03-2 好きだなんて嘘だ(2) 和平の夢、破られて
転移魔法によって出現したシュタイン国軍は、都市の外縁を瞬く間に制圧していた。
異国の兵士たちが鋼鉄の甲冑を鳴らし、整然と隊列を組む。
その規律正しさは、むしろ不気味さすら漂わせていた。
煙の上がる街道に、レオンハルトと数名の兵が駆けつける。
その先頭には、一人の青年が立っていた。
「あなたが……聖者殿ですか?」
青い外套を纏った青年が振り返る。
整った顔立ちに眼鏡をかけ、優雅な仕草。
歳の頃は20過ぎといったところ。
その立ち姿には騎士らしい気品と自信が漂っていた。
「私はロイ。王国騎士団の末席に連なる身ですが、今回、シュタイン王国との交渉役を任されました」
「交渉だと?」
レオンハルトが眉をひそめる。
「はい。シュタイン国は強大ですが、無意味な戦を望んではいないはずです。ここで私が説得すれば、きっと撤退に応じるでしょう」
レオンハルトは肩をすくめる。
「……まぁ、やってみろよ。ただし、命の保証はできねぇぞ」
ロイは頷き、敵軍の前へと進み出る。
両軍の視線が一斉に彼に注がれる。
「シュタイン王国の諸君! この国に転移してきたのは誤解だろう!」
朗々と響く声。
「我らは和平を望む! 剣を収め、対話の席につこうではないか!」
一瞬、静寂が広がる。
だが次の瞬間、敵兵の将校が冷笑を浮かべた。
「対話……? 我らが陛下の命に従い進軍していると知りながら?」
「しかし――」
「問答無用だ」
将校が剣を振り下ろす。
同時に、兵士たちが一斉に矢を番えた。
「――撃て」
空が黒く染まるほどの矢が放たれる。
ロイの顔から血の気が引いた。
「なっ……! 話せば分かるはずでは――!」
その瞬間、レオンハルトが飛び込む。
彼は腕を振り回し、迫りくる矢を次々と叩き落とした。
地に突き刺さる矢の音が雨のように響く。
「ロイ! 交渉ごっこは終わりだ!」
「し、しかし……!」
「現実を見ろ! 奴らは初めから攻める気だ!」
帝国兵たちが魔法陣を展開し、さらなる転移を呼び込もうとする。
地面に輝く紋様が広がり、空気が震えた。
ロイは呆然と立ち尽くす。
(どうして……! 私の言葉が届かないなんて……!)
その横で、レオンハルトは拳を握りしめる。
瞳には揺るぎない闘志が宿っていた。
「――なら、俺が止めるしかねぇな」