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35歳、年下御曹司に本気で溺愛されていました  作者: 真夜中さん


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9/20

私の名前



そういえば、さっきの。。



蓮さんが言った

「光莉さん」



どうして、私の名前を知っていたんだろう。



不意に呼ばれて、


びっくりしすぎて、何も言えなかった。



玄関のドアが閉まったあと、


部屋は急に静かになった。


さっきまで確かにあった生活音が、


嘘みたいに消えている。


(……聞けばよかったな)


そう思ったのは、


もう靴音も、気配も、完全になくなってからだった。


ソファに座ったまま、


自分の名前を、心の中でそっとなぞる。


光莉。


誰かに呼ばれるための名前なのに、


最近は、ただの記号みたいに扱ってきた。


名乗らなくてもいい。


知られなくてもいい。


どうせ、すぐにいなくなるから。


そうやって、


自分から輪郭を消してきたはずなのに。


(……どうして、分かったんだろ)


名乗っていない。


書いた覚えもない。


話の流れで出たわけでもない。


理由は、きっとある。


偶然かもしれないし、


どこかで目に入っただけかも?


それなのに。


胸の奥に残るのは、


不安よりも、説明のつかないざわめきだった。


名前を呼ばれた瞬間、


「ここにいる私」が、


一瞬だけ、はっきりした気がした。


助けられた人でもなく、


居候でもなく、


“事情のある誰か”でもなく。


ただの、光莉として。


(……変なの)



踏み込まれたら、怖いはずなのに。


なのに私は、


あの呼ばれ方を、何度も思い出してしまう。


部屋を見回す。


整えられた空間。


借り物の時間。


いつまでいられるかも分からない場所。


それでも。


ここに来てから初めて、


名前を呼ばれたあとで一人になるという状況が、


こんなにも胸に残るなんて思わなかった。



理由を聞かなかったのは、


勇気がなかったから。


この小さな温度まで、消えてしまいそうで。


光莉は、そっと息を吐く。


今日はまだ、


名前の理由を知らなくていい。



ただ――


誰かが自分を“光莉”として認識していた。


その事実だけを、


今の胸の奥にしまっておこうと思った。



問いは、


静かに残したままで。


いつか知れることがあるならばなんて。





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