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16 二人は甘すぎますね

盛大な結婚式が終わった夜。

王城の大広間にはまだ花の香りが残り、祭りの余韻を思わせるざわめきが遠くから届いていた。


王都中の民が見守る中での婚礼。

王であるユリウスと、聖者レオンハルトの結びつきは、国の未来を象徴する出来事だった。


鐘の音、舞い散る花びら、溢れる歓声。

そして遠方から放浪の聖者セイラも駆けつけ、二人を祝福した。


全てが夢のようで、当の本人――ユリウスは現実感を持てないまま自室に戻ってきた。


「……あぁ、恥ずかしくて死にそうだ」


正装のままベッドに倒れ込み、顔を真っ赤にして呻く。

民衆の前で誓いの口づけを交わすなど、冷静でいられるはずがなかった。


「死ぬなよ」


隣に腰を下ろしたレオンハルトが肩をすくめて笑った。


「これから毎日、お前のその可愛い照れ顔を拝めなくなってしまうからな」

「か、可愛いって言うな! 王に向かって何を……」


ユリウスは慌てて枕を掴み、彼に投げつけた。

だがレオンハルトは軽く受け止め、そのまま腕を伸ばしユリウスを抱き寄せた。


「俺の王様。今夜からは俺の夫でもあるんだ。逃げられないぞ」

「なっ……! ば、馬鹿っ」


暴れる腕もすぐに力を失い、胸の奥から溢れてくる安心感に目を閉じた。

今日の一日がどれほど大変であっても、最後に隣に彼がいる――それだけで、全てが報われる気がした。


****


翌朝。

窓から差し込む柔らかな光に目を覚ますと、レオンハルトが椅子に腰掛け、じっとこちらを見つめていた。


「……なに、人の寝顔をじろじろ見てるんだ」

「可愛かったから。おまけに寝言まで聞かせてもらった」


「……!」


嫌な予感がしたユリウスが身を起こす前に、彼は口角を上げる。


「『レオン、バカ……』って」

「う…….…っ!! 言うなぁっ!」


真っ赤になって枕を振り上げると、タイミング悪く部屋の外から控えめな声がした。


「……あの、朝食の用意ができております、陛下」


ルカだ。声がわずかに震えている。

おそらく今の会話を聞かれてしまったのだろう。


「おーい、ルカ。陛下はまだ新婚の余韻に浸ってるからな」

「れ、レオン! やめろっ!」


慌てて口を塞ごうとしたが遅かった。

廊下から「……承知いたしました」という小声が返り、気配が遠ざかる。

想像するだけで恥ずかしい。


****


昼下がり。

城内を歩けば、兵士や侍女たちから笑顔で祝福の声がかけられる。


「聖者殿、王様、どうか末永く」

「お二人なら、この国は未来永劫安泰です!」


レオンハルトは堂々と手を振り、笑顔を返す。

その姿に兵士たちの士気は一層高まり、侍女たちは頬を染めた。

対してユリウスは、耳まで赤くしながら小さく頷くしかできない。

王としての自信はあるのに、“レオンハルトの夫”としての自覚はまだ追いつかないのだ。

対して、何でも上手くこなしてしまうレオンハルト。

ユリウスは、自分の不甲斐なさに、しばしばため息をつく。


そんな彼に、レオンハルトがわざとらしく耳打ちする。


「俺に嫉妬してる?」

「し、してないっ!」


即答するも声は裏返り、周囲の兵士たちは堪えきれず笑いを漏らす。


「……羨ましいくらい幸せそうですね」


横でロイがぼそりと呟き、ルカが真顔で頷いた。


「国の未来は安泰です」

「ええ、本当に」


からかわれているのか本気なのか分からず、ユリウスはさらに赤くなる。


****


夜。

月明かりに照らされた庭園で、二人は肩を並べて歩いていた。


「ユリウス、お前と一緒なら、どんな災厄も恐くない」


レオンハルトが真剣な眼差しで言う。


「……レオン、お前がいるなら、私は、この国をずっと守っていける」


ユリウスも同じように応える。

互いに支え合える存在であることを、心から確信していた。

自然と距離が縮まり、レオンハルトが抱き寄せる。唇が触れ合い、静かな夜に二人の鼓動だけが響く。


これから先、幾つもの困難が待ち受けていようとも――この絆があれば、必ず越えていける。


そして再び寝室へ。

ユリウスは小さな声で告げた。


「……お前となら、王でも夫でも、やっていけそうだ」


レオンハルトは一瞬目を見開き、それから照れくさそうに笑った。


「俺もだ。もうお前なしじゃ、生きられない」


廊下の隅で、ルカとロイが笑顔で小声で囁き合っている。


「……最近のお二人は甘すぎますね」

「まったくです。胃もたれしそうです」


「ははは、まったく」


その声も届かない。二人は抱き合い、幸せに笑い合う。


こうして王と聖者の物語は、大団円を迎えた。

二人の愛と絆と共に――国は永遠に続いていく。


✦ ✦ ✦ おしまい ✦ ✦ ✦



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