12-4 もしかして嫉妬したのか(4) 癒しと栄養の魔法
西方では病人が多数発生し、疫病の発生が疑われた。
震源地とされる村は、山間の痩せた土地にあり、農作物は育ちにくい。
飢餓とは言わないまでも村人達の栄養状態は明らかに悪い。
現地に到着したセイラは村を見渡し、すぐに原因を見抜いた。
「病の根源は、疫病ではなく……貧しさゆえの治療不足。ならば――」
彼女は天に祈り、両手を掲げる。
瞬間、村全体を包む光が降り注ぎ、病人たちの体から黒いもやが抜けていった。
「う、動ける……!」
「痛みが消えた……!」
村人たちは歓声を上げ、涙ながらにセイラに感謝を捧げる。
「聖者様! 命の恩人だ!」
「神が遣わした天使だ!」
ユリウスは目を輝かせ、手を握りしめて飛び跳ねるように叫んだ。
「セイラ様、すごい! やはり、あなたは奇跡そのものだ!」
ユリウスがセイラに抱きつく様子を見たレオンハルトはむっとして口を尖らせた。
「……俺だって、できる」
すねた子どものように宣言すると、彼は村の外へ飛び出して行った。
しばらく戻らなかったが――やがて姿を現した彼の両肩には、驚くべき荷が担がれていた。
一方には巨大な緑水晶石。
もう一方には、山の獣を仕留めた大量の肉。
「……お前、何してきたんだ」
ユリウスが呆然とつぶやく。
「最初からわかってたんだよ。この土地は痩せて農業には向かねぇが、山は豊かだ。緑水晶は削れば薬になる。少しずつ使えば健康でいられるし、名産品として売れば収入にもなる。獣肉は食えば精がつく。お前らみたいに痩せこけてちゃ、病気にもなるって。ああ、そうだ、狩りの仕方は俺が教えてやる」
レオンハルトはドンッとそれらを地面に放り出した。
村人は目を丸くし、歓声を上げる。
「す、すごい……! こんな解決法が……!」
「聖者様に、拳の英雄様……神々の恵みだ!」
セイラは腹を抱えて大笑いした。
「ふふ……本当にあなたらしいわね」
レオンハルトは少し照れくさそうに顔をそむける。
「で、試しの結果はどうだ?」
「もちろん、合格です」
セイラは涙をにじませ、レオンハルトに抱きついた。
「よくここまで育ちましたね……」
「なっ……! や、やめろババア!」
顔を真っ赤にしながらも、心の奥底では温かい涙があふれていた。
セイラの深い愛情が、彼の心を揺さぶっていたのだ。




