表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

隠れんぼ

作者: 神楽健治

金曜日の放課後。

教室には、笑い声と埃の匂いが残っていた。

「マジでやるの? 校舎で隠れんぼ?」

陽太が呆れた声を上げる。

「いいじゃん、面白そうじゃん?」と笑うのは紗季。

「夜の校舎で遊ぶとか青春じゃん?」


軽いノリで始まったのは、6人の“隠れんぼ”。

陽太、紗季、リナ、恵吾、マサト、そして――私。

ルールはシンプル。

「放課後の校舎、1階〜3階まで。

 電気は禁止、見つけたらタッチして名前を呼ぶ。

 鬼は最後にじゃんけんで決める」


「よし、じゃあ鬼は……俺だ」と、恵吾が名乗り出た。

「みんな、3分以内に隠れろよー」

私たちは一斉に、静まり返った廊下へ走り出した。


***


足音を消して、階段を上がる。

2階、3階……人気のない理科準備室の奥に、身を潜めた。

あたりは真っ暗だ。


私は、じっと息をひそめた。

カツ……カツ……

遠くで足音がする。


(……誰か見つかったのかな)


だが、次の瞬間。

廊下の奥から、笑い声が聞こえた。


「見ーつけた、リナー」


その声は、恵吾だった。

けれど、おかしい。

彼の足音は、私のいる方向に来ていない。


(廊下の反対側……?)


がちゃ。

背後で扉が開く音がした。

理科準備室の……奥の部屋?

そんなところに入った覚えは――


「……見つけた」


低く、乾いた声。

誰かがいる。

でも、その声は――恵吾じゃなかった。


***


「いや、マジで怖すぎ」

「おい、陽太どこ行った?」

「マサトもいないよ」


30分後。

職員室前の集合場所には、私と紗季とリナ、そして……恵吾の4人だけ。


「……6人いたよね?」と、誰かが言った。

「陽太とマサトが来ない」

「でも、あのふたりは仲いいし、サボってるだけじゃ?」


スマホを取り出して、連絡を入れる。

……既読にならない。


ふと、リナがぽつりと呟いた。

「……もうひとり、いなかった?」


「は?」

「いや、変なこと言ってるのはわかってるけど……」

「……7人目がいた気がするってこと?」


私の頭にも、なぜか**“誰かがいた気配”**が、うっすらと残っていた。

恵吾は押し黙り、やがて言った。


「……最初に“じゃんけん”したとき、俺、負けて鬼になったんだけどさ」

「うん」

「……その時、7人いたよ。輪になってた」


一瞬、空気が凍った。


リナが、震える声で言った。

「陽太が、鬼って数え間違えたって言ってたよ……

 “6人しかいないのに、7回勝負してた”って……」


***


その夜、学校中を探したが、陽太とマサトは見つからなかった。

そして翌週――


陽太は転校したことになっていた。

マサトはもともと在籍していなかったことになっていた。


私のスマホの連絡帳からも、SNSからも、

彼らの名前はすべて、消えていた。


リナは言った。

「……あの日、私、“名前呼ばれてない”のに、なぜか動けなくなったの」


紗季は言った。

「校舎の鏡に映ってた“鬼”の顔、恵吾じゃなかったよ」


そして、私は――今もときどき、

夜の校舎で、誰かが歩く足音を聞く。


「みーつけた」


その声は、確かに私の名前を呼んでいた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ