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08-3 好きになってしまうじゃないか(3) 会場を揺るがす戦い

轟音と共に大剣が振り下ろされた。

将軍ガルドの一撃は、岩をも粉砕する剛剣。

その軌跡に巻き込まれれば、普通の戦士などひとたまりもない。


だが、レオンハルトは涼しい顔で片手を突き出した。

金属と金属が激しくぶつかり合う音――と思いきや、驚くべきことに、彼の手に握られたのはただの木剣だった。


「なっ……!」


観客が息を呑む。

ガルドの大剣は、木剣に受け止められたまま微動だにしない。

筋骨隆々の将軍の顔に、初めて驚愕の色が浮かんだ。


「ぐぬぬ……! 力では……負けておらんはず……!」

「いや、充分すげえよ」


レオンハルトは木剣を軽く押し返し、にやりと笑う。


「普通なら俺でも押し潰される一撃だ。ただ――力だけじゃ勝負は決まんねえ」


次の瞬間、彼の身体が霞のように動いた。

観客が目で追えぬ速度で、木剣がガルドの足元を払う。


「ぐあっ!」


巨体が派手に転倒し、土煙が上がった。

会場にどよめきが走る。


「……な、なんという……!」

「将軍様が倒されたぞ!」

「謎の戦士、まさか聖者様では……!?」


ざわめきはやがて大歓声へと変わっていった。

ガルドは大地に手をつき、しばらく沈黙した。

やがて、腹の底から響くような笑い声をあげる。


「はっはっは! 見事だ、聖者殿! いや、謎の戦士よ! これほど爽快に打ち倒されたのは初めてだ!」


彼は潔く敗北を認め、レオンハルトの手を高々と掲げた。

その瞬間、会場は割れんばかりの拍手に包まれた。


「優勝者――謎の戦士!」


司会の声が響き渡る。

ユリウスは観覧席からその光景を見つめていた。

胸の奥で様々な感情が渦巻く。


(あいつは……やっぱり特別だ)


誇らしさと安堵、そしてほんの少しの不安。

聖者という立場を超えて、彼は人々の心を掴んでしまう。

だから、万一、自分以外の誰かが彼を奪っていってしまったら。

そう考えると、胸がきゅっとしてしまう。


「ユリウス様」


隣でルカが小声で囁く。


「誇らしいですね、レオン様は」

「そ、そんなこと……」


慌てて否定しようとするが、顔は熱くなる一方だ。

ユリウスは視線を逸らし、群衆の歓声を聞きながら小さく呟いた。


「……レオン、ずっと私の側にいて……」


その言葉を、ルカだけが確かに聞き取っていた。


****


表彰の場。

布の頭巾を取ったレオンハルトが壇上に現れると、民衆から再び大歓声が巻き起こった。


「やっぱり聖者様だったか!」

「かっこいい!」

「ユリウス陛下に次ぐ国の誇りだ!」


人々の賛美の声を受けても、レオンハルトはどこか気恥ずかしそうに頭を掻いた。


「……ったく、余計な目立ち方しちまったな」


だがその横顔は、太陽の光を浴びて眩しいほどに輝いて見えた。

壇上から観覧席を見上げ、ユリウスと視線が交わる。


ユリウスは思わず立ち上がってしまった。

彼の心臓は早鐘のように鳴り響く。


(……おめでとう。レオン……)


ユリウスは、割れんばかりの観客の歓声の中、内なる胸のドキドキをいつになく心地よく感じていた。


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