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異世界喫茶で再出発ライフ  作者: 鳥助


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6.手続き(2)

「星見亭の営業許可も取れたニャ! これで、いつでも再開できるニャ!」


 チャルカは嬉しそうに耳をぴこぴこと動かし、しっぽをウキウキと揺らす。その様子に、こちらまで頬が緩んだ。


「手続きが思ったよりスムーズで驚いたよ。……でも、書類に記入して、血をちょっと提出するだけでいいの?」

「それで問題ないニャ。血を提出すれば身元を証明できるから安心ニャ。ただ、場合によっては血じゃ証明にならないこともあるニャ。そのときのために身分証のタグを発行する必要があるんだニャ」

「なるほど……じゃあ先に発行しておいたほうが良かったのかな?」

「今は特に必要ないニャ。町の外へ出るときに作れば十分ニャ。でないと、なくしちゃうんだニャ……私みたいに……ニャー……」


 しょんぼりと耳としっぽが垂れ下がる。どうやら過去に痛い目を見たらしい。その姿に思わずよしよしと手で頭を撫でて励ましたくなってしまった。


 けれどチャルカは、ぱっと顔を上げて再びぴんと耳を立てる。


「落ち込んでても始まらないニャ! 次は銀行に行くニャ。チコさんの財産をアカネさんが受け継ぐ手続きをするんだニャ!」

「おばあちゃんの財産……。一体、どんなものがあるんだろう」

「チコさんは昔、あちこちで活躍してたからニャ。その頃の戦利品や記念の品がたくさん残ってるって聞いたニャ。それに、喫茶店をしていたときにお客さんからもらった大事な品もあるはずニャ」

「へぇ……思い出が詰まった財産か。なんだかワクワクしてきたな」


 それを見れば、おばあちゃんがどんな風に生きてきたのか分かるかもしれない。私の知らないおばあちゃんを知れるのは、嬉しくて少し胸が高鳴った。一体、おばあちゃんはこの異世界でどんな日々を過ごしていたんだろう。


 むくむくと膨れあがる好奇心に背中を押され、通りを歩く足取りは自然と軽やかになる。チャルカとおしゃべりしながら進んでいくと、やがて目の前に重厚な建物が姿を現した。まるで要塞のような石造り。ここが銀行らしい。


 中へ入ると、役所と同じように広いホールが広がっていて、ずらりと並ぶカウンターに人々が列を作っていた。種族も姿もさまざま。きらめく鱗を持つ人や、背中に翼を持つ人まで。銀行という場所の堅さに加えて、異世界らしい多様さが不思議と調和していた。


「相続は……あっちだニャ」


 チャルカがきょろきょろと辺りを見回し、迷いなく一つの窓口へ歩いていく。そこで待っていたのは落ち着いた雰囲気の女性職員だった。


「本日はどのようなご用件でしょうか?」

「チコさんの相続をしに来たニャ」

「……チコさん。もしや、星見亭の?」

「そうだニャ」

「承知しました。只今、担当者をお呼びいたしますので、どうぞお掛けになってお待ちください」


 促されるまま、私たちは近くの長椅子に腰を下ろした。少し緊張しながら待っていると――しばらくして、背筋の伸びた中年の男性が静かに歩み寄ってきた。


「お待たせいたしました。チコ様のお孫様、アカネ様でいらっしゃいますね?」

「は、はい……。私のこと、ご存じなんですか?」

「もちろんです。チコ様から、事前に大切なお話を承っておりました。では、こちらへ。別室にて手続きを進めさせていただきます」


 そう言って案内された先は、銀行の奥にある重厚な扉の向こう。中へ入ると、まるで貴族の屋敷の応接間のように豪華絢爛な空間が広がっていた。柔らかな絨毯に、磨き上げられた木の調度品。壁に飾られた絵画や燭台までもが、この部屋の特別さを物語っている。


 緊張したままソファに腰を下ろすと、中年の男性はにこやかに微笑み、丁寧な口調で口を開いた。


「それでは、簡単に仕組みをご説明したうえで、財産の手続きに移りましょう」


 落ち着いた声に少し緊張がほぐれる。男性は銀行のシステムについて一つひとつ説明してくれた。基本は日本の銀行と大きく変わらず、お金や貴重品を預け、必要な時に受け取れる仕組みだという。


 ただ、一つ大きな違いがあった。異世界ならではのカードだ。


 このカードには預けている金額が表示され、専用の装置に差し込むことで、金銭の受け渡しがその場で完結してしまうらしい。


「……すごい。日本より便利かもしれない」


 思わず小さく呟いてしまった。銀行に行かずとも振り込みや引き出しができるなんて、手間が大幅に省ける。きっと星見亭を切り盛りする時にも、このカードは欠かせない道具になるだろう。


 早く使いこなせるようにならなくちゃ。そう思うと、少しだけ胸が弾んだ。


 あらかたの説明が終わると、本題の財産の手続きに移った。必要な書類に記入をして、事前に登録してあったおばあちゃんの血と私の血を合わせて血縁であることを確認した後、私の血も登録する。


 それが終わると、おばあちゃんの財産は私のものになった。思ったよりも呆気ない手続きで、拍子抜けをしてしまう。


「では、こちらがアカネ様のカードになります。ご確認ください」


 差し出されたカードを手に取って眺めた。銀色の表面に黒字で文字が刻まれた、見た目はごく普通のカードだ。


 確か、意識を向ければ、残高が分かるって説明されていたはず。


 半信半疑で意識してみると、カードの表面に数字が浮かび上がる。次の瞬間、その桁数を目にして思わず息を呑んだ。


「え、えっと……これって、間違いじゃないですか?」

「間違っておりませんよ。一バルドも動いておりません」


 にこやかに返され、じわりと汗がにじむ。いやいや、そんなはずない……! そ、そうだ。きっとこの世界と日本じゃ金銭感覚が違うんだ!


「ねぇ、チャルカ。一人暮らしって、月にどれくらいあれば大丈夫なの?」

「一人暮らしニャ? そうだニャー……この王都なら、大体十五万バルドあれば十分ニャ」


 一か月に十五万バルド……。日本の生活費とほとんど変わらないじゃない! ってことは、お金の価値も大して違わないってことだ。


 深呼吸して心を落ち着け、もう一度カードを見直す。けれど、浮かんでいる数字はやっぱり変わらない。


 ――十一億バルド。


 おばあちゃん……! なんで喫茶店やってて、十一億バルドも稼げるのよぉーーーっ!!

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