視線の向こう側(蓮)
蓮は、
仕事用のノートパソコンを閉じたあとも、
すぐに立ち上がらなかった。
違和感は、
数日前からあった。
宅配業者。
管理人。
郵便受け。
——説明がつかないほど、
“視線の数”が多い。
(……調べられている)
確信に近い感覚。
エントランスの防犯ログ。
監視カメラの死角。
偶然にしては、
揃いすぎている。
蓮は、
スマホを操作し、
いくつかの履歴を確認した。
——外部調査会社の足跡。
個人調査。
所在確認。
名義は、
ダミー。
だが、
やり口が古い。
(……素人じゃない)
けれど、
プロでもない。
——感情で動いている人間。
視線を上げると、
キッチンの方で、
光莉が静かにカップを持っている。
少しだけ、
落ち着かない様子。
(……気づいてるか)
いや。
“感じている”だけだ。
それ以上は、
まだ分かっていない。
それでいい。
——今は。
蓮は、
スマホを伏せた。
対処は、できる。
証拠も、集められる。
だが。
光莉には、
まだ言わない。
不安を、
増やす必要はない。
(……元彼か)
答えは、
ほぼ出ている。
だが、
名前を確定させるのは、
もう少し後だ。
蓮は立ち上がり、
カーテンを少しだけ引いた。
外は、
何も変わらない夜。
——今のところは。
「……大丈夫ですよ」
独り言のように、
そう呟く。
それが、
誰に向けた言葉なのかは、
自分でも分からなかった。
ただ一つ。
——こちらは、
もう“気づいている”。
そして。
次に動くのは、
圭介ではない。
そう確信しながら、
蓮は静かに、
灯りを落とした。




