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最恐護衛  作者: 桃田凜
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08.道がないなら飛べばいい

体感15分。

それくらい早く感じるほど、ろくに寝ていない気がした。


起きたのは、窓から差し込む日差しでも、いつもと違うベッドだからでも、蓮に抱きしめられているからでもなく。


遠くで車のエンジン音が聞こえてきたからだった。


「……んー、うるさ……」


ぼんやりと目を覚まし、毛布をはいでまた眠りに落ちようとした瞬間、ふと小窓の向こうに人影がよぎる。


「……え、なに?」


眠気が一気に吹き飛ぶ。


息を殺して小窓の奥を覗き込むと、数人の影が静かに建物のまわりを歩き回っている。

しかも一人や二人じゃない。囲まれてる。


「蓮!白夜!起きて!」


焦りで声が上ずる。


『……なんだよ、急に』


【…まだ朝じゃないでしょ、?】


寝ぼけた声で身を起こした2人に、必死な声で伝える。


「囲まれてるの!……っ外、!誰かいるの!」


その一言で、2人の表情が一瞬で変わった。


『……最悪だな』


蓮が窓から外を確認する。


【あちゃー。ここ、ばれてたんだ】


額に手を当て、白夜が渋い顔をする。


でも、一瞬で状況を把握したのか、【こっちの出入り口、たぶんもう見張られてる。開けた瞬間、やられる】と、冷静な声で呟いた。


その言葉を聞いて、蓮が部屋の中の小さな鉄格子窓に手をかける。

そして、『ここしかねぇな』と口元に弧を描いて思い切り蹴り飛ばす。


「うわ、すご……」


感心してる場合じゃないけど、あまりにも脳筋すぎて。反射的に出た言葉だった。


呆気に取られているわたしを放って、蓮が『先に行ってください』と、白夜の背中を押す。


「いやここ二階だよ……って、ちょっと!?!?」


わたしの心配より早く、白夜が無言で飛び降りる。


……まじ?


『次、お前行け』


蓮に腰を掴まれ、強引に持ち上げられる。


「まってまってまって!死ぬって!」


そんな余裕なんてないだろうけど、ほんとに!!!わたし、足腰弱いって!!


悲鳴を上げる間もなく、わたしは突き落とされる。

目を閉じ、覚悟を決めた瞬間…受け止めたのは、がっしりとした腕。


筋肉と骨の感触。白夜だった。


……あ、そっか。だから先に降りたのか。


落ちた衝撃より、無傷な白夜の笑顔のほうが衝撃だった。


蓮もすぐに後を追って降りてきて、3人揃うと音もなく動く黒い影が建物の奥から現れた。


もう完全に包囲されている。


「ねえ……どうしよう……」


囲まれて、逃げ道はない。


それでも2人は、まるでゲームでもしてるみたいに笑った。


『どうしようもなにも、ひとつしかねえだろ』


【だね。……お嬢、見て。あそこ、誰もいない。あれ、もう“あっち行け”って言ってるようなもんじゃない?】


2人が見ていたのは、海。ただの、海。


いやいや、海に逃げる奴がどこにいんの。

ていうかわたし、泳げないっつーの。


「……でも、死ぬよりまし?」


そう思って踏み出そうとした瞬間、蓮が私を抱き上げて走り出す。


「わっ、!っ、え!?...っ蓮!?」


そしてそのまま海へと迷わず飛び込む。


一瞬の出来事。


冷たさが全身を支配する。

何が起きたのか理解する前に、呼吸もできずに水の中へ沈められる。


酸素を吸っては沈み、また浮かんで、また沈む。

必死で2人の手に引かれて泳ぎ続けて。

やがて倉庫から離れた場所に止めてあった漁船にたどり着いた。


びしょ濡れの服を脱いで水を絞る2人の姿に、目を逸らして船内の隅へ移動する。


「死ぬかと思った……」


熱いと冷たい、極端な温度を一気に味わったのは初めてだった。


わたしも服を絞り、重たくなった水分を落としていく。


水をいっぱい含んだ靴は重くて、邪魔で。

足手纏いになるかな、と思って裸足になって漁船に立つ。


すると、その瞬間、足の裏に鋭い痛みが走った。


「痛っ、」


足元を見ると、壊れた器具の破片があちこちに散らばっていた。

不用意に動いたせいで、それを踏んでしまったらしい。


周りを確認しないで感情のままに動いてしまったことを後悔すると同時に反省する。


幸い、白夜と蓮はわたしが怪我をしたことに気が付いていない様子だった。

これ以上重荷になるわけにはいかないし、心配かけたくない。それに、たいした怪我じゃない。


何もなかったふりをして、靴下を履き、靴を履く。

そして、いつもの顔で2人の元へ戻っていった。


この行動が後に酷く後悔することになるとは知らずに。

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