15話
早速開かれた緊急会議。警察庁の各局長、部長、サイバー企画課、捜査課の課長。警視庁の警視総監、副総監、各部の部長、参事官。各署の署長と副署長。総勢80人にも及ぶ人数が警察庁大会議室に集合した。
事件の状況説明。時系列。
13時12分。
テレビ局で生放送を収録中に、テロ事件が発生したと思われる。
12分からCMに入っており、現場を見た者はいない。
13時15分。
CM明け後、テレビに、全身を武装して自動小銃を持った者が映し出される。
人質にはニュースキャスターが取られていた。見える範囲の実行犯は5人。だが、見えないところに他多数いると思われる。
同時刻、警視庁内に立てこもり事件が起きたと通報が相次ぐ。
13時16分。
人質だと思われていた野上が立ち上がり、服の間に仕込んでいた拳銃をカメラに向けて、警察に宣戦布告を行った。
「これはゲームだ。人質を無傷で解放して欲しいのであれば、警察はその場から動かないこと。さて、優秀な警察官は、僕が考えたゲームに勝てるかな」
野上……いや上野は、そう言ってカメラから姿を隠した。
13時18分。
テレビ局周辺の立入規制を行い、包囲が完了する。
13時21分。
警視庁特殊事件捜査係(SIT)銃器対策部(銃対)隊が現場に到着。調査先行隊が盾を持って突入する。だが、それを読まれていたかのように機銃掃射に遭い、5人の隊員が負傷する。
13時25分。
SITが地下からの突入を試みるが、それも読まれていたかのように二酸化炭素系消火剤が撒かれた。
幸いにも死亡者は出なかったが、6人の隊員が気分不良や身体異変を訴え、病院に搬送される。
先の突入と合わせると、11人の隊員が早くも負傷する。
13時35分。
現場指揮官から特殊急襲部隊(SAT)へNBCテロ対応専門部隊(NBC)の派遣要請があり、現場に到着。総勢200人体制でテレビ局を包囲する。
13時46分。
連絡を受けて警察庁・警視庁合同の緊急会議が開かれる。
この間約30分、上野から立てこもりの要求は一切なかった。
緊急会議は難航していた。捜査状況を時系列で並べるだけに終わっていた。
野上也一のことは皆、テレビで知っている。人当たりも良くて好青年だと話題になっている。怪しい噂も一切なく、政治的コメンテーターとしても中立を保ち、左翼的・右翼的発言は一切しない。誰にでも優しく、叱るべき時には年上でも言葉で叱る。聖人君子のような人物。
だからこそ噂も絶えなかったが、裏を取れる証拠は週刊誌も一切掴めなかった。
警察庁にも彼の指紋がデータベースに残されているが、事件に関わったものではなく、近くの警察署での体験で収集されたものだった。その時の彼の手紙には『将来の夢へ一歩近づけた気がしました。』と書かれていた。
そんな彼が、なぜこんな大事件を起こしたのか。理由は語られず、要求も何もないまま時間だけが進んでいた。
警視庁警備部長はSATの突入を企て、タイミングを見計らっていた。
交通局、警視庁交通部は規制範囲を広げ、周辺100メートルを規制区域にする準備を整えていた。
13時55分。
番組終了時刻になったが、放送を終えることはできず、出演者が怯えているだけの姿が映し出されていた。
14時00分。
SATが突入態勢を整え、1階部分から突入を行う。
激しい銃撃戦が行われ、隊員2名が負傷する。が、1階部分の制圧を完了、発砲してきた実行犯の1人を確保する。
2階へ向かう階段は、全てワイヤーで通行不能にされ、あからさまな電気ショック装置が配置されていた。
2階への突入は諦め、1階部分にある防犯カメラを全て破壊し、SAT・SIT・銃対が交代で監視にあたる。
14時09分。
テレビ画面に再び上野が現れる。そして彼はこう言った。
「いやーすごいね。こんなに早く突入されてしまうとは。日々の訓練の賜物だね。でも、残念。ゲームはこれでお終い。僕は、ここから離れるね」
放送は打ち切られた。
彼の言っているゲームとは一体何のことで、これから何をしでかすつもりなのか。嫌な予感がしていた。彼の笑みは、うまくことが運んでいる証拠だから。
そんな中、審議官の1人が僕に耳打ちをした。
「官房長。国会連絡室の職員と連絡が取れません」
血の気が引いた。彼らの目的は初めから国会だったのだ。
緊急会議の席を外し、審議官と共に警察庁内に設置されている国会連絡室を訪ねた。国会に待機している職員7名、誰とも連絡が取れなかった。
その頃、テレビでは、テレビ局のヘリポートからヘリコプターに乗って逃げる上野の姿が映し出されていた。
なぜこんな姿を映している。なぜカメラマンを連れている。一体何がしたいのだ。
カメラマンが一瞬窓の外を映した。映っていたのは衆議院会館。
テレビ局に立てこもったのは、国会を占拠するための布石。
どのテレビをつけても立てこもりのことばかりで、警察官の注目も立てこもりばかりだった。
国会に注意を払う時間さえなかった。これは言い訳だ。僕がもっと全体像を見られていたら。上野のことをもっと監視できていたら。
後悔ばかりが頭に巡る。長官や次長の行方もまだわからないままなのに、僕に何ができる。まさか、上野はこうなることを見越して、僕に警察官を勧めたのか。
結局僕は、昔のままだということか。
誰もいない長官官房室で、上野の資料を読み返していた。
国会を占拠するには、相当の実力と仲間が必要になるはず。だが、調べた限りの上野の交友関係は広くない。人間を動かせるほどのお金も、預金通帳にはない。なら、どうやって。
ふと窓から外を眺めると、窓に反射して僕の背後に男が1人立っていた。その男は、佐久間だった。
「佐久間──」
「先輩、すみません」
彼はそう言って、僕にスタンガンを当てた。一瞬のことで何もできなかった。長官たちも、こうして囚われたのか。
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