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鬼の涙

作者: 松本 和

昔むかし…ある村のはずれの山に、心ある鬼がいた。


その鬼は別の鬼にこう尋ねたことがある。

「どうして鬼は泣かないの?」

別の鬼は答えた。

「もともと泣かないようになっているからさ。」


その鬼にはどういうことなのかよくわからなかった。

その鬼は少し変わった鬼だった。


それから2年たった日のことだった。その鬼は獲物を探して山を歩いていた。


するとその鬼は人間の娘を見つけた。今日は大物だ。鬼は喜んで娘に飛び付こうとした。


その時、鬼は娘が泣いていることに気付いたのだ。以前から“泣く”ということに興味があった鬼は娘にもまた興味を示した。


鬼は姿を隠しながら娘に話し掛けた。

「君はどうして泣いているの?」


娘はただただ泣いているだけで答えてはくれなかった。しかし、泣きながら

「お母さん、お母さん。」

と呟いているのが聞こえた。


それでも鬼には娘が何故泣いているのかわからなかった。


しばらくして娘は泣くのをやめて立ち上がった。鬼はびっくりして声をあげそうになった。ぐっと堪えた。

娘はそのまま歩きだした。立ち止まる気配も見せなかった。


やがて娘は駆け出した。鬼は訳もわからずについていった。


そして娘の前に人影が現れた。娘は一目散にそこへ駆けていった。


鬼は危ないっ!と思った。なぜなら、鬼はそれが娘の母だとは知らなかったからだ。


鬼は娘が怪しい人に駆け寄っていくように見えたのだ。


鬼は娘と母の間に入り込んだ。いけないことだとはわかっていた。人間は鬼にたいして好いイメージを一つも持っていないからだ。


しかし、鬼は娘を助けたかった。助けて『お友達』になりたかった。


娘は目の前にいきなり現れた鬼を見て、甲高い悲鳴をあげた。鬼はそれを聞いて胸の真ん中あたりがズキンッとしたのがわかった。


娘の目の前にいきなり現れた鬼を見て、母はとっさに近くに落ちていた石を拾い、鬼の頭に向かって思いっきり投げた。


鬼には母であるその人が娘にたいして投げているものだと思った。


…鬼は娘を守ろうとした。両腕で娘を抱き締めた。

鬼はそのまま、母のもとを離れた。

母は追い掛けてきたが、見えなくなるまで必死に逃げた。

最初、抵抗していた娘だが鬼が逃げおわった頃には抵抗をやめていた。…というよりも、鬼の腕の中でぐったりとしていた。


鬼は不思議に思って、腕を広げて娘を見てみた。よく見ると娘の腕や足はありえない方向に曲がっていた。

鬼は娘が息をしていないのに気付いた。鬼である彼の力は普通にしていたつもりでも娘を握り殺してしまうほど、強かったのだ。


鬼は何故だかわからなかった。ただ、何かに裏切られた気がしていた。友達にもなれなかった娘は今、鬼の腕の中で涙を流したまま死んでいるのだから。


鬼はとても悲しく思った。生まれて初めての感情ではじめは戸惑ってしまった。

しかし、鬼は泣くことはなかった。悲しいと思っても涙は出なかった。


鬼は娘を抱き上げようとしたが、その度に娘の体が形を変えてしまうのが恐くて結局、置いていくことにした。


埋めはしなかった。鬼にそんな知識はなかった。


昔むかし、ある村のはずれの山に、心ある鬼がいたが、その鬼でさえ涙を流すことはなかった。

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― 新着の感想 ―
[一言] もう少し講成を練る必要があると思います。 ストーリーが持つ感性そのものは非常にいいと思いました。
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