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04-5 好きになったかも(5) 恋の予感

夜。王城の回廊に、静かな灯火が揺れていた。

ユリウスは長い廊下を歩きながら、胸の鼓動を抑えきれずにいた。


(……会わねば。あいつに。……何を言えばいいか、まだ決まっていないけれど)


あの時の光景が、瞼の裏から消えない。

群衆を前に、堂々と立ち、拳ひとつで事態を収めた男。

それは聖者であり、同時に王者の影を背負う存在だった。


ユリウスがふと目の前を見ると、角の先でレオンハルトの部屋の扉が開くのが見えた。

そこから姿を現したのは、ロイだった。


「それでは失礼します、レオン様」

「ああ、ゆっくり休め、ロイ」


穏やかな声で返され、ロイは一礼し、足音も軽やかに去っていく。


(……なぜ、こんなに心が乱れる……?)


ロイの忠誠と親密さ。

それが自分の知らぬところで育まれているように感じ、胸がざわつく。


やがてロイの姿が見えなくなると、ユリウスは深呼吸し、意を決して扉を開いた。


「……戻ったのか」


低く響く声が出迎える。

レオンハルトは椅子に腰掛け、長い脚を組み、こちらを見やって微笑んでいた。


「お前……無茶をしすぎだ」


気づけば、口から飛び出したのはいつもと同じ責める言葉。

しかしレオンハルトはおかしそうに目を細める。


「ち、違う! ただ……お前が無茶をしすぎると、余計話がこじれて取り返しのつかないことが……」


顔が熱を帯び、ユリウスは慌てて視線を逸らした。


「……助かった……ありがとう、レオン」


やっと押し出す事が出来た言葉。

そんな彼を眺めながら、レオンハルトは椅子から立ち上がり、歩み寄る。

すぐそばまで来ると、長身の影が覆いかぶさるように落ちてきた。


「礼にはおよばねぇよ。……俺がお前の国を守る。言ったろ?」


静かに告げられた言葉が胸の奥に響く。


(……この人は……どうしてこんなに迷いなく言えるんだ……私なんかそんな覚悟も実力もないというのに……!?)


ユリウスは、はっとした。

レオンハルトの綺麗な瞳が、だから俺を頼っていいんだぞ、と言っているように思えたのだ。


(……そうか、私にそれがない事を知っているんだ。だからこそ、私の代わりに国を守ると言ってくれて……)


ユリウスは、嬉しくて目頭が熱くなった。

それと同時に、レオンハルトの優しさが胸いっぱいに広がる。


(……私は、何て不毛なことを考えていたのだろう。この人と比べるなんて。私がこの人に敵うわけない。でも、これから、この人の側で学んでいけばいいんだ)


そう考えると、すっと気持ちが楽になった。

レオンハルトが、いじわるそうな顔で言った。


「どうした? 黙りこくって……そんなに俺の顔が好きなのか?」

「ち、違う!!」


ユリウスは、火照った顔を隠そうと背中を向けた。


(……本当に、この人は……私の心を見透かして踏み込んでくる……で、でも……それを何より心地よく嬉しいと思ってしまう自分がいる)


レオンハルトの事で頭がいっぱいになっている自分。

それを、ユリウスは誤魔化そうとした。

それで、ふと頭の端っこに引っかかていたことを口にした。


「な、なぁ……お、お前の副官、ロイの事……お前はどう思っているんだ?」


ユリウスは、言ってしまってから、はっとした。


(……し、しまった。なぜ、私はこんなことを口走って……これでは、私がレオンハルトの事を気に入っているようではないか)


動揺するユリウス。


「……ロイに嫉妬してるのか?」


図星を付かれ、ユリウスは跳ねるように振り返った。


「そ、そんなわけがあるか!」

「そうか? 顔が真っ赤だが」


「ち、違う! これは……その……」


しどろもどろになりながら、ユリウスは俯く。

胸の奥では、自分でも制御できない感情が渦巻いていた。


(……私は……彼を……本当に好きになってしまうかもしれない……)


初めて認めかけたその予感に、心臓が早鐘を打つ。

彼の存在は、もはや単なる守護者ではない。

自分の心を揺さぶる、抗えぬ力を持った人間だ。


ユリウスは小さく息を吐き、必死に取り繕うように言った。


「……とにかく! あまり無茶はするな。それだけだ」

「はいはい。……ぷっ、照れた顔も可愛いな」


「……!!」


その夜、ユリウスは眠れぬまま枕を抱きしめ、なぜか喜びで熱くなった己の体を持て余した。

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