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07. せめて腹九分目で

 出そうになる欠伸を奥歯を噛み締めて耐える。瞬きを繰り返して眠気を飛ばそうと試みるが、閉じた瞬間にブラックアウトしかけ、ハッとした。……今、船を漕いでしまったのではなかろうか?


 今、私は猛烈に眠い。


 クロードさんと早速テレビを見ることになり、何を見たいかと問われ、サトシが好きそうなロボットアニメを見ることにした。と言っても、私はさっぱりアニメタイトルが分からなかったので、「ロボットが出るアニメが見たい」旨だけをクロードさんに伝え、彼に選んでもらった。丁度5話連続放送のロボットアニメが放送されており、それを見ることに。

 1話30分。それが5話。興味が持てる話だったらあっという間の連続5話なのだろうが、残念なことに私好みでは無かった。カタカナの名前が多すぎてついていけない。人の名前なのか、地域の名前なのか、ロボットの名前なのか、武器の名前なのか……。1話目まではしっかり起きて見ていたものの、2話目辺りから記憶が危うい。人間関係とかは面白そうなのだけれど、続きが気になるよりも睡魔の方が勝ってきてしまった。

 その睡魔と闘っているのだが、なかなか退散してはくれない。


 何しろこの状況が良くない。


 満腹以上に満たされたお腹。食後は眠くなりやすいというのに、お昼にあれだけいっぱい食べたのだ。睡魔が訪れて当然。

 そして私は現在心地良い温もりに包まれている。これで眠くなるなと言うのは酷だ。


 お尻も背中も心地良い温もりを感じるこの状況。何故か私はクロードさんの膝の上。どれだけ子供扱いなの、クロードさん! と文句を言いかけた。が、実年齢を明かしていない身。それにクロードさんが、会社で子供の居る社員に、休日の子供との過ごし方を教えてもらったとかで実行する気満々。ソファーに座ったクロードさんが、膝をポンポンと叩き、「さぁ、マコトおいで」と満面の笑みで言われてしまったら…………断れなかった。

 我が家は家族仲が良い方だと思うが、父親の膝の上でテレビを見たのって、幼稚園の年少ぐらいまでだ。クロードさんに子供扱いされているとは言え、そこまで幼く見られているとは思っていなかったのだが……。どうしよう、3歳ぐらいの子供に見られていたら。流石にそんなことないよね?


 眠気を誤魔化す為に、テーブルの上のジュースに手を伸ばす。それをクロードさんが気付き、ジュースを手渡してくれる。そして私が飲み終わったの見計らってそのグラスをテーブルへと戻してくれた。

 ジュースを飲んで多少は眠気が紛れたけれども、この方法は何度も使えない。こう甲斐甲斐しく動かれてしまうと、申し訳なくてジュースもろくに飲めないのだ。



「マコト、飽きたか?」



 素直に答えるか迷う。ロボットアニメを見たいと言ったのは私だ。言い出しておいて飽きたは失礼な気がして、首を横に振る。それに対しクロードさんは「そうか」と呟き、私の頭を撫でてくれた。

 撫でる手が優しい。それ故に更なる睡魔に襲われる。その眠気が心地良過ぎて抗う気を削がれた。


 お父さんの手とも、お母さんの手とも、サトシの手とも違う手。

 クロードさんとはまだ一週間しか一緒に過ごしていない。クロードさんについてはまだ知らないことが多い。それでも、この手は信用して大丈夫だと、そう思えるだけの何かがある。一週間、短いようで、それでもクロードさんの人となりを知るだけの時間を、共に過ごしているということなのだろう。


 優しくて、とても安心出来る手だ。

 その手に軽く頭を委ね、重くなった目蓋をゆっくり閉じた。




 睡魔に負けた私が目を覚ました時には、テレビの音は消えていた。そして視界も寝る前とは違っていた。それもそのはず。眠る前と体勢が違う。私はクロードさんの膝の上に座っていたはずだ。テレビを見ながら寝てしまったのだから、本来なら見えるのはテレビ。或いは首を落として自分の膝辺り。間違ってもクロードさんの顔が見える体勢では無かったはずなのだ。

 しかしクロードさんとばっちり目が合ってしまった。クロードさんは私を見下ろしている。座っていたはずのクロードさんの膝の上には…………あ、れ? 私の頭?



「ご、ごめんなさいっ」



 これって膝枕じゃん! と慌てて起き上がろうとしたところを、「急に動いたら良くない」と制される。一度はクロードさんから離れた頭が再びクロードさんの膝の上に戻った。

 クロードさんの手がまた優しく私の頭を往復する。その動きを邪魔しない様に、視線だけ動かし窓を見遣ると、カーテンを閉じていない窓の向こうは既に暗い。30分程度の転寝だと思ったが、どうやら予想以上に寝ていたようだ。



「疲れていたんだな」


「えっ?」


「マコト、早く家に帰りたい気持ちは分かる。だが無理は良くないよ。慣れない内の魔力の練習は、自分が思っているよりも体力を消耗するんだ。少し練習を減らしなさい」



 無理をしているつもりは無い。寧ろもっと練習を頑張ろうと思っていたのに。その私の不服を感じ取ったのだろう。苦笑と共に頬を撫でられた。



「体が万全で無ければ、使えるであろう魔力が発動しないこともある。それでは練習が無駄になるだろ?」



 そうもっともなことを言われてしまえば頷くしかない。



「よし。じゃあ夕飯にするか」



 もうそんな時間なのかと驚き、起き上がって時計を確認すると7時になろうとしていた。



「ごめんなさい。今から食事の準備します」



 とは言えどうしよう。夕飯を何にするか全く考えていなかった。昼が重かったから、軽めのものにしようというイメージだけで、冷蔵庫に残っている物の確認もしていない。



「あぁ、それなら問題ない。出前が届いているから」


「へ?」



 クロードさんが指差す方、ダイニングテーブルには出前らしき器が並べられている。漆塗りのような黒い器。見覚えのある器には予想通りの物が入っていた。



「お寿司!」


「夜はさっぱりした物が良いと思ってな。マコト、寿司は大丈夫か?」


「はい、勿論」



 今日は三食全て準備しなかったことを申し訳なく思う。だけれど、夕食のチョイスは、クロードさんナイスだ!

 …………しかし。



「あの、クロードさん。これ何人前ですか?」


「何人前とは書いていなかったと思うが」


「そんなことないと思うんですけれど」



 机に置かれたままの、注文表を手に取り確認する。そこには小さく『5人前』の文字。



「えっと、クロードさん……」


「マコトは育ち盛りだから、これぐらい軽く入るだろ?」




 あぁ……。お父さん、お母さん、サトシ、マコトはそちらに帰る頃には今より肥えていそうです。


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