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35歳、年下御曹司に本気で溺愛されていました  作者: 真夜中さん


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22/26

蓮さんがいない日



その日は、朝から静かだった。


蓮は、

どうしても仕事の都合で朝イチで家を出なければならなかった。


「夕方までには戻ります」


そう言って、

光莉の額に軽く触れてから、

玄関を出ていった。


ドアが閉まる音が、

今日はやけに大きく聞こえた。


(……一人か)


この家で一人になるのは、

初めてじゃない。


それなのに、

胸の奥が落ち着かない。


昼を過ぎても、

特に何も起きなかった。


テレビをつけて、

洗い物をして、

ソファで丸くなる。


——何もない。


それが、

逆に不安だった。


夕方。


インターホンが鳴った。


短く、一回。


心臓が跳ねる。


(……宅配?)


モニターを確認する。


画面は、映っていなかった。


故障?


そう思って、少しだけ間を置く。


もう一度、鳴る。


——今度は、鳴らない。


沈黙。


光莉は、

玄関に近づけなかった。


ドアの向こうに、

誰かが立っている気がして。


でも、

ドアスコープを覗いても、

誰もいない。


気のせい。


そう言い聞かせて、



ドアを開けかけ——

足元に、何かがあるのに気づいた。


小さな紙。


白くて、

どこにでもあるメモ。


拾い上げる。


書いてあるのは、

たった一行。


《今日は、遅いんだな》


息が、止まる。


——知っている。


蓮が、今日は夕方まで戻らないこと。


それを、

“外の誰か”が。


(……なんで)


名前はない。


署名もない。


でも、

分かってしまう。


心配して書く文じゃない。


これは、確認だ。


光莉が、

今も一人で待っているかどうか。


蓮に守られていない時間を、

ちゃんと把握しているかどうか。


その夜。


圭介は、車の中で時計を見ていた。


——予定通り。


探偵が言っていた。


「今日は、男は夕方まで不在です」


それだけで、十分だった。


会いたいわけじゃない。


声を聞きたいわけでもない。


ただ。


泣いて、


すがって、


「一人じゃ無理」って戻ってくる。


そう思っていた女が、

誰かの家で、

静かに暮らしている。


それが、

どうしても、許せなかった。


(……調子に乗るなよ)


心配なんか、してない。


守る気も、ない。


ただ、

自分を必要としない未来に進もうとしている光莉を、

一度、立ち止まらせたかった。


圭介は、メモ帳を閉じた。


次は、もう少しだけ。


——“守られる前”に。


玄関のドアが、静かに閉まる。


その音を、誰も聞いていない。


光莉は、ソファに座ったまま、

紙を握りしめていた。


蓮が帰るまで、

まだ、時間がある。


この家は安全なはずなのに。


——今は、


誰にも守られていない時間だった。






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