ペンギンになったお父さん
投稿2作品目です。
思いつきで書き始めてしまったので、ゴールにたどり着けるかわかりませんが、気楽に読んでいただけると嬉しいです。
お父さんの1周忌の法要を、家族3人と父方のお祖母ちゃんだけの4人で、お寺で行なった。
水道管の設備会社に努めていたお父さんは、漏水の確認に1人で現場に出ていたところ、突然の心臓発作で倒れ、発見が遅れて亡くなったそうだ。
お葬式は会社関係の人や、お母さんがここ古谷市の市議会議員をしていることもあって、関係者などで盛大に行われた。
しかし、1年も立つと私たち家族の心のように、法要は落ちついた静かなものだった。
翌月曜日、私は高校から帰ってくると、鞄から鍵を出して玄関の扉を開けた。
「ただいま・・・え!?」
入ろうとした私は、目の前の光景に思わずフリーズしてしまった。
ペンギンがいるッ。
目の前の廊下を、ペンギンが歩いていた。
いや、ペンギンじゃない。あれはペンギン型のお父さんの抱き枕だ。
ペンギンはチラッと私を見ただけで、さして関心もないように居間の方に歩いていく。
私は後ろ姿を見つめながらどうしようか迷ったが、見失って家のどこかにいるのではと不安に暮らしたくなくて、後をついて行くことにした。
ペンギンは居間に入ると、ソファーに上ると寝っ転がって、テーブルの上のテレビのリモコンを取ろうとした。
しかし、ペンギンの手は驚くほど短いため、全く届かない。
私はリモコンを取ると、そっとペンギンに差し出した。すると、ペンギンは胴体にリモコンを乗せて、短い手で器用にテレビをつけた。
このソファーは、休日のお父さんの指定席だった。こうやって寝そべって、よくまとめてドラマを観ていたっけ。
「お父さん?」
思わずそう声をかけていた。すると、ペンギンはチラッとこちらを見た。私はどう言葉を続けていいかわからず戸惑っていると、ペンギンはまたテレビに視線を戻した。
そして、右ヒレで背中を搔きながら、またこちらをチラッと窺うように見てきた。
なんだろ、この変な間は・・・あれ、もしかして。
私は洗面所に行って手鏡を持ってくると、恐る恐るペンギンに向けた。
すると、ペンギンは少し煩わしそうに鏡を見た。
長いことみているなぁと思った途端、ペンギンは突然バタバタと後退り、勢い余ってソファーから落ちてしまった。
「・・・やっぱり気づいてなかったんだ」
ペンギンは立ち上がると、ジッと私を見つめてくる。
「もしかして、何か喋ってる?」
ペンギンが前に傾く。肯定の意味かな。
「声が出てないよ」
枕なんだから当たり前だよね。声帯があるわけないし、そもそもクチバシは縫い付けられているだけで開くようには出来てない。
でも、耳は付いてないのに聞こえてるみたい。
すると、ペンギンは辺りを見渡して何かを見つけると、そちらに歩いて行った。
新聞?
ヒレで新聞めくると、間に挟まった広告紙の束を取り出して、ちらけ始める。
お目当ての、裏側が白紙になっているのを見つけると、テーブルの上に置いて、ペン立てから持ってきたマジックで、何事か書き始めた。
(お か え り ひ な)
ペンを持ったまま、こちらを見つめてくる。
「あ、ただいま」
そこからなんだ。
ペンギンが再び、ペンを走らせる。
(お 父 さ ん だ よ ね)
「聞かれても・・・」
ジッと文字を見つめていたペンギンは、「ね」
を黒く塗りつぶした。
「お父さん、どうしてペンギンの抱き枕なの?」
死んだよねと確認するのは、何となくためらわれた。
すると、また文字を書き始める。
(わ か ら な い き ず い た ら こ の す が た だっ た)
「気ずいたの『ず』は、つに点々だよ」
そう指摘すると、ペンギンは慌てて2本線で消して、その下に『づ』と書いた。
「・・・そうなんだ、不思議だね」
ペンギンお父さんは、体を前に傾けた。
あぁ、頷いたのか。抱き枕だから首が無いもんね。
お父さんは、チラシにマジックの先をさまよわせながら止まっている。
「大きな字で書くから、書くところが無くなるんだよ」
まぁ、ペンをヒレと脇に挟んで書いてるんだから、器用に書いてる方か。
「ちょっと待ってて」
私は階段を上がって自分の部屋に行くと、クローゼットのなかを探った。
あった。
中学生の時に使っていたスケッチブックをつかむと、居間に戻る。
「これ使って」
白紙のページまでめくると、お父さんの前に置いた。
(ありがとう)
だいぶんスムーズに書けるようになってきてる。
(なんか らんま2分の1のパンダみたいだよね)
そう書いて、ペンギンは私に感想を求めるように見つめてきた。
「ごめん、らんまって何?」
あ、ペンを落とした。ショックを受けてるのかな。
私はスマホを取り出して『らんま2分の1』と検索してみた。
昭和のアニメなんだ。水をかぶると女の子になるのね。パンダと言うのはお父さんのことか。ウチのはペンギンの抱き枕だから違うと思うけど。
「お父さん、これからどうするの?」
私が聞くと、お父さんは直ぐに文字を書き始める。
(たまってる カンドラみる)
身の振り方を聞いたんだけどなぁ。まぁ、いいか。
「じゃあ、私は宿題のプリントしてくるから」
リュックを背負い直した私に、お父さんはソファーによじ登りながら手を振った。
スマホでお気に入りの音楽を聞きながら、宿題をして、さらに予習に取り掛かろうとしていたら突然、階下からお姉ちゃんの悲鳴が轟いてきた。
「どうしたのお姉ちゃんッ」
急いで階段を駆け下りていくと、居間でお姉ちゃんとお父さんが対峙していた。
「なんで枕が動いてるのよッ」
私は二人の間に立つ。
「落ち着いてお姉ちゃん。これ、お父さんだよ」
「キャアーーーーッ、幽霊ってことじゃない!」
あ、確かにそうだね・・・怖ッ。
「キャアーーーーッ」
私とお姉ちゃんが悲鳴を上げていると、お父さんはスケッチブックに、慌てて文字を書いた。
(おちつけ きんじょめいわくだ)
そう書いた文字を私たちに見せた。
「あんたのせいでしょう!」
お姉ちゃんが手に持っていたカバンを投げつけると、顔面に受けたお父さんはソファーから1回転して床に落ちた。
「お父さん、大丈夫?」
私は恐る恐る尋ねると、ペンギンは何事もなかったようにムクッと起き上がった。そうだよね、枕だからダメージないか。
ペンギンはマジックを拾って、スケッチブックに文字を書き始める。
(もしかして お父さんて しんだの?)
私を見つめるお父さんが、心なしか震えている気がした。
「1年前に心臓発作で死んだじゃん。昨日、1周忌したばっかりだよ」
お姉ちゃん、あっさりだね。
お父さんはスケッチブックのページをめくる。
(どうりで カンドラがおわりまであるわけだ)
1年経って、全部配信されてたんだね。
「・・・そもそも、本当にお父さんなの? なんか別のものが、なりすましてる可能性だってあるんじゃない?」
確かに。お姉ちゃんの疑問も分かる。
「オレオレ詐欺みたいな可能性だよね、お姉ちゃん」
私が得意気に答えると、何故か2人に見つめられた。違ってたのかなぁ。
「でも、どうやってお父さんかどうか調べるの?」
「そうだなぁ・・・例えば、お父さんしか分からない情報を聞くとか」
すると、ペンギンお父さん(仮)がペンを走らせる。
(なんでもきいてくれ)
スケッチブックを見せて胸を張った。
「じゃあ、お父さんの好きだった食べ物は?」
ペンギンお父さんは得意気にペンを踊らせる。
(レバニラいため)
「ブッブーーッ」
お姉ちゃんが両手でバツを作ると、ペンギンはショックからかスケッチブックを落とした。
「正解は、トンテキでした」
お姉ちゃんが嬉しそうに正解を言うと、ペンギンは床の上でスケッチブックに文字を書き出した。
(まて それはわかいときのことで さいきんはむねやけするから レバニラがすきなんだ)
力説するように、ペンギンはスケッチブックを前に押し出してきた。
「そんなの知らないし。だいたい、お父さんの好きな食べ物に興味ないから」
お姉ちゃん、それじゃあ問題として成り立ってないよ。お父さんが傷ついただけじゃん。
「なんかない?」
お姉ちゃんが私を見る。
「何だろう・・・あ、そう言えばお風呂場のシャワーの出が悪いんだけど、お父さんどうにかならない?」
すると、お父さんが新しいページを開いて、ゆっくりと文字を書いた。
(じゃぐちのねもとにあるアミに みずアカがたまってるのかもしれない あとでみとく)
「あ、確かにお父さんぽい」
「そうだね、懐かしい感じだね」
私たちが少し感傷的になっているのを、お父さんは黙って見上げていた。もしかしたら、照れているのかもしれない。
「・・・取りあえず、お父さんということでいいわよ」
私とお父さんはホッと胸をなで下ろした。
「それで、何でお父さんがペンギンに憑依してるの?」
あ、スタート地点に戻った。
(きづいたらこのすがたで なにもわからない)
今度は『づ』を間違えなかったね。
「ふ〜〜ん、そうなんだ。じゃあ、しょうがないか」
やっぱり、お姉ちゃんはさっぱりだね。
お姉ちゃんは上着を脱ぐと、カバンを拾う。
「お母さん、帰りが遅くなるみたいだから、ご飯作るけど、お父さんも食べるの?」
すると、お父さんはヒレで自分のお腹あたりをペタペタ触った。
(しょくよくはない たべられないとおもう)
やっぱり、そうだよね。食べれたらさらに謎が深まるところだったよ。
「一応、聞いただけだから。野菜炒め作るから陽菜も手伝ってよ」
「は〜〜い」
私は返事をしながら、キッチンについて行った。
(シャワーなおしてくる)
お父さんはそう書いたスケッチブックをテーブルの上に置くと、お風呂場の方に歩いていった。
「結構、役に立つかも」
お姉ちゃんがいたずらっぽく笑うのに、私も曖昧な笑みで返した。
「そうだね」
1ヶ月に1話か、2話投稿できればと思っています。
また、続きを見かけて読んでもらえたら幸いです。




