13-2 お前を離さねぇよ(2) 操られる自然の怒り
森の奥へと進む一行。
空気はますます重く、吐く息すら鈍く感じられるほどだった。
葉の擦れる音が低い唸りのように響き、風が逆巻くたびに兵士たちは怯えた顔を見せる。
「気をつけてください……何か来ます」
ロイの声が震える。感知能力の高い彼には、何か超常的な気配が手に取るように伝わっていた。
次の瞬間、大地が唸った。
土が盛り上がり、巨人の腕のような根が飛び出す。
「うわああっ!」
兵士たちが悲鳴を上げる。
「下がってろ!」
レオンハルトが前に出て、拳を振り下ろした。
轟音と共に根が粉砕され、木片が四散する。
だが、それは序章にすぎなかった。
森の奥から現れたのは、炎を纏った狼のような精霊、全身が水でできた巨人、そして風の刃を纏った鳥の群れ。
本来なら自然を守る存在である彼らが、今は敵意をむき出しにしている。
「くっ……これが精霊の暴走……!」
ユリウスが剣を構えた。
「殿下、下がってください!」
兵士たちが慌てるが、ユリウスは首を振る。
「民を守るのが王族の務めよ!」
彼の瞳は怯えてなどいなかった。
むしろ燃えるような覚悟が宿っていた。
****
戦いが始まった。
炎の狼が突進し、地を焼く。
ユリウスが剣で受け流し、兵士が盾で援護するが、熱気で鎧が赤く染まる。
「うわっ、熱っ……!」
兵士が叫ぶ。
すかさずレオンハルトが狼の鼻先に拳を叩き込む。
炎が散り、狼は後退した。
次に、水の巨人が腕を振り下ろす。
カイルが咄嗟に防御魔法を展開するが、水圧に押され、膝をつく。
「ぐっ……! 力が……!」
レオンハルトはロイの前に躍り出て、その拳をぶち抜いた。
水飛沫が滝のように降り注ぐ。
「水遊びならもっと優しくしろ!」
風の鳥たちは刃を纏い、兵士たちを切り裂こうと舞い降りる。
ユリウスが剣を振るい、次々に撃ち落とした。
「まだだ……私は負けない!」
額に汗が浮かぶが、瞳は決して揺らがない。
その姿をレオンハルトは横目で見て、口角を上げた。
「強くなったな、ユリウス」
「当たり前さ! お前に笑われたくないからな!」
必死の叫びに、レオンハルトは豪快に笑った。
「上等だ! その調子で並んで戦え!」
****
だが、戦いは容易ではなかった。
倒しても倒しても、精霊たちは形を変えて立ち上がる。
炎は燃え盛り、水は集い、風は渦を巻く。
「きりがない……!」
ロイが叫ぶ。
ユリウスも唇を噛んだ。
「どうすれば……彼らは本来、敵じゃないはずなのに……!」
その言葉に、レオンハルトの瞳が鋭く光る。
「つまり、誰かが裏で糸を引いてるってことだ」
「……!」
皆が息を呑む。
「精霊が自分の意思で暴れるわけがねぇ。なら、操ってる奴がいる。そいつをぶん殴れば終わる」
その単純明快な言葉に、絶望しかけていた兵士たちの心が再び灯る。
「操ってる者……一体どこに……?」
ユリウスが周囲を見渡す。
その時、森の奥から、不気味な笑い声が響いた。
「……フフ……やっと気づいたか」
霧の中に立つ影が、ゆっくりと歩み出る。
その周囲にはさらに巨大な精霊たちが従っていた。
「貴様は……!」
ユリウスが剣を構える。
レオンハルトは拳を握り、挑発するように笑った。
「ようやく操り人形の親玉が出てきやがったか。いいぜ、まとめてぶっ壊してやる」
森全体が唸りを上げ、戦いの幕が上がろうとしていた。




