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最恐護衛  作者: 桃田凜
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01.最恐が護衛になった日

黎桜グループ。


不動産、建設、医療、セキュリティ、金融――

あらゆる分野に手を伸ばし、誰もがその名を知る超巨大財閥。


けれど、その華やかな顔の裏には、誰も口にしないもう一つの姿がある。 


それが黎桜会。


黎桜グループの実態は、力としがらみで裏社会を生き抜く歴史ある極道組織だった。


これは、そんな世界に生まれた、とある少女と

彼女を守るために選ばれた最恐の護衛の物語。


そして、家族の物語でもある。





.

.

.





やくざの娘っていうのは、何もしなくても命を狙われるらしい。


敵対してる組にとっちゃわたしは格好のカモなんだとか。

まあ、そりゃそうだよね。こんなか弱い女子高生、連れ去るのなんて朝飯前だもん。


「だからな……お前に専属の護衛をつけることにした」


久しぶりの外泊許可に浮かれているのか、お父さん(組長)は「いいアイディアだろ!」とまるで子どもみたいに目を輝かせている。


…はぁ。なにがいいアイディアなんだか。病気でしばらく病院にこもりきりだったからって、浮かれすぎでしょ。

元はと言えばこの家に生まれたせいで狙われるんだから、少しは申し訳なさそうにしてくれたっていいのに。


わたしの反応そっちのけでお父さんはうんうん、と頷きながら話を進めていく。


「今までは空いてる奴が交代で見てたけどな、やっぱ誰か一人に任せた方がいいって気づいたんだ。お前もそっちの方が気を遣わなくて済むだろうし、こっちも手間がかからないだろ?」


……この家にいたら嫌でも組の人たちとは仲良くなるから、気を遣うとかないんだけど?

ていうかひとりに任せるって……その人の負担でかすぎでしょ?そのへんはいいの?


呆れて言い返す気にもなれずに黙っていると、お父さんの顔が急に真剣になった。


「それに……裏切り者かもしれねえ奴が護衛してるって思うと正直気が狂いそうでな」


……ああ、そっちが本音ね。

最近組内でスパイがいるって噂もあるし。

うちを潰したいのか、次期組長の座を狙ってるのかは知らないけど──

火のないところに煙は立たない。多分、本当にいるんだろう、裏切り者。


この組は仲間意識が強いから、疑いたくなんてないのにな。


「…それで?誰が選ばれたの?その言い方だともう決まってるんでしょ?...それとも、わたしに選ぶ権利があるの?」


「選ばせてやってもいいが……適任者ってのがいてなぁ…────入ってこい」


お父さんの声が妙に低くて重くなる。それほど真剣なことなのだろう。


って、やっぱり決まってるんじゃん専属護衛。選ばせる気なんて最初からないの、バレバレなんだからね。

まあでも、変な人を選ぶことはないでしょ。組員は仲のいい人が多いし、誰が来たって──


襖がガラッと開いた、その瞬間。


襖の奥にいた”適任者”とやらを見て、わたしは息を呑んだ。

だってそこにいたのは、組の中で唯一わたしが“嫌い”な相手だったから。


「……なんで!?」


我ながらすごい声が出た。

なのにお父さんは楽しそうに笑って、「お前、蓮と仲いいだろ?」とか抜かしている。


「仲良くない!!むしろ大嫌いなんだけど!?いやだ!絶対いや!!」


どれだけ失礼なことを目の前で叫んでも、当の本人──鷹宮蓮はピクリとも反応しない。

お父さんに至っては、わたしの反応を見て楽しんでるし。


「…っ、無理。ほんとに無理!」


「そんなこと言ってやるなよ。お前ら、一緒に風呂も入った仲だろ?」


「それ、わたしが小さいときの話でしょ!?」


──わたしが蓮を嫌ってるのには、理由がある。


普段からわたしと目を合わせない、挨拶しても返ってこない、話しかけたら睨まれる。

たまに返事があったかと思えば冷たい。とにかく態度が最悪。

何を考えてるのか全然わかんないし、喋るのも嫌になるくらい近寄りがたい。


そんなやつが専属護衛とか……地獄でしょ。

四六時中一緒とか無理。耐えられない。怖すぎる。


子どもみたいにお父さんに訴えたけど、返ってくるのは「もう決めたことだ」の一言。


お父さんが蓮を選んだのは、誰よりも信頼してるからだろう。


小さいころに親を亡くして、うちの組に拾われた蓮。


誰よりも忠誠を尽くしてて、実力もトップクラス。

護衛としては、たぶんこれ以上ないくらい適任。……それはわたしにもわかる。


お父さんには返しきれないほどの恩があるって、本人も自覚してるのが普段見てて伝わってくる。

だから、わたしの護衛なんてほんとは嫌でも断れないのだろう。


でもね、お父さん。

あの人、わたしに対してだけ明らかに態度おかしいの。

そんなの知らないから任せられるんでしょ? 


これじゃあ毎日がいじめられてるのと変わんないじゃん。


どれだけ訴えても「仲いいなぁ」で済ませるし。


──あのさ、お父さん。あなたの子ども、蓮じゃないよ?わたしのほうなんだよ?娘がこんなに嫌がってるのにどうしてわかってくれないの?


「じゃあそういうことだから。頼んだぞ、蓮」


お父さんはわたしの声を背にして自室へと消えていった。


2人きりになった瞬間、蓮がやっと口を開く。


『……手間かけさせんなよ』


冷たく見下ろすようなその声に、思わず口をついて出た言葉は


「うっざ」


すれ違いざまにそう吐き捨てる。

本音を言えば、もうこの先の生活が憂鬱で仕方がなかった。


護衛がつくってことは、自由が減るってことだ。

送り迎えだけしてもらえればそれで十分だったのに。

それすらダメなら、せめて碧とか白夜がよかった。


なのに、よりによって蓮。

最悪。ほんと気が狂いそう。


わたしのあとを黙ってついてくる気配。


「屋敷の中ではついてこなくていいから!!」


振り返って怒鳴ると、蓮は眉一つ動かさず、


『ばーか。俺もこっちに用があんだよ』


その一言が、絶望のとどめを刺すには十分だった。


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