圭介の違和感
圭介は、スマホをテーブルに置いたまま、
しばらく動けずにいた。
——さっき、自分で残した留守電。
切ったのは、
送信ボタンを押した“自分のほう”だ。
『……光莉。
昨日さ、ちょっと思ったんだけど——』
少し話して、言葉が続かなくなった。
(……何言ってんだ、俺)
用事なんて、ない。
戻ってきてほしいわけでもない。
なのに、気づいたら電話をかけていた。
出ないと分かっている番号に。
圭介はソファに深く腰を下ろし、頭を掻いた。
(違ったんだよな)
別れた直後、荷物を取りに来た光莉。
泣きもしなければ、縋りもしなかった。
それだけなら、いつも通りだ。
問題は——
目、だった。
俯いているのに、完全には折れていない。
諦めた人間特有の、空っぽさがなかった。
(……なんだよ、あれ)
どうせ一時的なものだと思っていた。
実家か、友達の家に世話になって、
時間が経てば「やり直したい」と言ってくる。
35歳で、太っていて、無職。
次なんて、あるはずがない。
——そう、思っていたのに。
連絡は、来ない。
圭介はスマホを手に取り、
無意識に光莉のSNS、共通の知人の名前を辿る。
(どこにいる)
心配してるわけじゃない。
取り戻したいわけでもない。
ただ——
自分が切り捨てたはずの女が、
自分の知らない場所で、
別の誰かに守られているかもしれない。
その可能性が、耐えられなかった。
圭介は、無言で画面を見つめ続ける。
まだ、確証はない。
でも、胸の奥に生まれた違和感だけは、
確実に、根を張り始めていた。




