ファイル01 自殺課所長、叩一人がやってきた。
もしかしたら問題作です。
残酷な描写はできるだけ避けますが、苦手な方はご遠慮ください。
「またあなたですか、品内さん。」
「うるせぇ税金泥棒ども。来てやっただけありがたく思え。」
『けど、品内さんはほぼ毎日じゃないですか。
うちの相談件数の半分が品内さんですよ。ねっ叩所長。』
「そんなに多いのかい永井主任…。まぁ別にいいんだけど…」
まぁ…構わないかな、、(・ω・)
だってウチは、一件の相談もない日も少なくないくらい
暇な部署なんだから。。(´・ω・`;)
とはいえ税金泥棒はないだろう!?
我々がどれだけの血税を節約してるか知らんのか、、
日本の自殺者数…年間約3万人。
これによる国家的損失は計り知れないから。
さらに突き詰めれば税金の損失。。
だって自殺者が出れば、
やれ死体の処理だの身元の確認だの事件性の有無だの…
この調査のほとんどは公務員と警察の仕事。
つまりは…税金だ。
そして事件性があれば解剖が行われる。
事件性がなければやっと葬儀となる。
だけどようやく身元が判明しても…
自殺者の遺体は引き取ってもらえないことが少なくない。
なにせ家族と疎遠な者が多いから。。
そんな交渉や無縁者の葬儀も公務員が行っている。
これもまぁ…税金だ。
しかも損失が出るのは何も税金だけではない。。
電車は止まる、火事は起きる、建物は値崩れを起こす。
マスコミは無意味に騒ぎたてるなどなど。。
というわけで問題が多いので…
政府は全国の県庁にある部署を置くことを義務付けた。
こうしてできたのが…
≪兵庫県庁総務部 自殺課西摂津出張所≫
これが我々の出張所の名前。
全国各地に作られた約120の出張所の一つだ。。
一見、衝撃的的な名前かもしれないが…
実際には他の部署ほどアクセクしない平和な部署。。
品内さんのような暇人さえ相手にする…場末の勤務先だ。。
…ちなみに私はここの所長、叩一人。52歳。
県庁職員30年目にして所長に昇進した凡庸な公務員。
命をバラバラにした名前と言われて忌み嫌われた男の…
おそらくここが最後の職場になるだろう。。
そう、我々の仕事とはつまり…
自殺者志願者の受付と処置室への送り出し。。
…苦しみのない最期を与えるということだ。
もちろん受付で事情は聴く。
その結果、自殺を思いとどまる者も少なくはない。
だがそれは事務処理の一環に過ぎない。
我々の職務はあくまで死にたい人の最期の手助け。
だってここに来る人の多くが望むこと…それは…
誰にも迷惑をかけない最期なのだから。。
なにしろ現実問題として現代社会では、
誰にも迷惑をかけず逝くこと自体が不可能。
例えば電車を使う??海に入水??自宅で首を??
樹海に行く??ビルからジャンプって…
どれだけ多大な迷惑をかける愚行なのかわからない。。
死んでチャラになる損失ではない。。
こんなことで心残りを作ってどうするって話だ。。
ならばせめて最期くらいは安らかに…
一切の心残りなく…
というのが我々の存在意義というわけです。。
≪なんて酷いことを…≫
≪命を軽んじるな…≫
という意見が少なくないのは知っている。
でも…我々は自殺者を増やしてはいない。
死を煽っているわけでもない。。
ならば死刑囚にさえ教戒師付の苦しみの少ない最期が与えられる
のに対して、まじめに生きてきた人にはその権利がないのは…
それもまた理不尽な話ではないだろうか??
というわけで日がな一日我々は…
自殺志願者が訪れるのを待っているというわけだ。。
『叩所長。。今日は随分と平和でしたね。
でも訪問者が品内さんだけなんて退屈すぎて…』
「そうだな永井主任。でも我々は暇な方がいいんだよ。」
『…そうですね。なにしろ今日は月末。
先月は忙しくて業務報告書が遅れてしまいましたからね。』
…しまった忘れてた。(;'∀')
まぁ報告書なんて数分でできるのだが。。
なにしろ今月は特に暇だったから。。
今月の相談件数41件。(うち19件は品内さん…)
成就者13名。
未遂者9名。(品内さんを除く…)
あれやこれやと備考欄…
「ふぅ。これで業務報告も完了。今月もお疲れ様ぁ。」
『でも良かったですね。今月も平和で。』
「それもこれも、法律改正のおかげだな。
無届で自殺すると遺族に賠償金が請求される規則ができたから。
電車が止まるのも不動産屋の損失も半減したそうだ。」
『それに自殺者全体も少しだけ減ってるそうですよ。
我々の業務時間はあくまで平日の9時~17時ですから。。
思いたったらもすぐ自殺ってわけには行かないらしくって、
その間に踏みとどまる人も増えたって。。』
「はは。しかもウチに来る途中で気が変わるのもいるらしいし。。」
『この傾向が続くといいですね。』
「だな。…ちょっと複雑だけどこれでいいんだよな。。」
と言っている端から部長から電話だ。
だいたい…ロクな内容でないことは想像がつく。。
「叩!!芦宮駅で飛び込み自殺があったそうだぞ!!」
「えっ??それがどうしたんですか??」
「どうもこうも…すぐ現場に行きなさい!!
お前は自分が何をしたかわかっないのか!??」
「……??(´・ω・`)」
…聞けばその自殺者は…
三日前に私が思い止まらせた人らしい。。
つまり電車を止める社会的損失を出したのは
私の責任ということになる。(-_-;)
「すみません。以後気を付けます。。」
「まぁ仕方あるまい。。でも片付けは手伝うように。」
「…はい……」
こうして…私は死体の片づけを手伝うことになった。
もう何度目になるかはわからないが、
いまだにこれは気持ちのいい仕事ではない。。
そう、我々の仕事は自殺を止めることではない。
あくまで粛々と送り出すこと。
未遂者を増やすのは咎められることではないが…
彼等が他所で自殺することだけはさせてはならない。
社会的損失を出すミスということになる。
「…まったく。あの日に安らかに逝ってさえいれば、
こんな無残な最期を遂げることもなかっただろうに。。」
私は遺体の片づけを手伝いながら…
物言わぬ肉片に恨み言を言わざるを得なかった。
助けた恩を仇で返され…
救ったはずの命に巣食われる。。
我々の仕事とは…こんな理不尽ばっかりなんだ。。
だけど…あえて言っておく。
私はこの仕事に誇りを持っているんだ。
どんな理不尽があっても…世間に何を言われても…
私は器用に生きられなかった人間の最期の時間を
せめて潔くしてあげたいと思っているから。。
だから翌朝も、私はいつものように仕事に向かう。
歳のせいか軽やかとまでは言わないが…
その足取りは決して重いモノではないと思っている。。
さて今日はどのような相談者が訪れるのだろうか??
命の最期をやり取りする…わが自殺課に…
いかがでしょうか?
当面は月一回、23日21時の掲載を予定しています。
感想や書いてほしいテーマを募集しています。
また「空を飛ぶ鳥のように(火曜金曜12時投稿予定)」を連続掲載中。
土曜23時には短編を掲載しますので併せてヨロシクです。