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35歳、年下御曹司に本気で溺愛されていました  作者: 真夜中さん


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蓮が守れない距離


蓮はその日、

どうしても会社に出社しなければいけなかった。


ここ数日、

マンションのエントランスで、

時々感じる。


誰かが、

「確認するように」見ている気配。


でも、姿はない。


カメラを確認しても、

決定的なものは映らない。


(……勘、か)


蓮は、

自分の感覚を信用しすぎない。


仕事に戻る。


会議。

書類。

電話。


いつも通り、滞りなく進む。


それなのに。


時計を見る回数が、

明らかに多かった。


(……今、家に一人だな)


連絡を入れようとして、やめる。


過剰にすれば、不安を煽る。


——それも、違う。


夕方。


打ち合わせを終え、建物を出たとき。


背中に、ぞわりとした感覚が走った。


誰かが、こちらを見ている。


振り返る。


人通りの多い歩道。


誰も、こちらに関心はない。


でも。


“もう見られていない”


という感覚も、なかった。


(……遅れたな)


蓮は、

予定を切り上げる決断をする。


理由を説明する必要はない。


帰る。


ただ、それだけ。


マンションに着いたとき。


エントランス前で、

足が止まった。


——空気が、違う。


誰かが、

ここに「長くいた」感じ。


吸い殻はない。


足跡もない。


でも、

“滞在した痕跡”だけが残っている。


(……玄関か)


部屋に入ると、

光莉はソファに座っていた。


顔色が、少し悪い。


「ただいま」


声をかける。


「……おかえりなさい」


一拍、遅れた返事。


——何かあった。


確信に近いものが、胸に落ちる。


「今日は、何かありましたか」


聞き方は、いつも通り。


光莉は、一瞬、迷ってから首を振った。


「……いいえ」


嘘だ。


でも、

言えない類のやつだ。


蓮は、それ以上踏み込まない。


代わりに、玄関を見る。


床。


郵便受け。


ドアノブ。


違和感。


——紙。


見覚えのない、小さな白い紙。


ソファーの前に落ちている。


光莉の握った跡が、強く残っている。


蓮は、

何も言わず、

それをポケットに入れた。


「今日は、外、静かでしたか」


唐突な質問。


光莉は、驚いたように目を上げる。


「……はい。静かでした」


——静かすぎた、だな。


夜。


光莉が眠ったあと。


蓮は、監視カメラのログを開く。


時間帯。


人の出入り。


不自然に、

“何も映っていない時間”。


(……プロだな)


誰かが、

わざと視界に入らない動きをしている。


偶然じゃない。


そして、光莉を狙っている。


蓮は、ゆっくり息を吐いた。


(……来たか)


覚悟は、とっくにできている。


守ると決めた以上、

相手が誰でも同じだ。


ただ。


光莉が、「守られない時間」を自覚してしまったこと。


それだけが、

遅すぎたと、胸を刺した。


蓮は、携帯を取り出し、

短いメッセージを打つ。


《警備、明日から一段階上げる》


送信。

画面を消す。


明かりの落ちたリビングで、

しばらく動かなかった。


——視界の外にいる相手ほど、

厄介だ。


そして、

それを分かっている相手ほど。





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