04-2 好きになったかも(2) 広場の騒乱
城下の広場は、熱気と怒号に包まれていた。
石畳の上には民衆が溢れ、手には棒や鍬、旗を握りしめている。
誰もが顔を紅潮させ、王族や貴族への不満を叫び上げていた。
「税を下げろ! 権力を独占するな!」
「王族なんて信用できるか!」
騒乱はもはや一触即発。
そんな中、広場の中央に立つ一人の男が声を張り上げていた。
「落ち着け、皆の衆!」
透き通るような声と、整った容姿。
長い金髪を束ね、白い外套を羽織ったその青年こそ、説得の才を誇る弁論家、カリストだった。
彼は民衆に向け、両手を広げる。
「怒りはわかる! だが武力を振るえば、同じ民が傷つくのだ! 王子も聖者も、決してお前たちを見捨てはしない! どうか、冷静になってくれ!」
響き渡る声に、一瞬、人々はざわめきを止めた。
だが次の瞬間、別の怒号が湧き上がる。
「口先だけだ!」
「どの王族も同じことを言った!」
「今さら信じられるか!」
石が投げられる。
カリストは身をかわし、それでも必死に声を張り上げ続けた。
「私は信じる! 聖者は必ず民のために立ち上がる! だから、ここで武器を捨ててくれ!」
その必死さに、多くの人々が動揺する。
が、怒号は収まらない。
「聖者なんて信用できるか!」
「王族と同類だ!」
その中で、ロイが一歩進み出て低く叫んだ。
「黙れ! レオン様は他の者とは違う! 己の力を、常に人のために振るう御方だ!」
その鋭い声に、一瞬だけ静寂に包まれる。
けれど群衆の熱は、簡単には収まらない。
「聖者の身内の言葉など信用できるか!」
石が飛ぶ。
ロイは剣で弾きながら、なおも叫ぶ。
「我らは必ず、民を見捨てぬ!」
その横でカリストが必死に説得を重ねる。
ユリウスはその光景に胸を締め付けられながら、ただ見守るしかなかった。
その時。
「よう、盛り上がってるな」
豪快な声が割り込んだ。
群衆の視線が一斉に向く。
広場に歩み出たのはレオンハルトだった。
その隣には、フードを目深にかぶったユリウスと、警戒心を隠さないルカの姿。
カリストは安堵の表情を浮かべ、レオンハルトに駆け寄った。
「聖者殿! どうか、この混乱を――」
「よぉ、カリスト。……ずいぶん頑張ってるみたいだな」
にやりと笑うレオンハルトに、カリストは真剣な表情で頷く。
「私は、言葉で民を導きたいのです。武力に頼らず、心を一つにしたい」
「……なるほどな」
レオンハルトは民衆を見渡す。
そこにあるのは不安と怒り、そして迷い。
カリストは再び民衆に向き直り、声を張り上げた。
「聖者がここにいる! 彼は我らを見捨てない! どうか耳を傾けてほしい!」
一部の民は戸惑い、武器を下ろしかけた。
だが――その隙を突くように、群衆の奥から声が響く。
「聖者? どうせ力で押さえつけるだけだ!」
「俺たちの苦しみを知らぬくせに!」
再び怒号が巻き起こり、石や瓦礫が飛ぶ。
カリストは身を挺してそれを避けるが、腕にかすり傷を負った。
「ぐっ……!」
「カリスト!」
ユリウスが思わず声をあげる。
だがカリストは必死に立ち上がり、笑みを浮かべた。
「私は……まだ諦めません! 民は必ずわかってくれる!」
その健気な姿に、ユリウスの胸は痛んだ。
けれど同時に、焦りが募る。
このままでは、カリストの想いも、民の叫びも、どちらも血に染まってしまう。
そしてレオンハルトは――ただ静かに状況を見つめていた。
拳を握り、何かを決意するように。




