大人なら自分の仕事をして下さい!!』



 あぁこの二人…どんだけ未熟なんだろう。。


 ちょっと冷静になれば…ちょっとだけ視野を広げれば

 悩みとさえ言えない小さな迷いなのに。。


 …でも彼女の言う通りこれが私の仕事だから…


 なんか…アホ臭ささえ感じる。

 二つの若い命が消えてしまったというのに…



 あとそうするとまた修羅場なわけで…


 だって親が遺体を引き取りに来るわけで…

 親は親で子供を守れなかったと嘆くわけで…

 なぜか我々が責められるわけで…


 …仕事とはいえ毎度毎度たまらない。。


 まともに悩んだ結果なら私だって受け止めるけど…

 未熟者の狭小に付き合わされるのはもう真っ平なんだ。。


 なのに一人暮らしの私には愚痴を言う相手もおらず…


 結局…今日も馴染みの店で酒を煽るしかないわけで… 



『ふぅん…相変わらず大変ね。』

「そうなんだよな。誰が何を守っているのか…

 本人たちが一番わかってないんだから…」

『…親より先に逝くなんて…不孝なことよね。。』



 …ちなみに私が来ているのは小さな小料理屋兼スナック。

 そこのママさんはあの小池恵さん。【ファイル07参照】


 いつも男に貢いでは無一文同然だったのに、

 以前の恋人(?)が詐欺で捕まってお金が返ってきた。


 それで先月から自分の店を持つようになった。


 自殺課のことには私以上に詳しい不思議な人だから

 相談相手としてはうってつけと言えるんだ。


 というわけで私は…常連客になりつつある。。



『そう言えば叩さんってご両親は??』

「…二人とも他界したよ。。

 俺はもう50過ぎだし仕方ないさ。小池さんは??」


『…私はこんな商売だから。長いこと会ってないの。。』

「どれくらい会ってないの??」


『家を飛び出してからだから…20年以上になるかな??

 今では生きているのか死んでいるのかも…』



「…会いたいとは思わない??」

『そう思ったこともあったけどさ…

 一度実家に連絡したら引っ越した後で…』


「電話番号もわからないの??」

『引っ越して番号も変わっちゃてたから…

 家出した当時はまだ携帯とか普及してなかったし…』


「…捜そうとは思わない??」

『今さら会いたいとも思わないからね…

 だって連絡もなく引っ越しちゃった両親だから…』


「でも両親も小池さんの居場所は知らなかったんだろう??」

『捜せば何とかなったはずでしょ。。

 それをしないってことは…私はその程度の存在なのよ。』


「でも…兄弟とか親戚とかを頼れば…」

『別にこっちから会いに行く理由もないしね。。

 私は一人っ子だし…親戚の連絡先なんて知らないよ。。』



 …そっか。そんな過去があったんだな。。


 でもこれって本人だけでなくご両親にも不幸なことだ。

 年齢から考えればおそらくまだ御存命だろうに…


 親のありがたみは本来、亡くしてからわかるモノ… 

 それは自分自身が身に染みている。

 孝行したい時に親はなしともいうのに…


 先に逝ってしまうのも…

 ずっと会わないでいるのも…

 不孝なことなんだ。。。



 この仕事をしているとつくづく思う。


 誰かのために死にたいとここを訪れる人ほど

 実は自分の周りを見渡せていない。。


 特定の誰かのためだけに行動すること…

 誰かに気に入られるためだけに行動すること…


 恋人のため…家族のため…それだけしか考えないって

 実は究極の自分勝手なのかもしれない。


 しかも我儘という自覚がないから…余計に性質が悪い。



 …でもそう考えると…

 我々自殺課って何なんだろう??


 そんな自分勝手な人々をサポートする仕事って実は…

 誰よりも狭小で親不孝な存在なのかもしれない。。



 でも我々がいなくなれば…

 自分勝手な死にたがり屋たちは…


 更に惨めな最期を迎えるのかもしれない。。




孝行したい時に親はなし。。


…たまには実家に顔を見せるかな。(*'ω'*)

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