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02-1 なぜこんなにも胸がかき乱される(1) 双竜の咆哮と聖者の力

王城の一室。

夜明けの光が差し込み、広い窓辺に腰掛けたユリウスは紅茶を口にしていた。

けれど味わう余裕などない。

彼の視線は机の上に積まれた書簡へと釘付けになっている。


「また……隣国からの書状か」


ため息交じりに呟くユリウスに、扉を押し開ける音が重なる。

いつものように豪快な足取りで現れたのは、聖者レオンハルトだった。


「おいおい、朝から眉間にしわ寄せて。王子様がそんな顔じゃ、民が不安になるだろ」

「余計なお世話だ! お前のように能天気ではないのだ」


「能天気って便利なもんだぜ? 寝起きの紅茶も三倍うまく感じる」


にかっと笑うレオンハルトに、ユリウスは思わず口を結ぶ。


(……この男、どうしてこうも軽々しいのだ。だが……)


脳裏に浮かぶのは、あの日、巨大な魔物を拳ひとつでなぎ払った姿。

思わず胸がざわめき、慌てて紅茶を口に含む。


そこへノックもなく扉が開き、側近ルカが慌ただしく駆け込んできた。


「殿下! 聖者様! 報せです!」

「な、なんだ騒々しい」


「南の山脈より――火竜と氷竜が、揃ってこちらに向かっております!」


その言葉に、部屋の空気が凍りついた。


「なに……竜が二体も……?」


ユリウスは愕然と立ち上がる。

一方、レオンハルトは腕を組み、口元に薄い笑みを浮かべた。


「へぇ、いいじゃねえか。朝の運動にはちょうどいい」

「ふざけるな! 竜だぞ!? 国ひとつ滅ぼす力を持つ災厄だ!」


「だから俺が行くんだろ?」


当然のように言うその声音に、ユリウスは胸が熱くなるのを感じてしまった。

慌てて顔をそむけ、冷たく言い放つ。


「勝手に決めるな! ……だが、仕方ない。どうせお前くらいしか……」

「おいおい、今“頼りにしてる”って認めたか?」


「っ、ち、違う!! そんなことは言ってない!」


レオンハルトは愉快そうに笑い、ユリウスの耳元へ顔を寄せる。

「安心しろ。ちゃんと戻ってくる。……お前が待ってるんだからな」


「べ、別に待ってなど……!」


ユリウスの頬は真っ赤に染まり、言葉が続かない。

ルカは見なかったふりをして咳払いする。


「では、聖者様、出立の準備を整えます」

「おう、頼んだぜ」


こうしてまた、二人の掛け合いを残したまま、聖者は竜討伐へと赴くのであった。

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