05-5 こんなにも好き、なのか?(5) 恋に揺れる星夜
王城の中庭。
夜風が木々を揺らし、星々が静かに瞬いていた。
戦いから戻ったレオンハルトは、まだ鎧の埃を落とし切らぬまま、噴水の縁に腰掛けていた。
そこへユリウスが早足で駆け寄ってくる。
「お前っ! け、怪我はないんだろうな……!」
思わず声を荒げる。
安堵と怒りが入り混じり、感情を抑えきれなかった。
レオンハルトは苦笑し、肩をすくめる。
「ありがとう、心配してくれて」
「っ、ち、違う! 心配なんて……してない!」
「じゃあ、なんでそんなにホッとした顔をしているんだ?」
「そ、それは……!」
言葉が出ない。
胸の奥で、熱い何かがぐるぐると渦巻いている。
その正体を口にすれば、もう二度と後戻りできない気がした。
そんなユリウスを見つめながら、レオンハルトは低く囁いた。
「……お前の声があったから、飛び込めたんだ」
星明かりの下で、真剣な眼差しがこちらを射抜く。
ユリウスの心臓は一瞬止まったように感じ、次の瞬間には破裂しそうなほどに高鳴っていた。
「な、なにを……勝手なことを……!」
否定の言葉しか出せない。
けれど本当は、嬉しくて仕方がなかった。
その時――軽い足音が響いた。
「……やっぱり、ここにいらっしゃいましたか」
声の主はロイだった。
彼は二人に近づき頭を下げた。
レオンハルトは、ロイに視線を投げかける。
「どうした、ロイ。何か用か?」
「はっ」
ロイはユリウスに視線を移し、唇の端を上げた。
「ユリウス殿下」
「……な、なんだ」
「突然ではございますが、私ロイは、レオン様に恋していることをお伝えさせていただきます」
夜風が凍りついたように感じた。
ユリウスの顔は一瞬で真っ青になり、言葉を失う。
「正直な気持ちを伝えさせていただきました。おそらく殿下もレオン様のことを……」
「なっ……お、お前、何を言って……!」
ユリウスは、慌ててロイの口を封じた。
レオンハルトは、困ったように頭をかき、ロイをにらみつける。
「……ロイ、言っただろ……ユリウスを困らせるな」
「はっ、申し訳ありません!」
まったく悪びれる様子のないロイ。
レオンハルトは、ったく、と頭を掻き、ロイが走り去っていく背中を見送った。
一方、ユリウスは、胸の奥で暴れる鼓動を抑えられなかった。
それは、レオンハルトを誰にも渡したくない、という独占欲。
(私は……レオンハルトのことを……こんなにも好き、なのか?)
認めたくない。
けれど、もう否定できないところまで来ている。
噴水の水音だけが響く夜。
ユリウスは視線を逸らし、揺れる想いを必死に隠そうとした。