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10-5 思い出を下さい (5) 夜の宮廷、忍び寄る影

深夜、宮廷の一角。

ロイは寝台に横たわりながらも、眠れずにいた。

胸に去来するのは、レオンハルトの言葉だった。


「拳でしか語れねぇ。それで十分だろ」


体の芯が燃えるように熱い。


(あんなセリフ、惚れない方がどうかしている。ああ、レオン様……)


興奮で悶々とするロイ。

と、その時だった。

窓の外で、不穏な気配が走る。


「レオン様を守らなくては」


ロイは瞬時にいつもの冷静さを取り戻し、身を翻して剣を抜いた。

窓枠に影が落ち、闇から忍び込もうとする黒装束の男たち。

廊下で物音がした。


「……襲撃か?」


ロイは素早く廊下へ飛び出し、レオンハルトの部屋の扉を背にして立つ。


(何人いる? 八人? いや、もっと多い。十人か?)


ロイに襲いかかる黒装束の男たち。

剣戟の音が夜を裂く。

ロイは剣を振るい影を退けたが、次から次へと襲撃者が現れる。


「チッ……!」


額に汗をにじませながら、気付けばロイは一度に数人を相手にしていた。

その背後から別の刃が迫る――。


(やられる……)


しかし、次の瞬間。

轟音と共に扉が吹き飛び、拳が闇を切り裂いた。


「遅れて悪ぃな」


豪快な声と共に現れたのは、もちろんレオンハルトだった。


「レオン様!」


拳が唸り、暗殺者たちが次々と吹き飛んでいく。

その光景に、ロイは胸の奥が熱くなるのを感じた。

手を止め、羨望のまなざしを向ける。


(……私なんかより、ずっと強い。そして、ずっと真っすぐ。ああ、憧れのレオン様……)


****


襲撃が収まった後、二人は客室に戻った。

崩れた壁から月明かりが差し込み、静寂が訪れる。


「……ロイ。お前、俺を守ろうとしたんだろ?」

「はい」


ロイは即答する。

だが声は硬かった。


「しかし、私ごときでは、レオン様の邪魔をしただけかと……」


レオンハルトはゆっくりと近づき、ロイの肩を叩いた。


「そんなことはない。確かに俺は無敵だ。でも、それはお前の強さとは関係ない。よくやってくれた」

「……そ、そんな」


「実を言うとな……」


レオンハルトは続ける。


「この旅の間、お前が警戒してくれていたおかげで安心して熟睡できていてな。それで少し出遅れた。面目ない……」


ありがとうな、と頭を下げた。


ロイは嬉しくて顔をパッと赤くした。

レオンハルトはじっとロイの目を見つめる。

一呼吸置いて口を開いた。


「……なぁ、ロイ」

「はい」


「お前、俺を好きって言ったよな」

「はい」


「すまない。お前の気持ちに応えることはできない」

「……それは、ユリウス陛下ですか?」


レオンハルトは、ああ、そうだ、と即答した。

ロイの頬をつーっと涙が伝う。


「……本当にすまない」


レオンハルトはロイの濡れた頬を指で優しくぬぐった。

ロイはしばらくぼうっとしていたが、目を見開く。


「か、勘違いしないでください、レオン様。これは嬉し涙です!

レオン様はちゃんと断ってくれた。俺の想いに向き合ってくれたってことです。

それだけで十分です!」


そう言いながらも涙があふれ出ている。

レオンハルトは堪らずロイを引き寄せ、固く抱いた。


「……そうか、そうか……」

「ええ、そうですよ……」


ロイの顔はぐちゃぐちゃに崩れた。


二人はしばらくの間抱き合ったままだった。

ロイがふいに呟いた。


「レオン様、最後に思い出をください。キスを……」

「……いいだろう。ロイ。お前の気持ちに感謝する」


レオンハルトはロイを抱きかかえたまま口づけをした。


****


一方、宮廷の奥。

ディートハルトは報告を受けていた。


「暗殺は失敗しました」

「やはり……奴はただ者ではない。それに、従者も意外と腕が立つようだ」


ディートハルトの瞳が細まり、冷たい光を宿す。


「ならば次は――より大きな罠を仕掛けるまでだ……。ネズミを追い立て、罠に掛けよ!」

「はっ!」


黒装束の男たちが散開する。

静かに、決戦の幕が開こうとしていた。

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