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11-4 もうどこにもいくなよ(4) 王の涙と祈り

王城。

広間に差し込む陽光はいつもよりも淡く、城内は不安に満ちていた。


地下迷宮から魔物が溢れ出すとの報告を受けてから、王都は緊張状態に置かれていたのだ。

市民は避難を急ぎ、兵士たちは防衛線を敷く。

その中心でユリウスは、じっと祈るように立っていた。


「……レオン、大丈夫だろうか」


誰にも聞かせるつもりのない呟きが漏れる。

ルカが一歩進み出て、静かに頭を下げた。


「陛下。現地からの伝令です。聖者様が到着し、既に状況は収束に向かっているとのこと」

「ほ、本当か!?」


ユリウスの瞳が輝き、胸を撫で下ろす。

しかし、次の瞬間、ルカは言い淀んだ。


「……ただし、一時は崩落に巻き込まれ、消息不明という報告も……」


その言葉を聞いた瞬間、ユリウスの顔から血の気が引いた。


「……そんな!」


体が震え、膝が砕けそうになる。


「陛下!」


慌ててルカが支える。


(レオンが……消息不明……?)


頭の中でその言葉が反響する。

胸が締めつけられ、視界が滲む。

普段は決して涙を見せない彼が、この時ばかりは声を抑えきれず、嗚咽を漏らした。


「……嫌だ……そんなの……」


ルカは、静かに殿下の肩に手を置いた。


「陛下……」


彼は知っていた。

ユリウスがどれほど聖者を想っているのかを。


****


やがて、城門が騒がしくなった。


「帰還したぞ!」


兵士たちの声にユリウスが顔を上げる。

扉を開き入ってきたのは、ロイだった。

すぐさま、ユリウスは問いかける。


「レオンは、レオンハルトは無事なのか?」


ロイが答える前に、その者は現れた。


「無事に決まってるだろ?」


土埃まみれで、本人とは見紛う姿。

しかし、声色ですぐに本人とわかった。


「……レオン……!」


駆け寄るユリウス。

彼を見つけたレオンハルトは、にやりと笑った。


「泣いてた? 可愛い顔が台無しだぜ」

「う……っ!」


怒りと安堵と羞恥が混じり、顔を真っ赤に染めるユリウス。


「誰が泣いてたって!」

「いやいや、俺のために泣いてくれたんだろ? 嬉しいなぁ」


「ち、違う! 全然違う!」


必死に否定するが、声は裏返り、涙の跡が頬に残っている。

ルカが小さく咳払いをして場を和ませた。


「では、詳細な報告をお願いします」


****


広間にて、ロイとマーラが経緯を説明する。

ダンジョンの異常な膨張、罠の存在、そして最後に地上からの拳で出口を崩壊させたこと。

重臣たちは一様に言葉を失い、やがてざわめいた。


「拳で……地形を変えたと?」

「そんな馬鹿な……しかし現に……!」


驚愕と称賛が入り混じる。


一方でユリウスは、報告そっちのけでレオンハルトを見つめていた。


(無事でよかった……。本当に、よかった……)


ふと、視線が重なる。

レオンハルトがにやりと笑い、唇を動かす。


――「俺のこと、好きなんだろ?」


ユリウスの顔が真っ赤に染まった。


「う……っ!」


慌てて目を逸らすが、胸の鼓動は早鐘を打つばかり。

ロイは、そんな二人を遠目で、うんうん、と満足気に見つめていた。


****


夜。

ユリウスは自室に戻っても、眠ることができなかった。

ベッドに座り込み、頬を押さえる。


「本当に、泣いてしまった……。皆の前で……」


羞恥にうずくまるが、同時に心の奥底から湧き上がる感情を抑えられない。


「……大好きで仕方ないんだ」


小さな声で告げたその言葉は、誰に届くこともない。

けれど、自分の胸を確かに打ち抜いた。


ユリウスは両手で顔を覆い、声にならない笑いと涙をこぼした。


「もう……笑われたっていい……だって無事だったのだから」

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