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天国の帰り方

「大学の友達に聞いたんだけど、憑依霊がでるのって恨みや、未練があることが多いんだって」

 お姉ちゃんはチョコケーキをひと口食べながら、神妙な面持ちでそう語った。

「そうなんだ」

 私はイチゴのショートケーキを食べながら答えた。

 憑依霊のお父さんは、ソファーに腰掛けて話しを聞いている。手元には昨日、私が買ってきたスケッチブックを置いていた。

 お母さんは祝日の今日も、古谷市の催すイベントに出席するため出かけている。

「それで聞くんだけど、お父さんって何か恨んでる?」

 まるで、自分のお菓子を食べられたことくらいの軽い感じで、お姉ちゃんが聞いた。

 お父さんは少しの間、ケーキを食べるお姉ちゃんを見ていたが、おもむろにスケッチブックを開くと、マジックで何事か書き始めた。

(水に しずめられたことかな)

 それ、お姉ちゃんだね。

「それは、ペンギンになってからでしょ。それに、オヤジ臭を消してあげたんだから、感謝して欲しいんだけど。それで、家にもいられるんでしょ」

 確かにそうだね。捨てるようにお母さんには言われてたけど、洗剤をもらった人に、使用した経過報告をしないといけないと嘘をついて、置いておくことができてるんだもんね。

(かんしゃ してる)

「分かればいいのよ。じゃあ、未練はどうなの?」

 お父さんは考えているのか、また動きが止まる。

(みれんは いっぱいあるよ)

「いっぱいは無理だから、3つくらいにしてくれない?」

 それって、値切っていいの?

 お父さんはスケッチブックに、箇条書きし始めた。

(キミたちの せいちょうをみとどけたかった)

 ありがとうお父さん。でも、やる事は増えたけど、何とか大丈夫そうだよ。

(かぞくりょこうがしたかった)

 そう言えば、ここ数年してなかったね。

(かんドラ さいごまでみたかった)

 もう、数日で終わりそうだね。

(バンジージャンプ してみたかった)

 いがい。そんなのしたかったんだ。

 それ以上は思い当たらないのか、マジックを持ったままお父さんは停止している。

 お姉ちゃんはスケッチブック抜き取ると、まじまじと眺めた。

「このなかですぐ出来るのは、バンジージャンプね。2階に上がろうか」

 お姉ちゃんはそう言うと、お父さんを抱えて階段を上っていく。私も慌ててその後をついて行った。

 そして、2階のお姉ちゃんの部屋に入ると、庭に面した窓を開けた。

「陽菜、バンジーやるときって、どうやって声がけするのかな?」

 手足をバタバタさせたペンギンを両手で持って、窓の外に出しながらお姉ちゃんが聞いてきた。

「カウントダウンして、レッツ、バンジーって言ってたのテレビで見たけど・・・」

「そう。3、2、1、レッツバンジー!」

「ちょッ、お姉ちゃん!」

 私が止める声も間に合わず、ペンギンは2階から放り出されていた。

 窓に駆け寄り下を見ると、ペンギンが芝生の上に落ちたところで、何度か弾んで止まった。

 そのまま観察していると、ペンギンはムクッと立ち上がり、玄関の方に歩いて行く。

 抱き枕だから大丈夫そうね。

「もう、お姉ちゃんダメだよ。紐がついてないとバンジーにならないから。これじゃあ、ただの飛び降りだよ」

「あ、そうか。何かたりないと思った。じゃあ、ビニール紐で結んで、もう1回やろうか」

「うん、そうしよ」

 階段を降りて行くと、お父さんはリビングにいた。

 スケッチブックに何か書いている。

(しぬかとおもったぞ)

「死んでるんだから死なないって」

 お姉ちゃん、それややこしくない?

「それとも、痛いとかあるの?」

(いや いたみとかはない でも すごくこわかった)

 お父さんはマジックで「すごく」のところを叩いて強調する。

「でも、バンジーってそういうもんでしょ。今度はちゃんと紐で結んであげるから、もう1回やろうか」

 お姉ちゃんがそう言うと、お父さんは体を横に振った。

(もうじゅうぶん こわいのいや)

 お父さんの存在自体が怖いけどね。

「ビビリだなぁ。じゃあ、別のにする? でも、旅行はすぐできないし、私たちの事はいつまで見てれば満足するわけ?」 

 お姉ちゃんがそう聞きながら、椅子に座って残っていたコーヒーを飲んだ。

(いまが ほんとうに1ねんごなら みんなげんきそうだし みれんはないよ)

「え? じゃあ、お父さんもう成仏するのッ?」

 私は思わず声を張り上げていた。

(どうやって?)

 そう書いて、ペンギンは私を見る。

「知らないけど・・・」

「ちょっと待ってッ。そもそもお父さん天国にどうやったら戻れるか知らないの?」

 お姉ちゃんがテーブルを軽く叩いて、語気を荒げた。

(てんごく しらない あるのかな?)

 死んだお父さんが知らないのに、分かんないよ。

「幽霊がいるなら、あるに決まってるじゃん」

 お姉ちゃんが断言する。

 まぁ、逆にだよね。幽霊見たことないから、死後の世界も存在しないと思ってたのが、幽霊がいたことで、あの世の存在も信じたくなったんだね。

 私も死んでからも生きられると思ったら、夢が広がるよ。

 ペンギンは使い終わった方のスケッチブックをペラペラ捲って、ヒレで字を示した。

(きがついたらこのすがたで なにもわからない)

 あぁ、確かに初日に言ってたね。 

「はぁ〜〜、役に立たないなぁ」

 そう言って溜息をついたお姉ちゃんは、不意に目を輝かせた。

「そうだッ。どうせなら、お父さんの動く姿をSNSやインスタに上げてバズらせない?」

 唐突だね。

「大丈夫かな? 騒ぎにならない?」

「大丈夫よ。今どきこれくらいのフェイク動画いくらでもあるし、面白ければフェイク動画だってバズるんだから」

 1回バズらせてみたかったのよね、と独り言を呟きながら、お姉ちゃんはスマホをイジり始めた。

 フェイクのペンギンお父さんは、新しい方のスケッチブックに字を書いた。

(やめたほうが いいきがする)

「どうして」

 お姉ちゃんが、スマホを触る手を止めて聞いた。

(よくわからないけど あまりひとにしられてはいけないきがすんるだ)

「何それ。神様とかに警告されてるの?」

(わからないけど そうおもうだけ)

「お姉ちゃん、撮影するのは辞めとこうよ。きっと、幽霊にもルールが決められてるんだよ。それを破ると、地獄行きとかきっと厳しいペナルティーがあるのかもよ、きっと」

 私が力説すると、何故かペンギンが驚いたように後ずさった。

 いや、推測だから知らないよ。

「・・・分かったわよ」

 お姉ちゃんは渋々、スマホの電源を切った。

「それで、お父さんはなにがしたいわけ」

 お父さんは少し考えて、スケッチブックに字を書いた。

(カンドラの つづきがみたいかな)

「はいはい、勝手にすれば。私、昼から彼氏と出かけるから」

 お姉ちゃんは椅子から立ち上がると、用意するためか自室へと戻って行った。

 横を見ると、お父さんがまた何か書いている。

(いちか いつのまに かれしできたの?)

「え? 半年くらい前かな。告白されたって言ってたけど」

(お父さんしんで はんとしで?)

 あ、気になるのそこなのね。

「良いんじゃないかな。ちゃんと未来に向かって歩いてる証拠じゃない」

 お父さんはマジックを少しの間、クルクル回していると、折り合いがついたのか字を書き始めた。

(そうだね  ひなはどうなの?)

 それは彼氏がいるかってこと?

「私はまだ、いいかな」

 そう言って、私はソファーから立ち上がった。

「それより、お昼から友だちが2人来るから、お父さん動かないでね」

 すると、お父さんは体を前に倒した。オッケーってことね。

 私は部屋の掃除をするために、自室へと向かう。リビングをでる時にチラッと振り返ると、ペンギンはテレビのリモコンを脇に抱えて、ソファーに上るところだった。

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