表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25年前の僕へ、  作者: 倉木元貴


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/16

13話

 僕を、警察官になるように仕向けたのは、上野で間違いない。だが、彼の目的がわからない。

 僕は、警察官僚になって、権力もそこそこ得た。上野にとって、都合の悪い証拠を消すくらいのことは、造作もない。なのに、彼は僕に接触してこない。なぜ、接触してこない。それに、国家の中枢人物に、どうやって接触した。どうして、僕の人生に干渉したんだ。


「……僕は、何か大きなものに巻き込まれているのか。いち警察官ではどうしようもないこと」


 そう思った矢先のことだった。

 上野の調査をしていた班員。後輩の佐久間から緊急連絡が入った。


「日野さん。上野の尾行をしていた田所が、マンションの階段から転落して、頭を強打し、意識不明の状態です」


 田所の事故を現場所轄に任せていたが、事件性はなく、足跡痕もマンション住人と田所のものだけ。争った形跡はなく、足を滑らせたとしか考えられないと。決して天気が悪かったわけでもなく、晴れて乾燥している状態での事故。

 だが、周辺の監視カメラは、都合のいいことに全部故障していた。それも、たったの15分間。その間の映像だけが、どこにも記録されていなかった。

 すぐに調査員を派遣し、防犯カメラを精査し、逃走方向を絞ろうとしたが、逃走方向は広がるばかりで、まるでこうなることが読まれているみたいだった。

 100以上の防犯カメラを、一時的に故障させるなんて、単独犯の仕業ではない。何か大きな組織が絡んでいる。


 その後も、調査員の不吉は続いた。


 現場に派遣した調査員3人全員が、外出先で事故を起こされて骨折したり、食事で中毒を起こし急性胃腸炎を発症し、入院をして捜査を中断。田所の事故調査に向かった調査員5人も全員が同じ理由で調査を中断した。

 合わせて8人、全員入院しているが、命に別状はない。田所も、1週間後には意識も回復し、病院を都内に移した。

 本庁の小会議室で僕は悩んでいた。このまま捜査を続行していいのか。これは何かの警告ではないのか。

 小会議室に佐久間を呼び出し、僕は決断した。


「佐久間。この調査は終わりにしよう」


「日野さん。いいのですか?」


「これだけ調査員が怪我をしているんだ。これ以上、続行はできない」


「ですが──」


「これは命令だ佐久間。命を落とすな」


 佐久間も悔しがっていた。唇を噛み締めながらも、頷いた。


 その夜。僕は、1人で今回の事故資料の整理をしていた。

 ふと、背後に気配を感じた瞬間、首筋に電撃のような衝撃が走った。


「……っ!」


 意識が遠のいて行ったのがわかった。

 床に崩れ落ちる寸前、誰かの足音が近づいてきた。


「ご苦労、佐久間。もう席を外して構わないよ」


 足音が1つ走って離れて行った。

 佐久間……佐久間がやったのか……なぜだ。佐久間は僕の直属の後輩……のはず。


「日野さん。調査をもっと早く終わらせるべきだったね。知り過ぎてからでは遅いんだよ」


 その声には聞き覚えがあった。

 低く、落ち着いていて、どこか機械的な声。


「高野……いや、上野か……」


 25年前に出会ったあの少年。

 そこまで言って、意識が途切れた。


 目を覚ましたのは、翌朝のベッドの上だった。

 側には警察庁長官が座っていた。


「……日野君。目を覚ましたのか」


「ちょ、長官……」


「寝たままで構わない。無理をしてはいけない」


「長官。昨日は……」


「やめたまえ」


 長官の声が、鋭く遮った。

 その目からは、さっきまでの温厚さが消えていた。


「これ以上は、君に危険が及ぶ。彼らには関わらない方がいい。これは忠告だ。君のためを思って言っている。頼む」


 長官が僕に頭を下げた。

 その姿は、どこか怯えているようにも見えた。


「長官。佐久間は……佐久間はどうなりました?」


「佐久間君は、異動になった。異動先は、言えない。そういう約束だから……」


 長官も悔しそうな顔を見せた。

 佐久間……もう会えないのか……。


「長官は、彼らのことを全て知っているのですか?」


「それを知って君はどうするつもりだ」


 僕は答えを出すことができなかった。

 正義のために、真実を暴く。

 そう言いたかったのだが、あの声、あの電撃のような衝撃、そして調査員たちの異変。

 それらが、僕の言葉を喉の奥で詰まらせた。


「日野君。君は優秀だ。これからも警察庁の中枢で活躍してもらわなければならない。だが、これ以上は踏み込むな。君もいずれ、知ることになる。絶対的な権力に。それまでは、大人しくしておいてくれ」


 長官はそう言い残して、病室を後にした。


 僕はベッドの天井を見つめていた。

 25年前に、あの少年に救われたと、ずっと思っていた。

 だが今は、あれが導きだったのか誘導だったのか、わからない。


「25年前の僕……やはり、あの時に死んでおくべきだったのかもしれない」


 正義とは何だったのか。

 誰のための正義だったのか。

 僕は、ただ誰かの計画の歯車として動かされていただけなのか。

 僕自身の正義も実行できないなんて、警察官として生きていく価値はないな。


 答えは出なかった。

 だが、もうこれ以上、踏み込むことはできない。これ以上は、誰かが命を落とす。

 それだけは、はっきりしていた。

おもしろかったら評価、ブックマークよろしくお願いします

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ