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05-1 こんなにも好き、なのか?(1) 暴走する魔法

王城の朝は、いつもは清らかな鐘の音と共に始まる。

だがその日は違った。窓の外に広がる青空が、じわじわと紫色に染まり、空気そのものがひび割れるような不穏な音を響かせていた。


「……何だ、この空は」


ユリウスは窓辺に立ち、思わず息を呑んだ。

目に映る景色は、まるで空間そのものが裂けていくようだった。

鳥たちは飛び立つこともできず、宙で揺らぎ、音もなく墜ちていく。


「禁忌魔法の暴走……だな」


背後から低い声が響いた。

振り返れば、レオンハルトが立っていた。

髪を揺らし、窓の外を見据えるその姿は、どんな災厄よりも堂々としていて、心を奪うほどに頼もしい。


「なっ……なんでそんなに落ち着いていられるんだ! あれは……この国を丸ごと飲み込むかもしれないんだぞ!」

「俺が落ち着いてなきゃ、お前まで怯えるだろ」


何でもないように言い、レオンハルトは肩を竦める。

ユリウスは胸を突かれたように黙り込む。

確かに――彼が動揺しないから、自分もまだ平静でいられる。


「……全く、そういうところがレオンらしい」


穏やかな声が横から加わった。

現れたのは副官ロイだった。

凛とした顔立ちと気品ある佇まいを持つ。


「殿下。ご安心ください。レオン様がいる限り、どのような災厄も必ず収まります」

「ロイ……」


ユリウスは、彼の自信に満ちた瞳を見つめながらも、胸のざわめきを抑えきれなかった。


その時、扉が激しく叩かれた。


「失礼いたします!」


飛び込んできたのは、側近ルカだった。

息を荒げ、膝をついて報告する。


「王子、聖者様。城下の外縁にて、禁忌魔法が暴走しております。魔力の渦が広がり、空間が不安定に……。すでに周辺の村々に被害が出ております!」

「……やはり」


ユリウスの顔が青ざめる。

だがレオンハルトは一歩前に進み、きっぱりと告げた。


「すぐに現地へ向かう」

「ま、待て! まだ状況も――」


「状況なんて、現地で見ればいい」


いつも強引で、けれどその強引さが不思議と頼もしい。

ユリウスは唇を噛み、迷いながらも言葉を吐き出した。


「……なら、必ず戻ってこい。無茶をして傷ついたら……許さないからな」


その声は震えていた。

言いながら、自分でも驚くほどに必死だった。


レオンハルトは、ふっと微笑む。

ユリウスは、はっとして大袈裟に手をばたつかせた。


「ち、違うぞ! 別のお前を心配してるわけじゃ……これは国の王子として当然の……!」

「はいはい。……子猫ちゃん」


「かっ……!! お前ってやつは……!」


顔が熱を帯び、怒鳴るユリウス。

だがレオンハルトはその反応すら楽しむように、ゆっくりとユリウスの頭に手を置いた。


「大丈夫だ。お前がここで祈ってくれれば、それで十分強くなれる」

「なっ……」


心臓が、破裂しそうに跳ねる。

こんな状況だというのに、彼の言葉一つで胸がいっぱいになる自分が悔しかった。


ルカがそっと口を開いた。


「……ユリウス様。ご安心ください。必ずや聖者様は戻られます」

「ルカ……」


「私は聖者様と共に向かいます。どうか、ここでお待ちを」


ユリウスはぎゅっと拳を握りしめた。

本当は一緒に行きたい。だが、王子という立場がそれを許さない。


「……必ずだぞ」


レオンハルトは、軽く挨拶を返し、踵を返す。

背中に視線を奪われながら、ユリウスは心の中で繰り返した。


(戻ってこい……必ず……!)


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