06-3 お前の側にいたい(3) 鉄を裂く一撃
地下牢は冷たい石の壁に囲まれ、湿った空気が漂っていた。
ロイは両手を鎖で繋がれ、鉄格子の中に放り込まれている。
足音もない静寂が、余計に孤独を突きつけてくる。
(……殿下……どうか、ご無事で……)
まぶたを閉じ、心の中で必死に祈る。
だが、鉄扉の外から聞こえてきたのは祈りを嘲笑うような声だった。
「まったく……忠犬が吠えても、所詮は犬だ」
現れたのはエドマンドだ。
豪奢なマントを翻し、牢の前で立ち止まると、口元を歪めて笑った。
「ユリウスを王位に就けさせはせん。司法の場でも、私が用意した証人があやつを貶める。お前のような小僧がいくら足掻いても、流れは変わらんのだ」
ロイは鎖を握り締めた。
「殿下は……殿下は、必ず……!」
「必ず何だ? この牢の中から救い出してくれるとでも?」
エドマンドが冷笑を浮かべた瞬間――轟音が響き渡った。
――ドンッ!
地下牢全体が揺れる。
壁の石が砕け、砂埃が舞い上がった。
「な、何事だ!?」
兵士たちが慌てて剣を構える。
次の瞬間、分厚い石の壁が粉々に吹き飛び、巨大な人影が現れた。
「探したぜ、ロイ」
土煙の中から現れたのは、レオンハルトだった。
鎧もなく、ただ上着を肩に羽織っただけの姿。だが、その背中には圧倒的な迫力があった。
「レ、レオン様……!」
ロイの瞳が驚きと安堵に揺れる。
「お前ら……俺の部下を牢に閉じ込めるとは、いい度胸だな」
レオンハルトは拳を鳴らしながら一歩前へ進み出た。
それだけで、数人の兵士が恐怖で後ずさる。
「と、止まれ! こやつは反逆者だ、捕らえよ!」
エドマンドが怒鳴る。
しかし兵士たちが動き出すより早く、レオンハルトの拳が振るわれた。
一撃。
石壁をも砕く力が兵士の盾を粉々にし、衝撃波が走る。
数人の兵が一斉に吹き飛び、呻き声を上げて床に転がった。
「な、なんだこの怪物は……!」
「ひ、人の力じゃない……!」
残った兵も恐怖で腰を抜かし、剣を取り落とす。
レオンハルトは振り返り、鉄格子を掴んだ。
ゴゴゴ……と鈍い音を響かせながら、片手で引きちぎる。
鉄の棒はまるで粘土のように曲がり、あっという間に入口が開いた。
「立てるか?」
「……はい!」
ロイは縛られたまま頷き、必死に立ち上がった。
レオンハルトは軽く拳を握り、鎖を一撃で砕く。
鉄が粉々に散り、ロイの手首が自由になった。
「申し訳ありません……レオン様にまで迷惑を……」
「迷惑? 馬鹿言え。部下を助けに来るのは当然だろ」
「は、はい!」
レオンハルトの言葉は、ロイの胸を熱くする。
「ば、馬鹿な……! 兵を呼べ、兵を!」
エドマンドは後ずさりながら叫ぶ。
だがレオンハルトは一歩も引かず、鋭い眼光を向けた。
「お前の悪事はすでに露見してる。ロイが集めた証拠も、俺が暴いた牢の中身もな」
「な、に……!」
「司法の場で真実が晒されるのは時間の問題だ。……潔く観念しろ」
「ふざけるな! 私が、王の弟であるこの私が、裁かれるものか!」
エドマンドは剣を抜き、無謀にも斬りかかる。
だがレオンハルトは涼しい顔でその刃を受け止めた。
素手で。
――ガキィンッ!
火花が散る。
そして次の瞬間、レオンハルトは拳を振り下ろした。
剣は根元からへし折れ、エドマンドは床に叩き伏せられた。
「ぐはっ……!」
エドマンドの身体が転がり、呻き声を上げる。
「これで終わりだ、エドマンド」
レオンハルトの声は冷たく、揺るぎなかった。
兵士たちは完全に戦意を失い、誰一人として逆らおうとしなかった。