10-6 思い出を下さい (6) 愛と戦の帰還
夜明け前の宮廷。
燃え盛る火の手と混乱の叫びを背に、レオンハルトとロイは脱出の道を駆けていた。
「くそ、奴ら……火を放つとは。外交の場を完全にめちゃくちゃにしやがって!」
レオンハルトが吐き捨てる。
「レオン様、我が国と戦争するのは既定路線なのでしょう。障害となるレオン様を先に排除するのが狙いかと」
「やっぱりな」
ロイは完全に吹っ切れていた。
今はただ、副官として主を守るだけ。
走りながら、書類をさっと差し出す。
「これは?」
「宮廷を探った際に手に入れた敵戦力の配置図です」
「ふふっ、さすがロイ。いつの間に……。これさえあれば、我が国に負けはないな」
「ええ。それに提案なのですが……帰り際にいくつかの部隊を壊滅してから帰還しませんか?」
「おおっ、いいアイデアだ。拳がうずいてたところだ。引き返して軽い運動でもしようじゃないか」
「はい。どうせこの先にも罠があるでしょうし……」
(そうだ。私はこれからも、レオン様と共に戦場を駆けていける。それ以上を望むのは贅沢ってものだ)
ロイは、昨夜の出来事を胸の奥深くにしまい、鍵をかけた。
自分の恋は卒業し、レオンハルトとユリウスの恋を応援すると誓ったのだ。
「こっちです、レオン様!」
その瞳に涙はなく、未来を真っすぐに見据えていた。
****
数日後、アルビオン、王都。
王城の大広間で、ユリウスは二人の帰還を待っていた。
その顔は不安と焦燥に覆われている。
「……本当に、無事で帰ってくるだろうか」
呟いた瞬間、扉が開く。
「ただいま戻ったぜ」
豪快な声と共に、レオンハルトが姿を現した。
その瞬間、ユリウスの瞳が潤む。
「レオン……!」
駆け寄るユリウスを、レオンハルトは片腕で受け止めた。
「心配したか?」
「ば、馬鹿っ……当然だろう!」
涙声で怒鳴るユリウスに、レオンハルトは笑みを浮かべる。
「悪いな。だが、お前の笑顔を見たくて急ぎ帰ってきた。笑ってくれるか?」
その言葉に、ユリウスの胸がジンと熱くなる。
そして、注文どおり懸命に笑顔を作って見せた。
隣で見守っていたロイは、そっと視線を逸らし、宙を見つめた。
(……これでいい。ユリウス様の隣にいるレオン様が、一番生き生きしているのだから)
胸の痛みは消えていた。
代わりに込み上げてきたのは、温かな感情。
「……力及ばずながら、私も支えていこう。この二人を」
小さく呟いた声は、風に紛れて消えていった。




