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02. ご主人様

 ズズッ……と、音を出すのは行儀が悪いかと思いつつ、1時間半前飲んだ物と同じバニラシェイクを口に運ぶ。

違う物を頼めば良かったかなと頭の片隅で思ったが、体が糖分を欲していたので後悔は無い。うん、甘い物って落ち着く。


 本日2度目のファーストフード店。1度目と違うのは、場所は大学近くではなく、自宅の最寄駅もどきの闇が峰の駅ビル内。そして私の目の前に座っているのは、友人ではなくクロードと名乗った男性。ちなみに彼が飲んでいるのはホットコーヒー。砂糖とミルクを使う友人とは対照的に彼はブラックだ。


 私を拾うと言ったクロードさん。流されるがまま連れて行かれては堪らないと、「きちんと自己紹介したい」と言ってここに連れこんだ。名前しかしらない男性に、どこまで事情を曝け出しても良いものか迷ったが、捨てられたという誤解だけは解いておかねばならない。そうでないと本当に拾われてしまうのだから。


 ちなみに定期券は案の定使えなかった。しかし私が持っていたお金で精算は出来たので無事改札から出ることが出来た。どうやら通貨は私の世界と同じらしい。そのことにはホッとしたが、あまり所持金が残っていない今の状況は安心出来ない。

 まぁそんなお財布都合で、選んだ店がファーストフードだったのだが。そんな私の事情を知ってか知らずか、シェイクの代金は彼が支払ってくれた。「マコトはまだ子供なんだし素直に甘えなさい」だって。

 そういえば駅の改札での精算でも彼が支払おうとしていたのを思い出す。あの時は私が自分の持っているお金を使ってみたいと駄々こねて押し切ったのだが……。精算をしている時、クロードさんと何故か駅員さんまでもが、小さい子供の初めてのおつかいを見守るかのような瞳で見ていたのが非常に気になる。いったい私はいくつの子供に見られているんだろうか。問うてみたいが敢えてそこは聞いていない。逆に年齢を問われることもしていないので言っていない。実年齢を誤解されている節はあるが、この誤解を解くのは今は保留。ほら、幼く見られていた方が有利なこともあるかもしれないでしょ? とりあえず今の優先事項は捨てヒューマンではないという誤解を解くこと。



「マコトは異世界……こちらで言う、256エリアから来たという訳か」



 誤解を解くにあたり、闇が峰の人間ではなく、光が峰から来た旨を伝えた。電車から降りたら、光が峰ではなく闇が峰だったと。

 結果、意外にあっさりと話を信じてくれ、そしてこちらの世界のことを少しだけ知ることが出来た。


 こちらの世界では、異世界渡りは珍しいことではないそうだ。ある程度の魔力を保持している者ならば、誰でも出来るとのこと。とはいえ人間はそれに相当しない。基本、人は魔力を保持しない。基本と条件つけたのは、最近魔力を保持する人間も増えてきたから。

 こちらの世界に初めて人が訪れたのは、もう何千年も昔のこと。異世界渡りをしたこちらの者が、人間をペットとして連れて帰ってきたのが始まりだそうだ。大昔は、捨て犬、捨て猫同様、捨てられる人間も居たのだとか。何て酷い話だ。

 しかしここ数百年で、ペット(人間)は家族の一員という考え方が広まり、捨てられる者もだいぶ減ったとのこと。そしてここ数十年では、人を伴侶に選ぶ者も増えてきており、その夫婦から産まれた子供達は、人間の遺伝子を強く引継いだ子でも、多少の魔力を持っているそうだ。とは言うものの、異世界渡りをするだけの魔力を保持する人間の子はそうそう居ないらしい。


 クロードさんは相手の魔力をある程度見ることが出来るそうで、私の魔力を見てもらったところ、異世界渡りをするだけの魔力を保持していることが分かった。



「もしかして、マコトのご両親どちらかが、こちらの人間なのか?」


「い、いや……違うと思います」



 異世界渡りが珍しくないことと同様、こちらの者が私が居た世界に移住することも珍しくないらしい。特に私が居た世界……こちらでは256エリアと呼ばれている世界は、こちらと言語と環境がほぼ同じだそうで、初めて異世界渡りをする者や移住を希望している者に人気のエリアとのこと。

 知らないだけで、ご近所の人や友人、更にもっと身近な家族が、実はこちらの者だったりするのかもしれない。


 まさか、お父さんかお母さんのどちらかが……。


 いやいや、それはないだろう。今までそんな素振り見せたこと無いし、もし魔力なんて持っていたとしたら自慢しちゃいそうな親だもの。

 でも敵を欺くにはまず味方からと、異世界人であることを隠すために私にも隠していた可能性だってある。


 うーん、これは考えても答えが出ないので一先ず保留。



「で、捨てヒューマンでないことは分かって頂けたでしょうか?」


「ああ。勘違いして悪かったな」



 うん。誤解が解けてめでたしめでたし。



「だが帰れないんでは、この後どうする?」


「うっ……」



 そうなのだ。異世界渡りをするだけの魔力はある。だけれど魔力があるだけでは異世界渡りは出来ない。

 クロードさんに魔力量を見てもらった時、私に異世界渡りをするだけの魔力があったから偶々何かの拍子にこっちに来ちゃったのかな? 魔力があれば誰でも異世界渡りを出来るっていう話だし、簡単に元の世界に帰れるんじゃん? と思った。

 異世界渡りをするには魔力を用いなければならない。魔力を使用する際、呪文なり魔方陣なりが必要となるそうだ。それが人によって違うとのこと。無詠唱で魔力を使う者も居れば、魔方陣も呪文も必須な人も居る。クロードさん曰く、魔力の使用はイメージ。呪文や魔方陣はあくまでイメージを明確にし現象化させる為の手段。別に呪文や魔方陣で無くても、上手くイメージを湧かせられるのであれば、スキップでも大声で笑うとかでも何だって構わないらしい。

 私もこちらの世界に来た際に、魔力を用いる為の何かをしたはず……なのだそうだが。その感覚を思い出せれば元の世界に帰れるだろうとクロードさんは教えてくれたのだが。


 ……全くもってそんな記憶は無い。


 だって気付いたら闇が峰の駅に居たんだもの。いつも通り、普通に電車からホームに降りただけだ。特別なことをした覚えは無い。


 今回の私みたいに、無自覚に魔力を用いる者も居るらしい。主に小さな子供。無自覚に魔力を使い転移して迷子になる子も居るんだとか。ただそういう事故を防ぐ為に、幼い内から魔力の使い方は練習させられるらしい。

 魔力が無いとされている世界で生活していた私は、勿論そんな練習なぞしていない。魔力の使い方に関して言えば、私は幼児と一緒。


 魔力の使い方が分からないので、元の世界に帰れないのだ。



「とりあえず、俺の所に居候するか? 空いている部屋はあるし、マコトが帰れるようになる日まで居ても構わないぞ」



 こちらの世界で行く当てはない。だからと言ってすぐに帰れそうもない。ホテルに宿泊するだけのお金は……残念ながら持ち合わせていない。となれば、誰かに頼るしか術はなさそうだ。



「……クロードさんの所にお邪魔させてもらっても良いんですか?」


「ああ。元々拾うつもりだったのだし。生活費も面倒見てやるから安心しろ」



 よし、ここは素直に甘えちゃおう。



「クロードさん、暫くの間宜しくお願いします」


「ああ。改めて今から俺がマコトの主だな。宜しく」



 ん? ……あれ? もしかして捨てヒューマン扱いの時と状況あんまり変わってない?

 捨てヒューマンの誤解は解けたけれども、クロードさんが主人になることには変わりない訳で……。



「ご主人様?」



 あぁ……。お父さん、お母さん、サトシ、マコトは『ご主人様』とお呼びする相手が出来ました。帰るまでの期間限定ですが。



「あのな、マコト。俺のことはクロードで構わないぞ」



 あっ、そうですか。


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