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異世界喫茶で再出発ライフ  作者: 鳥助


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5/10

5.手続き(1)

「わぁ……これが異世界の街並み!」


 星見亭を出た瞬間、目の前に広がった光景に思わず息をのんだ。


 石造りやレンガ造りの家々が立ち並び、赤や茶、深緑の屋根が並ぶ様子はまるで絵本の中のよう。どの建物も形や装飾が少しずつ違っていて、その個性が街を鮮やかに彩っていた。


 通りを歩けば、人の波もまた色とりどりだ。普通の人間の姿もあれば、背丈が子供ほどしかない小柄な人や、屈強な巨漢もいる。


 それだけじゃない。鱗のきらめく肌を持つ人が歩けば、毛並みのふさふさした獣人がすれ違う。翼を背中に広げる者、太いしっぽを引きずる者。まさに異世界ならではの光景が目の前に広がっていた。


「にゃっぱり、アカネさんは驚いてるニャ」


 隣を歩いていたチャルカが、目を細めて笑う。


「どうして分かるの?」

「チコさんが言ってたニャ。アカネさんがここに来たら、きっと目を丸くすることばかりだって」

「……おばあちゃんが」


 胸の奥がじんわり熱くなる。なんでもお見通しだな、あの人は。


「それだけ、チコさんがアカネさんを大事に思ってた証拠ニャ」


 チャルカの言葉に、ほんのり目頭が熱くなった。おばあちゃんがなくなっても、近くにおばあちゃんがいてくれるような錯覚を覚える。心が温かくて、幸せな気持ちだ。


「ここで暮らしていけば、きっと色んなことがあるニャ。でも大丈夫ニャ。私がしっかりサポートするから、安心してほしいニャ!」


 チャルカはそう言って、誇らしげに胸をぽん、と叩いた。しっぽが自信たっぷりに揺れている。


「どうして、そこまでしてくれるの?」

「チコさんには、とってもお世話になったニャ。その恩返しも込めて、今度はアカネさんの力になろうって決めたんだニャ」


「……そっか。おばあちゃんへの恩返し、なんだ」


 胸の奥に、温かいものが広がっていく。


 一人の獣人に、ここまで真っ直ぐな想いを抱かせるなんて……。おばあちゃんが、この異世界でどれほど丁寧に生き、どれほど人に優しく接してきたのかが、よく分かる気がした。


 きっとあの星見亭は、その優しさが積み重なって形になった、大切な居場所なんだ。だからこそ、今度は私が守り、育てていかなきゃいけない。そう思ったら、胸の奥から力が湧いてきた。


「私、頑張って星見亭を盛り立てていくね」

「その意気ニャ! ……お、役所が見えてきたニャ」


 チャルカが前足で指し示した先には、大きな建物がそびえていた。石造りの荘厳な造りは、どの世界でも役所は立派に造られるものらしい。


 中へ入ると、広々としたホールに並ぶカウンター。そこでは人や獣人、さらには羽を持つ者までが列を作り、順番を待っていた。


「えーっと……住民登録は……こっちニャ!」


 チャルカはきょろきょろと見渡し、迷いなく一つのカウンターへ向かう。そこには書類の束があり、バインダーに挟まれた用紙へ、チャルカが記入を済ませていく。


「よし、これで準備完了ニャ。あとは呼ばれるのを待つだけニャ」

「へぇ、日本の役所とちょっと似てるなぁ」

「そうニャ? じゃあ待ってる間に、日本のこと教えてほしいニャ!」


 近くの長椅子に腰かけ、他愛もない会話を楽しんでいると――。


「チャルカさん、二番窓口へどうぞ」


 声に導かれ、私たちは窓口へ向かった。そこには、鮮やかな緑髪を一つにまとめた、落ち着いた雰囲気のお姉さんが座っていた。


「あら、チャルカじゃない。今日はどうしたの?」

「今日はチコさんとの約束を果たしに来たニャ」

「……チコさんの? ってことは、そちらの方が……噂のアカネさん?」


 突然注がれた視線に思わず背筋が伸びた。まさか役所の人にまで知られているなんて。


「えっと……祖母がお世話になっていたようで」

「そうなのね。チコさんのお孫さん……。じゃあ、星見亭を?」

「はい。引き継ごうと思っています」


 お姉さんの表情がぱっと明るくなった。


「本当に? 良かった……! あのお店、とても居心地がよかったから、無くなってしまうのは悲しいと思っていたのよ。……あ、ごめんなさい、つい。では、この用紙に記入をお願いね」


 一枚の用紙を差し出され、受け取った瞬間、私は手を止める。


「あ……そういえば、私、この世界の文字が……」

「大丈夫ニャ! チコさんから力を受け継いだなら、この世界の常識はちゃんと身についているはずニャ!」

「えっ……そうなの?」


 恐る恐るペンを走らせると――自然に、流れるように異世界の文字が紙に記されていった。


「……すごい。本当に書ける……!」


 感動しつつ、必要事項を書き終え、紙を差し出す。


「はい、ありがとうございます。……ええ、大丈夫。ではこちらで入力しますね。その間にこちらの機械に指を入れてください。血を採取します」

「血を?」

「血の情報を登録すれば、身分の証明が必要な時に役に立ちます。今後、この町で活動していくのであれば、この登録はしておいた方がいいですよ」


 カウンターに置かれた無骨な機械。恐る恐る指を入れてみると、チクッとした痛みが入る。すると、機械の部品の水晶が赤く光り出した。


「はい、ありがとうございます。こちらの情報も端末に入れますので、少々お待ちください」


 お姉さんは慣れた手つきで機会を回収すると、その機会を端末に繋いで何やら操作している。


 待つことしばし――。


「はい、これでアカネさんは正式にこの町の住人になりました」

「本当ですか!? ……異世界から来た私でも、大丈夫なんですね」

「もちろん。別の世界から来る方も時々いますから、特別な制限はありませんよ」


 胸の奥がふっと軽くなる。前例があるというだけで、こんなにも安心できるんだ。


「ありがとうニャ。これで星見亭の手続きにも進めるニャ」

「再開されるのね! 本当に楽しみにしてるわ」

「はい。その時はぜひいらしてください」

「必ず行かせてもらうわね」


 思いがけず、役所で星見亭のお客さんに出会った。祖母のお店を懐かしみ、再開を心待ちにしてくれている人がいる――その事実が、胸を熱くする。


 よし、住民登録は完了。次は星見亭の手続きだ。一日でも早く、あのお店を再び灯せるように私は前を向いた。

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