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07-1 お前のおかげだよ(1) 王座に立つ者

王都の中央広場は、人で埋め尽くされていた。

かつて祭りや即位式に使われた荘厳な石造りの壇上は、今日は裁きの場として設えられている。


壇上の玉座に座るのは、若き王子ユリウス。

彼の横には、宰相代理のルカと、数名の重臣が並ぶ。

背後には堂々と立つ聖者レオンハルトの姿。


広場を囲む民衆は息を呑み、壇上に引き立てられる囚人を凝視していた。

かつて王の弟として栄華を誇ったエドマンドが、鎖に繋がれ、みすぼらしい姿で現れたのだ。


「……あれが……」

「ユリウス殿下を陥れようとした逆賊か」

「天罰を!」


群衆のざわめきが高まる。

ユリウスの胸は緊張で締めつけられた。

視線を感じる。数百、数千の目が、自分一人に注がれている。


(私が……裁かなければならないんだ)


父の死、叔父の陰謀、そして今日という日。

すべての重みが、今ユリウスの肩に圧し掛かっている。


やがて、宰相代理が朗々と罪状を読み上げた。


「エドマンド殿下――あなたは、王の座を簒奪せんとし、無実の者を陥れ、王子ユリウス殿下の命をも狙った。その罪、数え切れず。王国を揺るがす大逆不忠、断じて許されぬ行為である!」


声が響き渡るたび、民衆が「そうだ!」「罰を!」と叫ぶ。

ユリウスは玉座の肘掛けを強く握りしめた。


そんな中、エドマンドが顔を上げ、哄笑を響かせた。


「罰だと? 戯言を! この私こそが真の王にふさわしい! 若造の小僧に何ができる! 貴様らは神の裁きを恐れぬのか!」


鋭い声に、群衆がざわつく。

ユリウスは喉を震わせ、声を発した。


「叔父上……あなたの罪は、あまりにも重い。王家の血を汚し、民を混乱に陥れた」


言葉を吐くほど、胸が痛んだ。

だが退けない。

王として、ここで立たねばならない。


「私は……亡き王の代理として、あなたに裁きを下します」


宣言と同時に、民衆から大きなどよめきが起こる。

だが、その瞬間、ユリウスの心は揺らいでいた。


(本当に……私がこれを言っていいのか?)

(すべてレオンハルトが暴き、ロイやルカが支えてくれた。私はただ玉座に座っていただけじゃないか……)


迷いが声を曇らせる。

その弱さを見透かすように、エドマンドは嗤った。


「ほら見ろ! 小僧は震えている! 王位を継ぐ器ではない! ユリウス如きに裁きなど下せはせぬ!」


広場に動揺が走る。

ユリウスの手は冷たくなり、呼吸が浅くなる。


その時――背後から、低く力強い声が落ちた。


「ユリウス」


振り返らずとも分かる。

レオンハルトだ。


「お前は今、王としてそこに座っている。その事実だけで十分だ」


短い言葉。

だが不思議と胸に響いた。

大きな背中が、沈みかけた心を支えてくれる。


ユリウスは深く息を吸い、震えを抑えた。

もう一度、エドマンドを見据える。


「叔父上。私は弱い。だが、弱さを認め、それでも立ち上がることが王の責務だ。私は逃げない。あなたの罪を、王として裁く!」


声が広場に響き渡った。

民衆が一斉に沸き立ち、「ユリウス殿下万歳!」の声が上がる。


しかし、エドマンドはなおも不気味に笑みを浮かべていた。


「ほう……ならば見せてやろう。神の裁きをな……!」


彼の口から怪しげな呪文が紡がれ、壇上に黒い瘴気が広がり始める。

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