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最恐護衛  作者: 桃田凜
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04.食の好みは気が合う証拠?

あれから三ヶ月も経てば、蓮の送迎にもさすがに慣れてくる。


授業が終わってカバンを手に校門を出ると、いつもの黒塗りの車がすぐ目に入った。

運転席には、見るからに近寄りがたいオーラをまとった男――蓮。


最初こそ、校内では「ヤバそうな人がいる」とか「でもかっこいい」とか噂になっていたけど、今ではすっかり落ち着いた。

もはや“あの車とあの人”がそこにいるのは、当たり前の風景だ。


わたしは歩み寄り、後部座席のドアを開ける。

シートベルトをカチリと締めたのと同時に、車が静かに走り出した。


車内では、わたしが選んだプレイリストが流れている。

お気に入りの曲が耳をくすぐるけど、お腹のほうはごまかせない。


「……ねえ、どっか寄ってかない? パンケーキとかさ」


なるべく軽い調子で言ったつもりだけど、内心ではお腹の虫が今にも鳴きそうだった。


『……昼飯食っただろ』


いつもの無愛想でそっけない声が返ってくる。ほんとに可愛くない。


「食べてない。食べれなかったの!」


『……なんで食ってねえの』


「……だって」


さっきまでの軽口が、ふいに出なくなって。

言葉に詰まったわたしを、蓮がバックミラー越しにちらりと見た。目が合った瞬間、ちょっとだけ眉をひそめられる。


『……食い意地張ってるお前が食い損ねるとか、なんかあったんだろ。話せよ』


ちょっとだけ、声が優しくなった気がした。


「……今日、グループワークだったの。発表が午後にあって……でも、わたしがいると空気悪くなっちゃうから。勝手に“全部やるよ”って言っちゃって……」


『……は?』


「みんなに迷惑かけたくなくて頑張ったんだけど、お昼食べる時間なくなっちゃって……それだけ」


だんだん声がしぼんでいく。

そのタイミングで、蓮が小さく息を吐いたのが聞こえた。


そして、無言のままハンドルを切る。


……ただ、屋敷とは違う方向に。


「え、家、こっちじゃないよ?」


『腹減ってんだろ』


「え、いいの?」


『うるせぇ。文句言うなら帰るぞ』


ツンとした言い方に思わず「だめ!行く!」と身を乗り出す。


そういえば、この三ヶ月で知ったことがある。


蓮は、意外と押しに弱い。


最初は嫌がっていても、なんだかんだでいつもお願いを聞いてくれる。


そのことに気づいてから、ちょっとだけわたしの毎日は楽になった。




.

.

.




車が止められたのは、学校から十五分ほど走ったところにある湖のすぐそばのカフェだった。


木々に囲まれた静かな場所にぽつんと建つそのお店は、外観からしてもう“おしゃれ”の一言に尽きる。


入り口には、手書き風のかわいい文字と一緒に美味しそうなパンケーキの写真が飾られていて、わたしの好みをこれでもかってくらい突いてくる。


「蓮、こんなおしゃれなお店知ってたの……?やば!」


思わず感激して声を上げる。けど、隣の男はぶっきらぼうに言い放った。


『お前がうるせーから、静かなとこ選んだだけ』


「うわ、なにそれ。なんかムカつくんだけど」


『感謝しろよ』


「してるけど!素直に褒めようとしたのに、台無し!」


……ほんっと、こういうところ!


でも、悔しいことに、蓮の選ぶ店っていつもこうだ。

雰囲気もいいし、落ち着いてて、しかもちゃんと美味しい。


この三ヶ月で何度か外に出かけたけど、ほんと外れがない。

見た目はガラ悪いくせに、なにその意外な女子力。ちょっと拍手送りたいくらいだよ。


店内に入って、それぞれパンケーキを選ぶ。

わたしはいちご。蓮はりんご。お互い即決だった。


蓮とは食の好みが合うみたいで、いつもお互いのを半分こしている。

私がいつも迷う方を蓮が選んでくれるから、実質、わたしは好きなものを両方食べられてるってわけで。


こういうのがたぶん、なんだかんだで、ふたりで出かけられる理由なんだと思う。


「おいしすぎる。感動」


一口食べて、思わず笑顔になる。

すると隣から、すかさず自信満々な声が返ってきた。


『俺が選んだからな』


はいはい、出ましたドヤ顔。

……でも悔しいけど、たしかに、こういうの選ぶセンスはあるんだよね。


見た目はちょっと怖いけど、よく見ると整ってるし、

世間的にはたぶん“かっこいい”ってやつに入るんだと思う。

性格にさえ難がなければ、きっとモテてる……いや、黙ってれば、か。


『うっせえわ』


……あ。声に出てた。


思ってることを無意識に喋ってしまうの、どうにかならないかな。


『俺、モテるけど』


「はいはい」


まさかの返しに苦笑して流す。

どうせ嘘でしょ。こんな無愛想、モテるわけ……ない、と思ってたけど。


コーヒーを飲みながら黙っている蓮をふと見たとき、なんとなく――あれ、ほんとにモテるのかも、って思ってしまった。


だって、蓮はわたしにだけ意地悪だから。

お姉ちゃんやほかの人に接するときは、もう少し穏やかで優しそうに見えるから。


だから、あながち嘘じゃないのかも、なんて。


そう思った瞬間、なんか無性にムカついてきた。

わたしにも優しくしてくれたっていいのに。ほんと、嫌なやつ。


……どうして、こうなったんだっけ。


蓮と仲良かった頃の記憶はちゃんとあるのに、どこからギクシャクし始めたのか、思い出せない。

気づけば、距離ができていた。まるで、知らない間に季節が変わってたみたいに。


きっと、わたしが蓮を嫌いになりきれないのは、たまに見せる優しさのせいだけじゃない。

昔の、大好きだった”蓮”が心にこびりついてるからなんだと思う。


もう戻ってこないって分かってる。

それでも、ふとした瞬間に見せる“あの頃”の面影が、胸に刺さる。


……まあいいや。考えてもどうせ思い出せないし。

たぶん、なんか喧嘩でもしたんだろう。

それをここまで引きずってるなんて、蓮も大人げないなあ。


『人の顔じろじろ見てんじゃねえよ』


蓮がスマホから目を上げて、こちらを睨む。


「見てないし」


慌ててパンケーキに視線を戻しながら、バレバレの嘘をついた。


無表情だけど、ちょっとだけ機嫌悪そうな態度。


たぶん、今考えてたこと、ぜんぶ筒抜けなんだろうな。

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