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02-4 なぜこんなにも胸がかき乱される(4) 王子の胸に響くもの

王城の執務室。

ユリウスは机に向かっていた。山のように積まれた書簡、軍の報告書、民からの嘆願。

けれど視線は文字を追いながらも、頭の中は別のことでいっぱいだった。


(……また、あの人は無茶をしているのだろうか)


不意に、部屋の扉が勢いよく開いた。


「ユリウス様! 大変でございます!」


駆け込んできたのは側近のルカだ。

乱れた息を整えながら、彼は深々と頭を下げた。


「火竜と氷竜、二体の竜が都市を襲撃いたしました」

「なっ――!」


ユリウスは思わず立ち上がる。

胸が強く跳ね、息が詰まった。


「レオンハルト様が……単身で応戦されました。そして――見事、二体を討ち果たされました」


言葉を聞いた瞬間、ユリウスの膝から力が抜ける。

安堵のあまり椅子に崩れ落ちた。


「……無茶を、するなと……言ったのに……心配したじゃないか」


小さな声。

それを聞きとめたルカが、驚いたように目を丸くする。


「ユリウス様……今、なんと?」

「な、何も言っていない!」


慌てて顔を背け、真っ赤になった頬を隠す。

けれど鼓動は速まり続け、心臓の音が自分の耳にさえ響いていた。


「……と、とにかく! 無事なのだな?」

「はい。兵士たちも命を落とすことなく、竜は完全に制圧されました」


「……そうか……」


胸の奥から、熱がじわりと広がっていく。

それは安堵であり、そして――悔しいほどの嬉しさだった。


ルカは主の動揺を見透かしたように、柔らかく笑った。


「ユリウス様は、本当に……聖者様のことを気にかけていらっしゃるのですね」

「ち、違う! あいつは無鉄砲すぎるから、国のために心配しているだけだ!」


「……ふふっ」

「な、なにがおかしい!」


ルカは首を横に振ると、深く一礼した。


「レオンハルト様は必ず帰ってまいります。どうか、信じてお待ちください」


静かに去っていく背中を見送りながら、ユリウスは机に額を押しつけた。


(……なぜ、こんなに胸が苦しい? ただの聖者、ただの腕っぷしの強い男のはずなのに……)


思い出すのは、竜に挑む彼の背中。

命を投げ打ってでも民を守ろうとする、真っ直ぐな姿。


「……心配なんか、していない。していないのに……!」


声に出しても、胸の鼓動は収まらなかった。

それどころか、ますます熱く、速くなっていく。

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