表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/69

08-2 好きになってしまうじゃないか(2) 謎の戦士現る

朝の鐘が鳴り響くと同時に、王都は建国祭一色に染まった。

大通りには屋台が立ち並び、香ばしい串焼きや甘い蜜菓子の匂いが漂い、人々は色とりどりの衣をまとって踊り歌った。

太鼓の音、笛の音、笑い声が混ざり合い、街は熱気に包まれている。


だが、今年の建国祭は例年とは違った。

午前、祭りの幕開けに先立ち――ユリウスの「正式即位の儀」が盛大に執り行われたのだ。


王城前の大広場に集まった民衆は、視界の果てまで埋め尽くしていた。

高く掲げられた王笏が陽光を反射し、光の粒を散らす。

合図と共に無数の白鳩が一斉に放たれ、天空を舞った。

さらに、城の塔からは色鮮やかな花びらが降り注ぎ、まるで空そのものが祝福しているかのようだった。


「新しき王、ユリウス・アルビオン陛下に――万歳!」


群衆から歓声が沸き上がり、地鳴りのように大地を震わせる。

その光景を見たユリウスの胸は、緊張と誇らしさでいっぱいになった。


背後に控えるレオンハルトは、口元にわずかな笑みを浮かべていた。


「ほらな。堂々としてりゃいい」


その小さな囁きが、ユリウスの背を確かに支えていた。


そして――即位の儀を終えた王の初めての姿を、民たちは涙と歓声で迎えたのだった。


****


ユリウスは王城の特設バルコニーから、その熱狂の余韻を眺めていた。

視線の先では、民たちが思い思いに楽しみ、子どもたちが走り回っている。

彼の心にも、自然と笑みが浮かんだ。


「ユリウス様。お支度は整いました」


ルカが控えめに声をかける。


「本日午後には、武道大会のご観覧もございます」

「うむ……」


ユリウスは小さく頷きつつも、胸が高鳴るのを感じていた。

観覧席に座るだけなのに、なぜか落ち着かない。

原因は分かっている――レオンハルトの存在だ。


「……あいつ、どこで何をしてるんだろう」


思わず漏らした独り言に、ルカはくすりと笑った。


「聖者様なら、きっと殿下のすぐ近くに現れますよ」


****


一方その頃、レオンハルトは人混みの中にいた。

普段の白い聖衣を脱ぎ捨て、地味な布服と布の頭巾で変装し、まるで旅人のような姿で屋台をひやかしていた。


「おっ、これは旨そうだな。……一本くれ」

「はいよ! 聖者様に食べてもらえるなんて光栄だ!」


店主に気付かれてしまい、レオンハルトは苦笑した。


「しっかりバレてんじゃねえか……」


それでも子どもたちから手を振られると、頭を撫でてやり、笑みを返す。

聖者としての威厳など微塵もない。

だがその飾らない姿が、かえって人々の心を掴んでいた。


そんな彼の背後から、豪快な笑い声が響いた。


「はっはっは! やはり貴殿がレオンハルト殿か!」


振り返ると、そこには筋骨隆々の男が立っていた。

鮮やかな赤の軍服に身を包み、胸には数々の勲章。

彼の名は――ガルド・バルネス。

王国最強と謳われる武将であり、今回の武道大会を取り仕切る人物だった。


レオンハルトと会うのは、今回が初めて。


「……さて、自己紹介はこれぐらいでいいだろう……さぁ! 我は強者を求める男! 聖者殿、どうだ? 本日の武道大会、客人ではなく挑戦者として参加してみぬか?」

「……な、ずいぶん突然だな……それに、俺は殴るのは仕事の時だけだぞ」


レオンハルトが断ろうとするも、ガルドは意に介さず笑い飛ばした。


「遠慮することはない! 力こそが人を惹きつけ、国を守る! 民もまた、聖者殿の豪腕を見たいと願っておるはず!」


その豪快な気迫に、人だかりが生まれていく。

引くに引けない雰囲気。

レオンハルトは頭を掻きながら、ため息を吐いた。


「……ったく。お祭りだってのに、面倒ごとが寄ってくるな」


****


午後、王城前の広場に設けられた特設闘技場。

観覧席にはユリウスが座り、民衆で埋め尽くされた客席から大歓声が上がっていた。


「次なる挑戦者――正体不明の謎の戦士!」


司会の声と共に現れたのは、布の頭巾で顔を隠したレオンハルトだった。

その姿にユリウスは目を見開く。


「な、なにをしてるんだアイツ……!」


ルカが苦笑しつつ小声で呟いた。


「どうやら、将軍ガルド様の挑発に乗ったようですね」

「本当に余計なことを……!」


ユリウスは思わず身を乗り出す。

だが胸の奥では、抑えきれぬ期待が膨らんでいた。


観客の声援の中、ガルドが大剣を担ぎ、闘技場に立つ。

その筋肉は鎧すら弾き飛ばしそうで、観客の熱気は最高潮に達していた。


「さあ! 聖者殿――いや、謎の戦士よ! 我が剛剣受け止められるか試されよ!」


レオンハルトは布頭巾の奥でにやりと笑った。


「……わざと負けてやろうと思ったけどな。あんたの気迫を見たら……少し本気を出す気になったぜ」


闘技場に緊張が走る。

次の瞬間、観客が一斉に立ち上がった――!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ