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04-3 好きになったかも(3) 恐怖ではない支配

カリストの声は確かに届いていた。

だが届いたのは、群衆のほんの一部にすぎない。

怒りに燃える者たちは耳を貸さず、叫びを繰り返す。


「言葉なんかで腹は膨れねえ!」

「今こそ城を落とせ!」


広場は完全に沸騰しつつあった。

その中心で、カリストは必死に手を伸ばす。


「待ってくれ! 武力で争えば……!」


だが次の瞬間、群衆の一人がカリストに掴みかかった。


「うるせえ! お前も王族の犬だろ!」

「くっ……!」


ユリウスは、バランスを失い倒れかけた。

だが、その瞬間。


「……そこまでだ」


低く響く声。

広場全体の空気が一変する。


レオンハルトが一歩、前に出た。

その巨躯から溢れ出す圧力に、群衆は息を呑む。


「俺は聖者レオンハルトだ。お前らが不満を抱くのは勝手だ。だが――」


レオンハルトが拳を振り下ろした瞬間。

轟音が広場を揺るがし、石畳が粉砕される。


群衆が息を呑む中、ロイはその姿を見つめ、胸が熱くなるのを抑えられなかった。


(……これだ。誰もが従う、圧倒的な力。……やはり、レオン様こそ……)


頬に朱を宿しながらも、騎士としての顔を崩さぬよう、必死に表情を整えた。


「これ以上、剣を振るうつもりなら……この拳で止める」


雷鳴のような声が響き渡る。

誰もが震え、武器を握る手を強張らせる。

その視線に、レオンハルトは鋭い光を宿し、堂々と歩を進めた。


「民を守るのも、国を守るのも、俺の役目だ。だが王子を脅かすなら一切の容赦はしねぇ」


その名を出した瞬間、ユリウスの胸が大きく跳ねた。

民衆は互いに顔を見合わせ、次第に武器を落とし始める。


「な……なんて力だ……」

「これが、聖者……」


「逆らえば、一瞬で……」


恐怖だけではない。

彼の背に立つ姿には、圧倒的な信頼と畏敬を呼び起こすものがあった。


やがて広場は静まり、残ったのは重苦しい沈黙だけ。

レオンハルトは拳を下ろし、群衆を見渡した。


「……いいか。怒りをぶつける相手は王族じゃねぇ。民を苦しめる腐った貴族共だ。奴らは私腹を肥やすため税を上げまくってると聞く。許せねぇよな?……俺が必ず引きずり出す。だから今は、剣を置け」


その言葉に、民の瞳に迷いが宿る。

そして、一人、また一人と武器を捨てていった。


やがて群衆全体が膝を折り、地面に額を擦り付ける。


「聖者様……!」

「どうか我らを導いてください……!」


広場は、一瞬で服従の場へと変わった。

その光景を見つめ、ユリウスは息を呑む。


――これが、王をも凌ぐ威光。


自分が目指していた「言葉の力」よりも、ずっと強く、民を従わせる力。


(まるで……彼こそが王のようだ……)


胸がざわめく。

羨望か、嫉妬か。

それとも、ただの動揺か。


ユリウスは答えを見出せぬまま、レオンハルトの背中を見つめ続けていた。

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