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02-2 なぜこんなにも胸がかき乱される(2) 破られし結界

南の山脈に近づくにつれ、地鳴りのような咆哮が大気を震わせた。

空を覆う炎の翼、そして反対に冷気を纏った白銀の巨体。

二体の竜が、黒雲を裂いて姿を現す。


「……うっ! まさか本当に同時に現れるとは」


ルカが思わず息を呑む。

そのとき、山道の先から数十人の兵とともに一人の青年が姿を現した。

長い銀髪を後ろで結い、蒼い瞳は澄み切っている。

細身ながら気品ある立ち姿に、誰もが目を奪われた。


「お待ちしておりました。私の名はセリオス。封印術を受け継ぐ一族の者です」


朗々と名乗りを上げると、兵たちが「セリオス様!」と声を揃えた。


「この二体の竜、私が封印いたしましょう。聖者殿には……ご助力いただくまでもないかと」


レオンハルトは片眉を上げ、ニヤリと笑った。


「へぇ、イケメン術士様の登場ってわけか。派手にやってくれるのを期待してるぜ」


セリオスは一瞬だけ眉をひそめたが、すぐに静かな笑みを返す。


「封印とは繊細なもの。力任せでは竜を鎮められません。どうか兵の指揮をお願いできますか」


レオンハルトは肩をすくめて「はいはい」と応じる。

そんな二人のやり取りを、ルカは興味深そうに見守っていた。


(殿下が見たら、またご機嫌を損ねるだろうな……)


セリオスは深呼吸し、両手を広げる。

その周囲に光の紋様が次々と浮かび上がり、巨大な魔法陣を形作っていった。


「封印術式――双竜結界!」


空を覆うような陣が展開し、竜たちを包み込もうとする。

兵士たちから歓声が上がる。


「すごい……!」

「これなら勝てる!」


だが――次の瞬間。

火竜が大地を焼き、氷竜が空気を凍らせた。

相反する力が衝突し、術式は激しく軋む。


「ぐっ……制御が……!」


セリオスの顔が苦痛に歪む。

炎と氷の奔流が魔法陣を押し破り、轟音とともに爆ぜ散った。

兵士たちが悲鳴を上げて倒れ込む。


「な、なんだと……!?」


セリオスは愕然と膝をつく。

彼の自信に満ちた瞳が、初めて揺らいだ。


そんな彼の肩に、大きな手がぽんと置かれる。


「よくやったな。あとは任せとけ」


振り返れば、余裕の笑みを浮かべたレオンハルトが立っていた。

背後で竜の咆哮が轟く。

空気を震わせるその威圧感に兵士たちは震え上がったが、レオンハルトだけは一歩も引かない。


「さぁ、暴れ足りねぇ竜ども。俺が相手だ」


その背中に、セリオスは言葉を失った。


(……なぜだ。恐怖よりも、あの背に……魅了されてしまう……)

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