押し問答
「どうしてですか」
己が捕らえた女を見下ろして問う。
「確かに兄さんは善い人です。僕はご覧の通りの人間です。それでも思ってしまうんですよ。――どうして僕じゃないんですか」
目を閉じ、顔を伏せ、反応一つ表に出さない彼女は、いらだつ程に綺麗で。時折見せる笑みは、小さくても心揺さぶるには十分で。しかし、決して兄の前以外では見られぬ笑顔が憎くて。
「どうしたらいいかわからないんです。こんなことしてもどうにもならない。あなたの気持ちは変わらず、ただ兄さんだけに向けられ続ける。わかってます。わかってますが……納得出来ないんです」
衝動的に動いたものの、結局触れることすら躊躇し、恐れる指。もどかしい。
どうすれば。どうすれば、満たされる。
「例えば……一度きりでいいからキスしてくださいとか、嘘でいいから好きって言ってくださいとか。そんなお願いも聞いてくれないんでしょう?」
女がゆっくり目を開く。しんと静まった瞳はチラとも揺れやしない。
「偽りで満足出来ない。君は賢い、だからわかっているはず」
のどが引きつった笑い声を発した。
「なら、せめて……嫌ってください」
「無理。私は君が嫌いではない。好きでもない」
「……知ってます」
目尻が、熱い。
「知ってますよ」
再確認させられる。知っている。そんなこと、ずっと前から。
「あなたは……酷いです」
縛めを解いて、彼女に背を向けた。