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35歳、年下御曹司に本気で溺愛されていました  作者: 真夜中さん


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6/19

逃げ場のない夜

「……ありがとうございます」


小さくそう言って、私はソファに腰を下ろした。



ふかふかで、沈み込むみたいで、 それだけで涙が出そうになる。 



蓮さんはキッチンで何かを用意しながら、 こちらを気にする様子もなく、淡々としていた。


「温かいもの、飲みます?」


「……はい」


差し出されたマグカップから、 ほうじ茶の香りが立ち上る。


こういうところが、妙に現実的で、 なのに、全部が出来すぎていて。


夢なんじゃないかと思ってしまう。


「……どうして、助けてくれたんですか」


ぽつりと、聞いてしまった。


蓮さんは一瞬だけ手を止めて、 でも振り返らずに答えた。


「倒れそうだったから」


「それだけ、、ですか」


「それ以上、必要ですか?」


その言い方は冷たいのに、 拒絶じゃない。


むしろ、 深入りさせないための線を、 引いているように感じた。



「……私、こういうの慣れてなくて」


「どういうのですか」


「優しくされるの」


自分で言って、 情けなくて笑いそうになる。


蓮さんはようやくこちらを見た。


視線がぶつかって、 なぜか息が詰まる。


「優しさは、特別じゃない」


淡々とした声。


「少なくとも、俺にとっては」


その言葉が、 胸の奥に、静かに落ちた。


信じていいのか、 信じたらまた傷つくのか。


分からない。




でも――


「今日は、俺のベットで寝てください」


「……蓮さんは?」


「俺は仕事少しして、ソファーで寝るので気にしないで下さい」



そう言って、 ノートパソコンを開く。


画面に映るのは、 私には分からない数字と英語。


やっぱり、 世界が違う。


「……私」


言いかけて、言葉に詰まる。


「何ですか」


「明日になったら、 ちゃんと出ていきますから」


そう言うと、 蓮さんはキーボードを打つ手を止めた。


「無理に、決めなくていいです」


「でも……」


「逃げ場がないときに、 先のことを決める必要はありません」


その一言で、 張りつめていたものが切れた。


「……っ」


気づいたら、 涙が止まらなくなっていた。


恥ずかしいのに、 止められない。


蓮さんは何も言わず、 ティッシュを差し出した。


触れない。


慰めすぎない。


それが、 今の私には救いだった。



「……今日は、眠りましょう」


そう言われて、 私は初めて安心して目を閉じた。


知らない男の家で。


名前しか知らない人の隣で。


なのに――

胸の奥が、 少しだけ、あたたかかった。


――この夜が、 私にとって「戻れない一歩」になるなんて、


まだ、知らなかった。


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