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25年前の僕へ、  作者: 倉木元貴


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7/13

7話

 高野に再び会ってから、僕は毎日のように何時間も勉強を続けていた。

 高野がくれた参考書のおかげで、わからないところもほとんどなくなり、都会にある名門大学の判定はBになった。試験まで半年もないが、できるだけA判定に近づけたいと思っている。


 父も、そんな僕の姿を見て応援してくれているのか、最近はよく参考書を買ってくるようになった。高野にもらった参考書だけでは物足りなさを感じていたので、ありがたいことではある。けれど、やはり未来の参考書の方が進んでいて、この上なくわかりやすい。教えてくれる人がいない僕にとっては、まさにうってつけの参考書だ。


 気がつけば、過去に戻ってから2年近くの月日が経っていた。季節の移り変わりにも気づかないほど引きこもり生活を続けていたせいで、今が寒いのかどうかもよくわからない。


 バイトはバイトで、父の知り合いの古本屋で蔵の掃除をしている。これがなかなか終わらない。1年……まあ、実質は1ヶ月もないくらいだけど、それでもまだ終わっていない。そのおかげでお金には困っていないし、父の説得もできて、学費も払ってもらっている。今バイトで貯めているお金は、大学生活のために使うつもりだ。


 ただ、ここまで順調に物事が進んでいると、逆に何かがおかしいと感じてしまう。

僕に「人生が順調だ」と思わせておいて、絶頂期に地獄へ突き落とす。そんな罠があるような気がしてならない。高野と玉野が知り合いでないと信じたいけれど、確証はない。それ以前に、あれから高野とは一度も会っていない。未来から来たと言っていたし、この世界にはもういないのかもしれない。だが、また会いたいとも思わない。高野のおかげで僕は今までとは違う人生を歩めているが、彼の話をすべて信じきることはできない。


 いくら学業の判定がBとはいえ、試験には面接もある。練習相手のいない僕に、完璧な答えなど作れるはずがない。そこで落とされる可能性もある。


 面接について、高野は何も言ってこなかった。それくらい自分でなんとかしろ、ということなのだろう。わかってはいるが、最後に面接を受けたのは二十年も前の話だ。雰囲気を思い出せるわけもなく、記憶に残っているのは貶されたときの嫌な思い出だけ。面接のことを考えると、トラウマのようにその記憶が蘇ってくる。


 ……できれば、面接は回避したい。できるだけ人と関わらずに受験を終えたい。


 そんな願いが叶うはずもなく、受験の日は刻一刻と迫っていた。

面接については、とりあえず考えるのをやめて、勉強に集中することにした。


 辺りがすっかり冬景色に変わった頃、僕が面接の練習をまったくしていないことが父にバレた。

 また父に叱られた。今回は殴られることはなかったけれど、面接練習をしてくれるというハローワークの企画に、勝手に応募されていた。


 人との関わりを1年以上も拒み続けてきた僕にとって、それは地獄のような企画だった。

 でも、ここで行かない選択をすれば、面接で落とされる可能性が出てくる。大学合格を目指しているのだから、こんなところで躓いている暇はない。


 覚悟を決めた僕だったが、ハローワークに着いた瞬間、「来なければよかった」と後悔した。

理由は2つある。

 1つは、やはり人が嫌いだということ。

 もう1つは、ここのハローワークが、未来の僕が仕事を探していた場所であり、あの玉野と再会してしまった場所でもあるということ。


 今日会うわけではないのに、緊張で腹痛と吐き気が襲ってきた。

 行きたくないな……

 心でそう呟いても、背中を押してくれる人も、止めてくれる人もいない。

 行くしかない。


 公園に植えられた桜の木は、まるで布団でもかけてあげたくなるほど、ついこの間までつけていた葉をすべて落とし、寒そうにしていた。


 この季節になると、いつも考えてしまう。そろそろ高校では冬休みに入っているんじゃないかって。もし冬休みに入っているのなら、またどこかで遭遇するんじゃないかって。

 高野の話は信じているけれど、絶対ではない。もし会ってしまっても、小学生の戯言に耳を傾けた僕の責任だ。誰にも当たることはできない。


 そんなことよりも、中に入ろう。時間も決まっているのだから、遅れないようにしないと。遅れて入るのは恥ずかしい。


 ハローワークに入った僕。そこで思いがけない再会があった。もちろん、玉野ではない。


「中川先生……」


「やあ、これはこれは。お久しぶりですね、日野君。通信高校に通っているとは聞いていますが、元気にしていましたか?」


「ええ、まあ……」


 再会は嬉しいものではないから、積もる話もない。

「通信高校にも馴染めず、ずっと引きこもり生活してました」なんて、言えるわけがない。

気まずい。

 なんで中川先生がここにいるんだ。まさか、生徒も来ているとか?

 そもそも生徒向けの案内だから、いてもおかしくはないけれど、できれば会いたくなかった。


 そんな僕の不安を読み取ったのか、中川先生はため息をついて、こう言った。


「心配しなくても、今回の面接練習にウチの生徒は来ていませんよ。進学希望者は、もっと専門的に面接練習をしますから。就職目当てのハローワークでは、面接練習はしません。今日は別の用事で来ただけです。ああ、それと、面接練習に困っているのでしたら、私の番号を渡しておきますので、いつでも電話してください。固定電話なので、家にいる間しか出られませんが、家も近所ですし、練習にはもってこいだと思いますよ。それでは、私はこれで失礼します」


 中川先生は振り向くことなく、ハローワークを後にした。

 僕はその背中をただ見つめながら、渡された電話番号の書かれた紙を握りしめていた。


 ふと時計を見ると、時刻は13時1分前。


「やべ」


 慌てて2階の会場に駆け込んだ。

 中にはすでに、面接練習のために集まった大人や大学生らしき人が10人ほどいた。

 最後に入った僕は、静まり返った空間の中で注目を浴びた。


「すみません……遅くなりました……」


 面接練習は、まるで僕を待っていたかのように始まった。

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