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死神

「ただいまぁ」

 玄関を開けて中に入ると、誰もいない廊下に私の声だけが流れていく。横では、お姉ちゃんが無言で靴を脱いでいた。

 車は無かったので、お母さんはまだ帰ってないようだ。

 リビングに入りキャリーバッグを倒すと、チャックを開ける。

「お待たせ」

 上蓋を持ち上げると、ペンギンはムクッと起き上がりソファーに上っていく。私はバッグの中に残っていたスケッチブックと、マジックを取り出してソファーに置いた。

 すると、さっそくスケッチブックを開いて何か描き始めた。

(きょうは 2人ともありがとう)

 ペンギンがスケッチブックを掲げて、私とお姉ちゃんに見せる。

「まだいられそうで良かったね」

 私がそう言うと、ペンギンは前に傾いた。

 お姉ちゃんはスケッチブックを一瞥して、キッチンに入って行った。

 そして、間もなくお米を研ぐ音が聞こえてきた。

 今日は、お母さんが夕飯を作るって言ってたけど、ご飯だけ予約しておくのかな。

 時計を眺めると、15時をまわったところだった。

「でもさぁ、死神って本当に来るのかな。なんか怖いね。あ、でも、サラリーマンみたいな死神だったら怖くないか」

 私は空気が悪くならないよう気を使って、軽い口調で2人に話しを振った。それと同時にスマホで「死神」と検索してみる。

 やっぱり出てくるのは、ドクロで大鎌を持った姿の死神だった。下にスライドしても、サラリーマン風の死神は出てこなかった。

「陽菜、余計なことは言わないの。朋美が前に言ってたけど、言霊っていうのがあって、呼び寄せてしまうかもしれないよ」

 フラグが立つってやつだね。軽率でした。

「ごめん、気をつけます」

 お姉ちゃん、なんだかんだお父さんを心配してるんだよね。もともと、怒ったのもお父さんが成仏するって言ったことだしね。

(カンドラにも トッケビってめいさくがあるよ しにがみが すごくイケメン)

 ペンギンがスケッチブックを、私に見せてきた。 

 スマホを触っているついでに、トッケビと検索してみる。

 確かにイケメン。本当に韓国の役者さんは中性的な男性が多くて、私の想像力を刺激してくるわ。でもねお父さん、私は現実主義者なの。架空の男性では推せないのよ。

「ごめんなさい、お父さん。残念だけど、気持ちだけもらっておくわ」

 私が謝ると、ペンギンがわずかな間を置いて、再びスケッチブックにマジックを走らせた。

 なになに・・・。

(ふじょし メツ)

 なんですとッ!

 私が息を大きく吸い込んで反論しようとしたその時、聞こえるはずのない声がリビングに響いた。

「陽菜、誰としゃべっているのッ?」

 それは、いるはずのないと思っていたお母さんの声だった。

 私は声のしたドアの方を振り返ると、お母さんが驚愕の表情で固まっていた。

「宗市さん! どうして?」

 お母さんは言葉をひとこと発するごとに、喜び、困惑と、ころころ表情が変わっていく。

 あれッ、お母さんにはペンギンがお父さんに見えてるの? お母さんも霊能力があるってこと? でも、今までは見えてなかっよね。

 あ、ダメだ、冷静に考えられない。

「お母さん、帰ってたのッ?」

 お姉ちゃんがキッチンから出て来なから、懸命に声を落ち着かせながら聞いた。

「体調が悪くて寝室で寝てたの。あなたたちが帰ってきたか、起きてきたのよ」

「でも、車なかったよね」

 私達が油断してしまった原因の、トリックが知りたかった。

「議員が事故したら騒がれるからって、送ってもらったの。車は役場に置いてきたわ」 

 西島さんのポイント稼ぎか。

「そんなことより、この状況を説明してッ。もしかして幽霊・・・」 

 お母さんがフラッとして、うずくまった。

「大丈夫!? お母さんッ」

 私は駆け寄って、お母さんの背中に触れた。

 後からペンギンが心配そうに近づいてくる。

「大丈夫よ。それより、お父さん・・・え? ちょっと、どうして抱き枕が動いてるのよ。お、お父さんは何処に行ったの?」 

 あれ? 見えなくなった?

「お母さん、落ち着いて・・・もう話すよッ、お父さん」

 お姉ちゃんは語気を荒げながらそう言うと、ペンギンは観念するように前に傾いた。

「信じられないかもしれないけど、その抱き枕ににお父さんが憑依してるの」

 わずかな間、お母さんはペンギンを見つめたまま動かなかった。

「・・・信じ、られない」

 信じたいけど、常識が邪魔をしているようなそんな口ぶりだった。

「お父さん、1週間前くらい前からいるんだけど、お母さんが西島さんとくっつきそうだから、気を使ってお父さんが黙っていようって」

「あッ、バカ」

 え? お父さんの誠意を伝えたつもりなんだけど、どうしてお姉ちゃん頭を抑えてるの? 

 あれ、お母さんの顔が怖いんですけど・・・。

「勝手に勘ぐらないでよッ! あなたって本当にそういうとこあるよねッ。それが優しさだと思ってるのがまた腹が立つッ」

 ペンギンはお母さんの迫力に、少し後退った。

「あなたが急に死んでしまって、私たちがどんなに辛かったか分かってるのッ。帰ってきたなら、まず私に謝りに来るのが筋でしょッ」 

 そう語気を荒げながら、お母さんは泣き出していた。私もつられて涙が浮かんでしまう。

(ごめん)

 スケッチブックに大きく書いて見せたペンギンは、お母さんに歩み寄ると、その震える背中をヒレで擦った。

「ごめんください」

 しんみりした中に、不意に場違いな明るい男のひとの声が、玄関の方から響いてきた。

 でも・・・なんだろう、この違和感。

 お母さんやお姉ちゃんを見ると、同じ何かを感じているようで、ドアの方を窺うだけで動こうとしなかった。

「勝手に入りますね」

 え!? ちょっと待って。

 言葉に出来ずにいると、開いたままのドアから、それが音もなく入ってきた。

 黒のハットから金髪を覗かせたチャラそうな男が、腕につけた金属製のアクセサリーを鳴らして帽子にふれた。

「どうもぉ、死神です」

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