第三章 俺は次々と殺人を犯し続け
部屋に入るなり、まず目に入ったのが空になったウイスキーのボトルだった。
確か神田は普段そんなに酒を飲まないのでは無かったか。
俺は誘われるがままにソファへと腰掛ける。
「……何か飲むかい? 篠塚さん……?」
そう言いながらも足取りの覚束ない様子の神田。
「いえ……。私、お酒はあまり飲めない方ですので……」
やんわりと断る俺。
もちろん大嘘だが。
俺はワインを一人で5本は平気で空けられるほどの酒豪だ。
「そう、か……。それは残念だが……」
「……神田さんはお酒がお好きみたいですね?ウイスキーですか……」
俺はテーブルに置かれている空瓶に視線を移し言った。
「ああ……。……いや、普段はそんなに飲まないのだがね……」
覚束ない足取りで空瓶を片付けようとする神田。
「……何か御座いましたでしょうか……? ……すみません、勘違いでしたら謝りますが……。何やら船内でご挨拶した時も塞ぎ込んでいたご様子でしたので……」
俺は慎重に言葉を選びながらも、酒に酔っているこのチャンスを逃すまいと質問する。
「……」
何か考えた様子の神田。
「……ご迷惑でなければ……教えて頂けませんか? ……私、心配なんです……神田さんの事が……」
少し強引に先を促してみる俺。
ウイスキーを一瓶開けているのだ。
しかも『美女』が『心配している』と目の前で伝えている。
これの『意味』が分らないほど神田も馬鹿ではないだろう。
「……部下がね……」
十分に時間を置き、神田はぽつりと零した。
「……はい」
偽りの優しげな顔を神田に向ける俺。
「……部下が、殺されてしまったのだよ……。幸いニュースでは取り上げられなかったが、新聞の記事の端の方にはわが社の名前も載っててね……」
神田の言葉にぴくっと反応する俺。
『幸いニュースでは取り上げられなかった』。
これの意味する所はなんだ?
俺の中で何か熱いものが込み上げて来るのが分る。
「……そうだったのですか……。すいません、そんな事情があったとは知らずに……辛い事を思い出させてしまって……」
「いやいや、そうでは無いのだ。気を使わないで頂きたい。……何だか色々あって私も混乱しているだけなのだよ……」
そのまま椅子に座る神田。
俺は立ち上がり、軽く神田の肩に手を置く。
「……お気持ち、お察し致しますわ……」
神田が空ろな目でこちらを振り向き俺の手に自身の手を重ねようとする。
俺はすんでの所で肩から手を離す。
「何かお飲みになられますか? ……ウイスキーばかりでは身体に悪いでしょうから……」
俺はそう言いながら冷蔵庫を開ける。
そして緑茶のペットボトルを取り出し神田に笑顔でそれを見せる。
「…あ、ああ……そうだな……。」
その言葉を更に笑顔で返した俺は、流しに向かいコップに緑茶を注ぐ。
『相手の返答が来る前に既に準備をしてしまえば、殆どの相手は断れずに首を縦に振る』。
日本人に多い現象だ。
『誘われれば断れない』という法則を更に細かく細分化した方法。
別に緑茶を飲みたくは無かったかも知れない神田に、無理なくしかし強制的に飲ませる方法。
俺は注ぎ終えたコップに、上着の袖から小さな瓶を取り出し3分の1ほど中身を注ぐ。
『テトロドトキシン』。『ゾルピデム』。
俺の脳内に二つの成分名が浮かぶ。
この位置からは神田には俺の手元は見えない。
俺はスムーズに小瓶を袖に仕舞い込み、コップを片手に笑顔で振り向く。
「……お食事はお部屋で取られるのですよね?」
俺はコップをテーブルに置き、神田に質問する。
「ああ……。そうするつもりだが……」
「……でしたら私も神田さんと一緒にここで食事を取っても宜しいでしょうか……?」
少し伏し目がちに頬を染めながら言う俺。
「……も、勿論良いが……」
ゴクッと生唾を飲み込む音が聞こえて来る。
ククク……せいぜい今だけ夢を見ていろ神田……。
「……嬉しい……! では、墨田さんに私の食事もここにお持ちして貰えるよう頼んで参りますわ」
「ああ……悪いね」
俺はそのままドアまで歩む。
そして廊下に出る間際に神田が緑茶を一気に飲み干す姿を横目で確認する。
「(……さようなら……)」
俺は聞こえないほどの小さな声でそう呟く。
◆◇◆◇
「ああ、もう~! 遅かったじゃない、絵里~!」
リビングへと向かうとあすみが早速声を掛けて来る。
「ごめんなさい、七貝さん……。部屋に戻って忘れ物を見つけたのは良かったのだけれど、やりかけのレポートの事がどうしても気になっちゃって……」
俺はあすみにそう弁明している最中、祥子さんと目が合う。
「あれ……? そう言えば墨田さん……。まだお夕飯に来られていない方が居るみたいですけど……」
いないのは神田と三島という女である事はすぐに分ったが。
「……はい。三島様は夕飯はいらないとの事でして、神田様にはこれからお部屋の方にお持ちする所で御座います」
祥子さんの手元にはお盆の上に食事が載せられていた。
これでわざわざ頼む手間が省けた。
「……そうですか。では先にそちらに向かって下さい。私の分はその後でも大丈夫ですから……」
何か言いたげな祥子さんだったが、基本雇い主である俺に逆らう事は無い。
そのまま軽く会釈をし、中央階段の方へと向かう祥子さん。
(……『ゾルピデム』の効果が現れるのは約30分後……)
俺は脳内で計算する。
たとえ神田がアルコールをかなり摂取していたとして血液の巡りが早かったとしても、祥子さんが食事を届けるまでに眠りこけてしまう事は無いだろう。
(……そして次にしておくべき『保険』は……)
俺は隣で話しに華を咲かせているあすみと透の、さらに奥の席にいる恭一郎に話を振る。
「……そう言えば神田さんは大森さん達の上司の方なのだとか……」
食事を終えワインを飲もうとしていた恭一郎は手を止め質問に答える。
「うん? ……ああ、そうだよ。部長もこういう時くらい皆と食事すりゃあ良いんだけどなぁ……」
少し小馬鹿にしたような言い方で更に奥で食事をしていた美紀を見やる恭一郎。
「……神田部長はあまりこういった催しが好きな方では無いからね……。……何か気になる事でもあったのかしら?篠塚さん?」
今度は美紀のほうから俺に声を掛けて来る。
「あ……いえ……。船内でご挨拶させて頂いた時、何やら塞ぎこんでいらしたご様子でしたので……。」
完璧な演技をする俺。
気を張っていないと、ついニヤケてしまいそうになる。
「そう…ね。……食事が終わったら皆で少し顔を出しておきましょうか、大森君?」
「……ああ、そうだな……」
満足のいく答えを貰った俺は安心し、ようやく水を口に含む。
(……? ……そうか……)
水を含んだ瞬間、俺の口が一気に潤った感じがした。
そうか。そうだよな。これが普通の人間の『感情』だ。
俺はこの時初めて―――。
―――自分が『緊張』していた事を知った。
◆◇◆◇
しばらくしてリビングに空のお盆を抱えた祥子さんが戻って来た。
「……お待たせ致しました篠塚様……。すぐにお食事をご用意致します……」
そう言いキッチンルームへと姿を消す祥子さん。
……あの様子ならば神田の様子はまだ変化が無いという事だろう……。
俺は料理が運ばれて来るまでの間、あすみや透達との談笑の輪に入る事にする。
・・・
「ご馳走様でした。お料理、とても美味しかったですよ、墨田さん」
既に皆食事を終えバーで酒を飲む者、ビリヤードに勤しむ者、そのままリビングで話に華が咲く者、それぞれがそれぞれの有意義な時間を過ごしている。
「……有難う御座います、篠塚様。食後のデザートがご用意出来ますが、如何致しましょう?」
空いた食器を片付けながらも祥子さんは俺に聞いて来る。
「いいえ、もうお腹が一杯ですわ……。これ以上食べてしまうと太ってしまうから……」
はにかんだ笑顔を向ける俺。
それを優しげな笑顔で返し、祥子さんはキッチンルームへと消えてゆく。
俺は布巾で丁寧に口元を拭きながら、まだリビングに残り話に華を咲かしている二人の男と目が合った。
「……どうだい、篠塚さんも? これから尾崎さんとテラスで飲むんだけど、君も付き合わないかい?」
声を掛けてきたのは九条直人。
そう言えば九条は船内でもここに到着してからも、すっと尾崎信二と親しげに話している光景ばかりが目に付く。
「……つかぬ事をお聞き致しますが……お二人は元々お知り合いなのですか?」
俺はそれとなく質問してみる。
「おお、よく分かりましたな、篠塚さん。私と九条君は、同じ大学の先輩後輩の中でね。……とはいえ、年は10も離れてはいるのだがね……」
尾崎が九条の代わりに説明する。
年が10離れていると言うのであれば……明らかに40手前に見える尾崎から逆算すると、九条は20代後半あたりなのだろう。
いかにも好青年な後輩と体育会系の先輩のペア、という印象が強い二人。
(……しかし、こんな偶然が果たしてあるのだろうか……)
あの日居酒屋でたまたま食事をしていた九条直人と。
あの日たまたま路地裏を、しかもあんな深夜に通りすがり、俺の遺体を発見した尾崎信二。
この二人が『同じ大学』の先輩後輩の仲……。
もしかしたら深夜に待ち合わせの約束をし、九条はあの居酒屋で時間を潰していたとも考えられるが。
(……しかし、それだと『第一発見者』が尾崎だけ、というのは辻褄が合わない……)
居酒屋を出た九条は何処かすぐ近くで尾崎と合流した、もしくは合流する直前で尾崎が俺の『遺体』を発見した、まさにその瞬間に立ち会うか、どちらかの可能性が高いはず。
なのに新聞記事では尾崎の名前しか載っていなかった。
口裏を合わせた?
しかしそれでも矛盾が生じる。
尾崎は今まさに立候補している最中の新人議員候補だ。
口裏を合わせ、第一発見者を『どちらか一方だけにする』としても。
それを受け持つのは後輩であり、一般人である九条の方がどう考えても適任だ。
これでは立場が全く逆ではないか。
(……それともこいつ等が『共犯』で……九条が『実行犯』……尾崎が『第一発見者』の役割を……?)
しかしそうだとしても『動機』が全く掴めない。
これから輝く未来が待っているかもしれない新人議員候補が一般人と結託して。
見ず知らずのはずの俺を、恨みを込めて『撲殺』する理由。
しかも『第一発見者』というリスクまで犯す、その『理由』が全く説明出来ない。
(……考え過ぎか……ククク……まだ『さっき』の高揚感が残っていて、正常な思考が出来ていないのかもしれんな……)
俺は水を飲み、椅子から立ち上がる。
「……そうでしたか……。仲が宜しいのでそうでは無いかと思っておりましたわ。……でしたら尚更お二人のお話のお邪魔は出来ませんわ。それに私、お酒は飲めませんし……」
やんわりと断りリビングを後にする俺。
まだ少し興奮しているな。
軽く夜風にでも当たりながら、『事の顛末』を見守るとしよう。
俺は一人、中央扉を抜け、外の空気を吸いに出る。
◆◇◆◇
外に出ると意外な人物と出会った。
「……ああ、いらしてたのですか、三島さん……」
リビングに顔を出さなかったもう一人のゲスト。
俺は月明かりに照らされた自慢の張り付いた笑顔で三島に近付き声を掛ける。
「え? ……あ、船で挨拶したっけ……。ええと……」
「篠塚絵里です、三島さん」
「あー……ああ、そうだったわよね。ごめんなさいね? 私、人の名前を覚えるのがあんまり得意じゃなくて……」
少し茶髪のカールの掛かったセミロング。
年齢は30代半ばくらいだろうか。
中肉中背で目立った特長の無い、何処にでもいる中年といった印象の三島。
(……あの居酒屋にいた筈だが……これだけ特徴が無ければ覚えていない筈だよな……)
整った顔立ちの好青年である九条は何となく居酒屋の一番奥の席で食事をしていたという記憶はあるが。
三島に関しては、あの店にいた筈なのだがどうも記憶に残らないイメージの女だ。
「お食事は取られないのですか? ……とても美味しかったですよ? 墨田さんのお料理……」
祥子さんは神田の分しか部屋に運んでいなかった事を思い出す。
「あー……うん。今ね、ダイエット中なのよ。……夜は食べないようにしているの」
少し下をペロっと出し恥ずかしそうに言う三島。
今思い出したが、確か祥子さんもそんな感じの事を言っていたかもしれない。
「そうでしたか……。私もそろそろダイエットとかしないと駄目かも知れませんね……」
さして興味の無い話ではあるが、とり合えず合わせておくに越した事は無い。
既に『犯人』と思しき人物は、あと数時間で命を落とすのであろうが。
彼が『犯人』では無かった場合は、即座に次の『犯人』と思しき人物を探さねばならない。
その為の情報収集……。
俺は夜風に当たりながら―――。
―――注意深く、三島智子とたわいも無い話に華を咲かせる事にする。
◆◇◆◇
一時間ほどたっぷりと夜風に当たりながら三島と談笑した俺は洋館へと戻った。
勿論ただ普通に話をしていただけでは無い。
一つ一つの言葉に矛盾は無いか。
それとなく『あの日』の話を振ったりしながら『犯人』しか知りえないような情報を漏らしたりはしないか。
しかし何もそれらしい情報を得る事も無いまま三島との会話は終了。
(……やはり『犯人』は神田で決まりなのだろうか……)
決まりも何も、奴はあと数時間の命。
少なくとも明日の朝までには死んでいるのだろう。
俺が神田を殺すと決意した奴の『言葉』……。
『幸いニュースでは取り上げられなかった』。
神田のこの、たった一言が、俺の導火線に火を付けてしまった。
たったそれだけ。それだけの事なのだが、俺は込み上げる殺意を抑えられなかったのだ。
そもそも何が『幸い』なのだろうか。
人が一人殺されたのだ。しかも自分の部下が。鈍器で何度も何度も頭蓋骨を割られて。
それを『幸いにも』などと表現する事自体、許せなかった。
冷静に考えてみれば新聞記事に企業名が出なかった事は『幸い』になるのかも知れない。
そして話している相手は遺族でもなければ何の関係もないただの女子大生。
神田からしてみれば気に入らない部下が殺された事に対し、さして思い入れなど無くても別段変な事でも何でも無い筈なのだ。
……いや、もしかしたら、本当は良心の呵責に悩まされているのかも知れない。
だからこそ塞ぎ込み、気分が優れていないのかも知れない。
しかし、だとしても、だ。
そんな状況で神田はこの『篠塚絵里』に色目を使って来た。
あわよくば『ヤレる』とかも考えていたに違い無い。
そしてその『篠塚絵里』の中身が俺だと気付かずに『幸いにも』なんて言葉を使ってしまったのだ。
(……しかし……俺はこんなにも『沸点の低い』人間だったか……?)
今までだって散々神田とやりあってきた筈だ。
その都度『脳内』では神田の事をズタズタに引き裂いてやったのは確かだ。
しかし本当に毒を盛って殺そうとか、ナイフで後ろから刺し殺そうなどとは考えた事も無かった筈。
そんな事を実際に行動に起こしてしまってはどういう事になるかくらい当然理解している。
(……一体俺は今までどうやってこの感情を『発散』して来たんだろうな……)
酒か? 風俗か? それともより仕事に打ち込むことか?
……何かしっくりと来ない気がする。
そんな事を考えながら中央階段を一番上まで上り切った頃、左奥の通路から二人の男の大きな声が聞こえて来た。
俺は何が起きているのかを直感し、そちらの方へと歩を進める。
「……あの……どうかなされましたか?」
【208】とプレートに書かれた部屋の前で透と恭一郎がドアに耳を当てている。
「ああ、絵里ちゃんか……。いやね、これから神田部長と俺らで軽く仕事の打ち合わせでもしようと思ったんだけど……この通り」
透はドアを指差す。
中からはかなり大きないびきの音が響き渡っていた。
「さっき墨田さんが食器を下げようとして部長の部屋をノックしたそうなんだけどさあ。返事が無いからドアを開けようとしたら鍵は閉まってるし、このいびきだろ?なんか食事を部屋に運んだときもウイスキーの空き瓶とかが置いてあったそうだし……こりゃあ朝まで起きてこないよな……」
恭一郎はそう言い苦笑する。
確かにさっき中央階段を上る途中で祥子さんとすれ違いはしたが、あれは神田の部屋に食器を下げに行く帰りだったのか。
「……まあ、部長も疲れてるわな……」
何か意味ありげな視線を恭一郎と交わす透。
そしてそのまま俺に挨拶をし、部屋へと戻っていく二人。
俺は彼らに挨拶をし、ニヤケそうな顔を必死で押さえ自室へと戻る。
◆◇◆◇
部屋に戻った俺はポットのお湯で珈琲を作る。
そしてテーブルに着きいつもの通り、メモとボールペンを取り出し思案する。
全ては計画通り。
神田はあのまま、二度と目覚める事は無い。
そして明日には周知の事実となるのだろう。
鍵が内側から閉められているのも好都合だ。
マスターキーは祥子さんが持っている。
そして俺が神田の部屋に入ったという事実は誰も知らない。
俺はボールペンを片手に今までの行動にミスが無かったかどうかのチェックをメモする。
201〇/07/21
●神田の部屋に入った所は誰にも見られていない
●使用した薬は二種類。遅効性の猛毒『テトラドトキシン』と即効性の睡眠導入剤『ゾルピデム』
●濁り成分の入っている緑茶に混ぜ、神田がそれを飲み干すのを確認済み
●墨田祥子が食事を部屋に届けた時点では神田はまだ起きていた
●その後食器を下げに向かった際には部屋に中から鍵が掛けられ眠ってしまっている様子の神田
※『ゾルピデム』の効果が現れるのは約30分前後。ウイスキーをすでに一瓶空けていた為多少効果が現れるのが早いと予想。墨田祥子から食事を受け取った神田はさぞ不思議に思っただろう。何故俺が二人分の食事を持って現れなかったのか。一人では持ち切れずに後からすぐに来ると踏んだのだろうか。
●何気無くリビングでの会話の中で神田の話題を振り、それが功を奏してか飯島透と大森恭一郎もアリバイ証言者としての利用価値が生まれた
●遅効性の猛毒『テトラドトキシン』は数時間から十数時間で効果が現れる。これも神田がアルコールを大量に摂取している事からも全身麻痺症状がピークになるのは早くて5時間ほどだろうか。先程神田の部屋の前でいびきが聞こえていた事から、早くても死亡時間は深夜から明け方2時くらいだろう。明日の朝食の時間までには確実に死んでいると予想出来る
俺はボールペンを置き、珈琲を啜る。
そして思案する。
神田が『犯人』かどうかは、多分神田が『死んだ瞬間』に分るのだろう。
『犯人』に『報復』が済んだ瞬間に、この『ゲーム』はクリアとなる。
俺の予想では、あの『真っ白な空間』に俺の意識だか身体ごとが飛ばされ、『金髪の女』からコンプリートの言葉を受け取るのだろう。
そして『神田を殺害した事実』が消され、俺は正式に『蓮城寺茜』として第二の人生を謳歌する事になるのだろう。
だからこそ俺は、後々鑑識が入ってしまえば誰が神田を殺した『犯人』なのかがすぐに判明してしまう方法を用い殺害をしている。
回りくどく二種類もの薬品を用い殺害したのは『警察の目を欺く事』では無く、この洋館にいる素人共を『一時的に欺く為』のものでしかない。
そもそもこの世の中に『完全犯罪』など存在しないと俺は考えている。
しかし、今の俺にはそんなものは必要無い。
ほんの少し、俺の『報復』が完了するまで、他者にばれなければそれで良いのだ。
今回の『措置』は『神田が犯人では無かった時の為の措置』でしか無い。
間違えてしまったのならば次のターゲットをまた探さねばならないのだから。
俺の『報復』は―――。
―――『犯人』を殺害するまでは、止める事の出来ない『殺人者』としての『使命』なのだから。
◆◇◆◇
次の日の朝。
朝食の準備が整い皆を起こしに各部屋を回る祥子さん。
しかし【208】号室の神田だけは返事が返って来なかった。
飯島、大森、佐川が代わる代わる声を掛けるが全く返答が無い。
祥子さんは管理人室でもある自室からマスターキーを持ち出し、神田の扉を開ける。
そこにはベッドの上で眠るように死んでいた神田の姿があった。
・・・
『1階:リビング』
「……まさか……神田部長が……死んでるなんて……」
両肩を抱えながら震え出す美紀。
「本当に死んでいるのかね? 眠っているだけなんじゃ……」
未だ信じられないといった様子の尾崎。
「……いえ。脈を取り、瞳孔も確認致しましたが……」
無表情でそう言う祥子さん。
「……マジかよ……大輔が殺されて部長まで……?」
そう透が口走った瞬間、場の空気が凍る。
「おい……飯塚君、と言ったか? ……君が言っているのは……先日、通り魔に殺されたっていう『大泉大輔』の事じゃ……?」
尾崎が何かを思い出したように真っ青な顔で透を問い詰める。
「え……な、何故尾崎さんが大輔の事を……?」
「な、何故って……それは……」
沈黙する二人。
尾崎があの通り魔殺人の『第一発見者』だという事は報道されてはいない。
調べれば誰でも分る事だろうが、よっぽど理由がある奴でもなければ『第一発見者』の身元など調べる筈も無い。
「……と、とにかく……警察に連絡を入れないと……」
黙っていた九条が皆に提案する。
「……それは出来ません」
「え?」
皆の視線が祥子さんに集まる。
「既に船内でもご説明させて頂いておりましたが、この湖畔周辺は携帯電話の電波は圏外となっております」
「こ、固定電話で連絡すれば……!」
「あいにく固定電話も御座いません」
「そんな……」
うな垂れる九条。
「じゃあ、何? 次の迎えの船が来るのは6日後なんでしょう? それまで神田さんの遺体は……」
その先を言えずに黙ってしまう三島。
「おいおい……この真夏に6日間も遺体なんてほっぽって置いたら……」
恭一郎の言葉で皆ぎょっとした表情になる。
「な……何とかしなさいよ! あなた管理人なんでしょう!」
祥子さんに食って掛かる三島。
「……畏まりました。何とか遺体の腐敗は防いでみましょう。どうか皆様は残り6日間、こちらで我慢して過ごして頂く他に……」
「死体と一緒に6日間も!? ふざけないでよ!」
ヒステリックに叫びだした美紀。
集まった全員が顔面蒼白だ。
と、ここで俺は隣にいるあすみだけが何も言葉を発さずにブルブルと震えている事に気付く。
「(……大丈夫? 七貝さん……)」
彼らの輪から少し外れ、あすみに声を掛ける俺。
「(……う、うん……ちょっと……気分が悪くて……)」
今にも吐いてしまいそうな表情のあすみ。
俺は祥子さんに目配せをしてあすみをキッチンルームへと連れて行く。
「(……ごめん……有難う、茜……)」
「(……うん。良いのよ……)」
ついあすみは俺の『本名』で呼んでしまっていたが、誰にも聞かれていない様だ。
俺はあすみの背中を撫でながらも考える。
あすみの驚き方はあまりにも異常では無いか?
確かに昨日まで生きていた人間が今朝ベッドで死んでいたら誰だって驚くだろう。
しかしあすみは神田とは今まで面識が無かった筈だ。
なのに何故。
まるで『今までずっと知っていた人物が突然亡くなった事にショックを受けている』様な態度なのだろう。
もしかしたら旧知の仲だったのだろうか?
でもそんな素振りは全く見せなかった筈。
それ以前に確かあすみは船内の挨拶回りでも、この洋館に来てからも、一度も神田と会話をしているのを俺は見ていない。
旧知の中だったら挨拶くらいは交わすだろう。
何か隠さなければならない事でもあったのだろうか。
今朝、俺は目覚めた瞬間、今いる自分の場所を確かめた。
しかし寝る前と同じベッドの上で目が覚めた。
という事は、神田は『犯人では無かった』という事か。
流石に少し落ち込んだが、俺はすぐに次の『ターゲット』を模索し始めていた。
残り6日。
迎えの船が着くまでは、どちらにせよここから出る事は出来ない。
万が一この中に『犯人』が居なかったとしても、それはここから出てから考えれば良い事。
……その時には、多分俺は『全員』殺しているのかも知れないが……。
俺は思考を先程リビングに居たメンバーに移す。
俺は一人一人のメンバーの表情を注意深く観察していた。
尾崎が透の質問に答えなかった点が一番感じた疑問点ではあったが、新聞記事では『Aさん』としか記載されていなかったのだ。
わざわざこの大事な選挙戦の時期に『第一発見者』を名乗り出る事の方がおかしいのかも知れない。
次に意外だったのは美紀の態度だ。
俺達のプロジェクトメンバーの中でも美紀は神田の行動に唯一『理解』があったメンバーだと言える。
俺や透や恭一郎が、部長のいない間に愚痴を言うと、それをすぐに静止させた。
『貴方達は部長の立場に立って物事を考えた事があるの?』
これはいつも美紀が言っていた口癖だ。
最初この言葉を聞いた時は『部長と美紀は不倫している』などと本気で勘繰ったものだが、どうやらそういった関係は無いらしかった。
その美紀の口から『死体と一緒に6日間も!?ふざけないでよ!』という叫び声が漏れたのはどういう事なのか。
非常事態だったから?
それにしては気が動転し過ぎてはいないか?
あれだけ尊敬対象として庇護してきた上司に対し、『死体』と言い張った美紀。
いくら何でも態度が変わり過ぎな気がする。
それともさっき透が言っていた、俺の『通り魔殺人』と部長の死を関連付けているのだろうか?
だとしたらその理由は何だ?
まだ通り魔殺人の『犯人』が捕まっていないからか?
ならば透も美紀もその『犯人』が何かしらの方法で部長まで『殺した』と思い込んでいるのだろうか?
もしそうだったとしたら……。
(……あいつらは、『この中』に『通り魔殺人の犯人が居る』と考えている、もしくは……)
俺はあすみの背中を擦る手を止める。
―――何者かに自身が『報復』される事を怯えているのかも知れないな。
◆◇◆◇
神田の遺体は屋敷の裏手にある、今は使われていない『冷氷庫』と呼ばれる場所へと運んだ。
当然恰幅の良い神田を祥子さんが運べる訳も無く。
透、恭一郎、そして九条の3人掛かりで2階から中央階段を抜け、中央扉から外に出て裏手に回り、電気を通した『冷氷室』に布団を敷き、寝かせる事にした。
「……まさか、数年ぶりに開けた『冷氷庫』をこんな形で使用する事になるとは……」
ポツリと呟いた祥子さんのこの言葉に一同が気を沈める。
俺は傍らでその様子を伺った後、自室へと戻った。
・・・
俺はポットから珈琲を注ぎながらも思考する。
残る容疑者は7名。
やはりこの中で容疑が高いのはあの3人だろう。
飯島透。
大森恭一郎。
佐川美紀。
ではこの3人の中で、一番可能性が高いのは?
俺はあの『殺された夜』の事を思い出す。
薄暗い裏路地。
頼りなく照らされる街灯。
そして唯一俺が見た、犯人の足元。
あの特徴的なスポーツシューズ。
……あれは女物のシューズでは無いだろうか。
犯人は確実に俺を『殺す』つもりで何度も何度も鈍器で殴った。
明らかな『殺意』を持っていた事は確かだ。
俺が犯人の足元を見ていようが居まいが、死んでしまえばそんな事は他者にはばれるはずも無い。
ならばあのシューズに『ダミー』を仕込んでおく事も無い。
男なのに女のふりをして女物のシューズを履く『理由』が無い。
俺は『佐川美紀』を中心に観察する事に決定する。
◆◇◆◇
部屋を出た俺は中央階段を下り、【103】とプレートに書かれた扉をノックする。
しばらく沈黙た続いた後、もう一度ノックをした所で通路向こうの【105】の扉が開き、祥子さんが廊下に出て来た。
俺の様子に気付いた祥子さんは近付き丁寧にお辞儀をする。
「……どうかされましたか? 篠塚様……」
俺がこの部屋の前にいる事が不思議なのだろう。
きょとんとした顔で俺を見つめる祥子さん。
「……いいえ、何でも無いのよ祥子さん。……ただちょっと佐川さんが心配でね……」
祥子さんは何かと鋭い女だ。
あまり言い訳じみた事を口走ると疑われるかも知れない。
「……そうでしたか。しかし佐川様は今、船着場の方に向かわれたと思いますが……」
船着場?
何でそんな所に……。
「そう……。有難う、教えてくれて。そちらに行ってみるわね」
祥子さんは何も言わず、ただいつものお辞儀をし、キッチンルームの方へと向かって行った。
(……何か勘付かれたか……? いやしかし、勘付いた所で何か出来るとは思えないが……)
流石に俺の『正体』がばれる事はあり得ない。
もし何かに気付き、俺を脅して来るようだったら。
―――その時は墨田祥子を殺すまでだ。
◆◇◆◇
洋館を出て湖畔に向かう。
昨日の涼しさが嘘の様に今日は鬱陶しい程の日差しが降り注ぐ。
これでは神田を放置していたら2~3日したら腐敗臭が広がり大変な事になっていただろう。
しかし俺は当然『冷氷庫』の存在は事前に調べてあった。
あの非常時に祥子さんが冷氷庫の存在を思い出す事も計算済みだ。
大丈夫。計画は順調だ。
この残り6日間だけ、俺の犯行だとばれなければ良い。
そこから先はまたその時に考えれば良い。
俺は自分にそう言い聞かせながら船着場までの獣道を歩いて行く。
・・・
船着場に到着すると、すぐに美紀の姿を確認出来た。
俺は草場の陰から様子を伺う。
「……大泉君……」
美紀は一人呟くように俺の名前を言う。
「……ごめんね……本当に、ごめん……」
謝っている?
「……だから……だからさ……。もう……許して?……お願いだから……」
許す? 何を?
いまいちこの距離では上手く聞こえない。
そう思い更に前に歩み出たのが不味かった。
パキン。
「!!誰!?」
小枝を踏んでしまった音が美紀に聞こえてしまった様だ。
俺は観念し、姿を見せる。
「す、すいません……! 驚かせてしまって……!!」
驚いた様な演技をかます俺。
あたふたと慌てふためきながらも美紀の傍に歩む。
「……なんだ……篠塚さんか……脅かさないでよ……」
美紀は安堵の溜息を吐きながらも笑顔を俺に向ける。
(……警戒は……されていないみたいだな……ククク……)
やはりこの『蓮城寺茜』の容姿は使える。
こんな可憐な美女が何かを企んでいるとは誰も思わないのだろう。
「ほ、本当に御免なさいっ! 墨田さんから、佐川さんがここにいると伺って……」
「墨田さんに? ……確かに船着場に行って来るとは声を掛けておいたけど……何か私に用があるの?」
きょとん、とした表情の美紀。
「あ……いえ……、その……神田さんが『あんな事』になって……さぞ落ち込んでいらっしゃるのでは無いかと思って……」
俺のその偽りの言葉に笑みを返す美紀。
「ふふ……。心配してくれたんだ……。有難う。……でもそういう事は意中の男性にしてあげた方が良いわよ? 貴女凄く持てそうだし」
「そ……そんな事は無いです。もう……。佐川さんの意地悪……」
そして二人で笑い出す。
しかし、俺は心で美紀が『ボロ』を出すのを今か今かと待ち望んでいる。
さっきのは『俺を殺してしまった事』に対する謝罪の言葉だったのでは無いか?
もしかしたら俺の『怨念』が神田を呪い殺したとか考えているのかもしれないな。
だとしたらどうなる?
俺は一つの可能性を見出す。
―――佐川美紀は神田信吾と『共犯』だったのでは無いか?
◆◇◆◇
船着場で小一時間ほど美紀と会話し、共に洋館へと戻った俺は、自分の部屋に戻る途中で祥子さんに呼び止められた。
「……少々、宜しいでしょうか……篠塚様……」
相変わらずの無表情。
「?? ……どうかしましたか?墨田さん……?」
祥子さんはじっと俺の目を見つめたまま無言になる。
……なんだ? たまにこういう目で俺を見るよな……。
「……いえ……出来れば私の自室の方に来て頂きたいのですが……宜しいでしょうか?」
祥子さんは俺から全く目を逸らす事無く見つめ続けている。
なんだろう……目力とでも言うのだろうか。
言葉遣いは非常に丁寧なのにも関わらず、一切の『拒否権』を与えないような、そんな空気を感じる。
「え、ええ……別に……大丈夫ですけれど……」
「……有難う御座います……。それではこちらへ……」
祥子さんは踵を返し先頭を歩く。
俺は途中まで昇っていた中央階段を引き返し、祥子さんの後に付いてゆく。
・・・
【105】のプレートが掲げられている部屋の鍵を開け、祥子さんは俺を招き入れた。
他の部屋同様、前回視察に来た時もこの部屋の構造は隅々まで調べてある。
多少他の部屋よりも小さめに設計されている105号室。
ここも客室の一部ではあるのだが、構造上作りが小さいため、基本的には『管理人室』として使用されているようだった。
「……取り敢えずお寛ぎ下さい……私は珈琲を入れて参ります……」
そう言い奥のキッチンへと向かって行った祥子さん。
俺は言われた通りソファに腰を掛け、そして思考する。
(……このタイミングで部屋に呼んだという事は……何か気付かれたか……?)
俺はスカートの下に隠し持っているナイフの感触を確認する。
太ももにベルトで固定されてある簡易ナイフ。
しかし急所を突けば人一人死に至らしめる事も可能な、良く手入れされているナイフ。
(……この部屋に入る所は……ちっ……先程美紀がちらりと振り返っていたな……)
俺はナイフを引き抜く事はせず、そのまま祥子さんの後姿を注意深く眺める事にする。
・・・
しばらくして珈琲とお茶菓子をお盆に乗せ、祥子さんはリビングへと戻って来た。
「……有難う、祥子さん」
俺はいつもの祥子さんの珈琲を受け取りテーブルに置き、冷えるまで待つ。
祥子さんは俺のその動作をじっと見つめている。
「?? ……どうしたのかしら? 祥子さん……?」
何かおかしいだろうか?
「いえ……」
そしてそのまま押し黙る祥子さん。
「……祥子さん?」
「……はい」
「……何か、私にお話があったのでは?」
「……はい」
「……」
祥子さんは立ち尽くしたまま何も話そうとしない。
そして、十分な時間を取った後。
祥子さんはその重い口を開き、言った。
「……茜お嬢様。私も茜お嬢様の『計画』に協力させて頂けませんでしょうか?」
◆◇◆◇
静まり返る部屋。
祥子さんは真っ直ぐに、いつもの無表情で俺の顔を真っ直ぐに見下ろしている。
トクン、トクン、と心臓の音がやけに大きく聞こえて来る。
俺は無意識にナイフの感触を確かめていた。
「……何の事を言っているのかさっぱりだわ……」
心臓の鼓動が早くなって行くのが分る。
「……この洋館へと、あの8名を招待するように命ぜられたのは茜お嬢様で御座います」
ぽつり、ぽつりと、俺を追い詰めるように話していく祥子さん。
「……ええ。確かに祥子さんの言うとおりだけど……」
俺はナイフを固定しているベルトのボタンを外す。
「……勝手ながら……彼らに招待状を送らせて頂く際、彼ら8名の『関連性』を調べさせて頂きました」
「!」
こいつ……。
「……そうしたら、一つだけ『関連性』を見つけ出す事が出来ました」
「……」
祥子さんは、気付いている……。
ならば何故、何も言わずに奴ら8名をここまで連れて来たのだ……?
こうやって俺を脅す為か?
「……聞かせて……貰おうかしら……?」
「……」
祥子さんは押し黙ったままこちらを見下ろしている。
まるで『必要でしょうか?』とでも言わんばかりの目付き。
……いや……今の俺は冷静な判断が出来ていない。
祥子さんはいつも通りの無表情で、冷静な目で、俺を見ている。
俺はナイフから手を離し、一度大きく溜息を吐く。
「はあ……。いいわ。……私の負けね……」
「茜お嬢様……」
「いつから気付いていたの?」
「……はっきりと気付いていた訳では御座いませんが……茜お嬢様が選別した8名のうち4名……。あの〇〇株式会社の社員が推し進めているプロジェクトが最初の『引っかかり』の部分で御座いました……」
「プロジェクト? ……まさか……」
一応『危惧』していた部分ではあったが。
まさか『当たり』だったとはな……。
「……はい。彼らが推し進めていたプロジェクトのスポンサー企業の一つ……。その企業の『筆頭株主』が、我が蓮城寺財閥の主、貞治様で御座いましたので……」
ちっ、と心の中で呟く俺。
スポンサーの企業名と社長、幹部の名前は全て暗記はしていたが……。
その企業の『筆頭株主』までは意識が行き届いていなかった。
これは明らかな俺の計画ミス。
「……そのプロジェクトリーダーの『大泉大輔』様という方が通り魔殺人に遭った事は我々の財閥の中でも周知の事実で御座いました。……そのプロジェクトメンバーの主要メンバー3名と、その直属の上司……それに……」
そこから先は言わなくても分る。
第一発見者の新人議員候補に、近くの居酒屋に犯行時刻前後にいた2人の客。
それにあすみは元々祥子さんの知り合いだ。
これら8名全員が『大泉大輔』と『通り魔殺人』とに関わっている可能性の高いメンバーだと、すぐに気付いたのだろうな。
そして祥子さんの目を見つめた俺の心は―――。
―――今後の『計画』にかなりの変更を余儀なくされる事に、内心穏やかでは無かった。