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25年前の僕へ、  作者: 倉木元貴


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9話

 先に入っておくと言っても、先に座るわけにはいかない。立って待っていると、天井にあるスピーカーから声がした。


「君の名は、日野洋太で間違いはないか?」


「は、はい。日野洋太です」


「私は、面接官を務める井上仁志いのうえひとしだ。ここでの面接内容や、起きたことに関しては一切他言無用である。私が聞きたいことは二つ。現状の日本について、それと、警察官とは。五分だけ考える時間を与える。もし、五分以内に考えがまとまったら適時に話してもらって構わない。では始め」


 話に割り込むこともできず、とんとん拍子に話が進んだ。こんなこと面接で聞かれるなんて聞いていない。それにこの場所だっておかしな話だ。面接官もいないのに面接だなんて。いや、それよりも、聞かれていることを考えないと。五分は思っているよりも短いから。


 まずは現状の日本について。これは何を聞かれている。政治的なことか。それとも治安的なことか。前者であるなら、ここ数年は総理大臣が何度も変わって、しかも与党もコロコロ変わっている政治的不安定な時期であるとはいえる。後者なら、日本は世界的に見ても治安のいい国であるが、犯罪認知件数は上昇傾向にある。軽微な犯罪の認知が増えていると言っても犯罪であることには変わりない。


 問題は後の質問。警察官とは。とは? 辞書に書かれてあるようなことを聞かれているわけではないよな。だったらなんだ。警察官とは……警察官とは……。


 思いつかないまま五分が経過した。前者の質問には、治安的なことを話し、後者の質問には、あるべき姿の警察官を語った。


 相手の顔が見えない面接だから、反応を感知できないのは辛い。上手くいっているのかいっていないのか。何もわからない。言葉も簡単なものだけで、声のトーンにも色はない。成功なのか失敗なのか。閉塞的な空間だから、何もなくて息が苦しい。ああ、外の空気が吸いたい。


「面接内容は以上。続いて質問に移る」


 まだ続くのか。空気が重くて息苦しい。こんな圧迫を受けるなんて聞いていない。なんで僕だけ毎度のようにこんな仕打ちを受けるんだ。神は僕をどこまで見放せば気が済むんだ。


 もう半分くらいは絶望していた。面接内容よりも、早く開放してくれないかなと思った。


「率直な意見で構わない。現在、犯罪認知件数は増加の一途を辿っている、それに伴って少年凶悪犯罪が増加している。昨年は中学生による巨額の恐喝事件も起きた。高校生によるバスジャック事件も起きた。ここ数年で少年殺人事件も多く起きている。そして、ストーカー殺人事件、集団暴行殺人事件これらは警察官の怠慢から起きた事件だと言われている。これからの日本はどうなると思う。また、私たち警察官の役割とは?」


「現状日本の犯罪件数はこれからも上昇すると思われます。少年犯罪においては、まだ刑を執行されないからと、犯罪を怖がらない子供も増えています。これからも増えると思われます。少年法適用年齢の引き下げは一定の効果が生まれると思われますが、少年院に行くだけや二年刑務所で暮らしたら出てこれると、刑の軽さから犯罪を行う少年がなくなることはないと思われます。それに、これからはデジタルの社会。見えない犯罪が増えてくることも予想ができます。だからといって、少年法の厳格化を望んでいるわけではありません。刑罰の厳格化には一定の効果を発揮すると言われていますが、一定期間を置いて、また増加に転じます。その度に刑罰の厳格化を行うと、刑罰の全てが、いずれ最高死刑になってしまいます。これは職権の濫用です。警察官と市民に今以上の格差を生んでしまいます。市民に身近な警察官であるためには上下関係ではなく、市民の中の監督者として警察官があるべきであると考えます。ですが、おっしゃっていた通り、市民の中には警察不信に陥っている方もおられます。信用を再び取り戻すのは不可能だと思われますが、不信を和らげることは可能だと思います」


 桜が舞い散る季節。晴れて警察庁に入った僕は、警察庁内の刑事局捜査第二課に配属された。


 警察だから、ドラマのように事件現場に躍り出て、何度も事件を解決するように見えるが、警察庁は捜査を行わない。捜査方法の指導や、鑑識技術の向上について指導は行うが、ほとんどは事務作業。全国から集められた二課担当の事件の統計や、警察白書の作成。地方警察から寄せられている物品の購入。


 企画課になれば法案の作成も行うらしいが、日々の業務に追われて出世のことなんて考えられない。なんせ全国の二課犯罪は多い。行政犯罪、公職選挙法など、談合や公務員法など、企業犯罪、横領、贈収賄、それにまだ、詐欺や脱税、これら全てが二課の担当だなんて。何人もで分割しているとはいえ、やることが多すぎる。運動は苦手だから、外に出て何かをするよりはマシだけど、ずっと椅子に座って作業をするのも、これはこれで辛い。


 今になって思うけど、本当にすごいところに来てしまったんだな。


 そして僕にはもう一つの任務がある。それは……。


「井上警視正。今のところは変わりなしです。ですが、やはり、いじめの対象は外ではなく内に向いています。学校裏サイト。個人名を出しながら悪口が書かれています。書いているのは学校の関係者であることは間違いありません。動きますか?」


「いや。そのまま様子見だ」


「なぜですか。これだけ証拠が上がっているのになぜ動かないのですか?」


「もちろんいじめはいけない。だが、今はまだ法案がない。それに小さな悪口を言っただけで犯罪にしてしまうことは、君の言っていた警察官の姿に当てはまっているかな。本当につくづく思うよね。警察官のできることなんて小さなものだと」


 面接をしてくれた井上警視正の元で、ネット犯罪の情報収集を行っている。


 ♢♢♢


 二課で二年近く働いて、晴れて僕は二課の係長に昇進した。後輩もできて、仕事を指示する側に立ってしまった。だが、ここ二年、仕事内容は変わってない。相変わらず、事件の統計をとっていた。警察庁内のことにも最近では、庁舎の中庭や屋上、近くの公園でお昼をとることもしばしば。至って普通のことだけど、こういうの憧れていたから、こんな生活を営めることが嬉しい。ただ、屋上、二十階以上の高さがあるから、冬が弁当を食べられないくらい風が強く寒い。日によっては、ペットボトルのお茶がものの数分で冷蔵庫に入れていたくらいに冷えている。


 二十七歳になった年の秋。僕は地方警察本部の捜査二課長に就任した。


 初めての現場指揮は緊張で吐きそうだったが、本庁でいたころと仕事内容は大して変わらなかった。変わったことといえば、集められた二課犯罪を認定して本庁に送る仕事が増えたくらいだ。あと、統計は本庁にいた頃のようにきっちりとしなくてよくなったことくらい。


 どっちが楽だと問われると、圧倒的に本庁で仕事をしている方が楽だった。こっちでは人付き合い、臨機応変な対応。それが多すぎる。


 三十歳になった年の秋。僕は本庁に戻るのではなく、警視庁に移動となり、捜査二課長代理を担当することになった。


 急な空白が生まれて、人事がまだ決まっていなかった僕が採用されたのだとか。


 井上警視正の言っていたことだから、信じていいのかは微妙だけど。


 三十一歳になった年の春。捜査二課長に復帰した直田すぐた捜査二課長の補佐に就任した。

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